球春開幕を告げるアジアゲートウェイ交流戦始まる
近年、実戦重視となったプロ野球のキャンプ。キャンプインから10日も過ぎれば、「練習試合」と称する対外試合が組まれるが、チケットを販売する興行試合としての「オープン戦」を考えると、ここ3年、その始まりを告げるのが、千葉ロッテマリーンズが台湾プロ野球のラミゴ・モンキーズを招いて行う国際交流戦、「アジアゲートウェイ交流戦パワーシリーズ」である。
離島振興としての国際交流戦
ラミゴ・モンキーズは、今や人気、実力とも台湾ナンバーワンを誇るチームだが、名門と言うには歴史が浅い。台湾プロ野球は、1997年、既存の中華職棒連盟(CPBL)と「第2のプロリーグ」として発足した台湾大連盟(TML)に分裂するが、2003年に両リーグの統合が決まると、TMLの2球団、高屏雷公と台北太陽が合併し、「第一金剛」として、中華職棒大連盟と改称したCPBLに加盟した。この金剛が1シーズン限りで身売りし、製靴会社を親会社としたLa Newベアーズとなると、強豪への道を歩み始める。
2006年に初優勝を飾ると、当時行われていたアジアシリーズで準優勝する。そして、2011年に本拠を南部の高雄から国際空港のある桃園へ移すとともにチーム名をLamigoモンキーズと改め、翌年には2度目の優勝を飾り、アジアシリーズでも前回と同じく準優勝に輝いた。その後昨シーズンまで3度の優勝を成し遂げるなど、球団名がLamigoになって以降7シーズンで実に4度台湾チャンピオンとなっている。
この球団は国際交流も積極的に行い、2008年の巨人二軍を台湾に招いての交流シリーズを皮切りに、2014年にはロッテを招聘する。そのような実績もあって、2008年以降石垣島でキャンプを行うロッテとの交流戦を地元自治体が企画したのだ。
石垣島と台湾との距離は沖縄本島との距離より短い。本土から見れば「辺境」である振りを「地の利」とするため、また今流行りのインバウンド需要を喚起すべくアジアへの「ゲートウェイ」として石垣をアピールするきっかけとして始まったのがこのシリーズなのだ。ラミゴの遠征費は石垣市側の持ち出しだが、春節(台湾の旧正月)で台湾プロ野球のキャンプが中断し、メディアの注目も集める中、チャーター機でやってくるファンの観戦ツアーの経済効果が決して小さくはないことは、これを定期便にする動きがあることからわかる。「アジアに開かれたリゾートアイランド」、石垣をアピールするコストとしてこのシリーズがペイできることを自治体も期待している。
台湾でも人気の日本プロ野球
日本のプロ野球は、台湾でも人気だ。Lamigoのスタッフ曰く、「どの球団というこなく人気がある」とのこと。とくにチェン・グァンユウ擁するロッテは、とくに人気のあるチームらしい。この日の第1戦もグァンユウは、台湾のファンに向けてのサービスもあってか、1イニングだけだがリリーフ登板した。代わり端、6番バッターの林承飛にソロホームランを浴びたものの、井口新監督曰く、「紅白戦ではダメだったが、今日は真っすぐがよかった」ととりあえずは合格点をもらったようだった。
大盛況の交流戦
この交流戦を企画した石垣市長の始球式で始まった試合は、時期的に投手陣の仕上がりがまだまだということと、両軍とも若手中心という布陣のため、乱打戦となったが、ファンは大いに盛り上がった。
初回、ロッテは中村奨吾の犠牲フライの間に先制したが、ラミゴは2回にセン智堯のホームランを含む打者一巡の猛攻を見せ5点を取り逆転。それでも、ロッテは4回まで毎回得点を重ねると、5回裏、試合後井口監督が「点が欲しいところで打ってくれた」と絶賛した、当たった瞬間にそれとわかる「アジャ」こと、井上のセンターバックスクリーン直撃の大ホームランで勝ち越し。
その後も、両軍得点を重ね、3点差で迎えた9回表にも、Lamigoはこの回からマウンドに登った東條大樹から2点を奪い1点差に迫るものの、ロッテがなんとか逃げ切った。
白熱する試合の「本気度」は、ラミゴの出場選手中で数少ない主力のセン智堯のフィールディングにも現れていた。5回裏、守備範囲の広さが売りのこの外野手は、ロッテの3番に入った中村のセンターへの大飛球をフェンスに激突しながら好捕。一時は担架が出動する騒ぎになったが、交代はしたものの、自力でベンチに戻ったセンにスタンド全体から盛大な拍手が送られた。
新生千葉ロッテは変われるのか
ファンには楽しめた試合だったが、井口新監督は冷徹な目でこの試合を振り返っていた。「打線はいいかたちにはなっていたと思うが、随所にミスがあった」の言葉通り、初回、先頭打者のルーキー藤岡裕大がいきなりサード戦を破るツーベースを打ち、続く2番清田が右中間を破ったものの、打球がフェンスまで届いたにもかかわらずなぜか1塁で止まり、その後、盗塁死するなど、下位チーム特有の「点の取れなさ」が垣間見れた。
ベンチからはスチールのサインが何度も出ていた上、Lamigo先発のサブマリン黄子鵬を前にして、3塁コーチから「モーションでかいからいつでも行ける」との声があったにも関わらず、足でかき回す攻撃を見ることができなかったことも新監督にとっては不満の残るところだろう。勝ち越しの特大ホームランを打った井上についても、「今年こそやってもらわないと」と言うものの、ファーストのポジションについては確約はしなかった。
また、1番のセン智堯、3番の郭厳文、昨年の台湾シリーズMVPに輝いた4番の陳俊秀以外は、一軍半のLamigo打線に対し9失点を喫した投手陣に対しても、とくにリリーフ陣に関しては、「まだまだ調子が出ていない」とこれからの上乗せを期待していた。
この試合の結果のみで、サブグランドで練習に励んでいる二軍との入れ替えはしないとのことだが、この日サブグランドでは、主力の角中が柵越えを連発していた。彼が開幕戦のスタメンに名を連ねないことは考えられない。この日の交流戦では、新外国人のドミンゲス、前日に契約をしたばかりのペゲーロとも自分の立場が分かっているのか、第1打席できっちり安打を放ち、結果を出した。試合序盤にダイビングキャッチで投手陣を助けたこの日センターに入った加藤も第1打席でツーベースを放ち、レギュラー取りに名乗りを挙げる勢いだ。そう考えると、指揮官の言う通り、清田、井上といった「ロッテの顔」とて、ポジションの保証はない。
ご祝儀の意味もあるのだろうが、今日の第2戦では、この日は終盤の妹がLamigoのチアダンスグループ、ラミガールズの一員でもある、リー(李杜軒、元ソフトバンク)がスタメンで出場との話も聞く。また、地元八重山商工出身の大嶺祐太、翔太兄弟の出場も期待される。
列島寒波の中、「日本最南端のプロ野球」は熱い。
(写真は全て筆者撮影)