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小池百合子氏は、はじまる前に勝っていた?テレビ放映時間から見る都知事選。

境治コピーライター/メディアコンサルタント
小池氏のストーリーは、登庁後も続くだろう。次は誰が損な役回りを演じさせられるか?(写真:Motoo Naka/アフロ)

都知事選三候補のTwitter分析に続き、テレビで放送された時間を比べてみる

昨日、こんな記事を書いた。

→小池百合子氏の勝因は、ネット戦略?Tweet分析から見えてくる真相

都知事選で得票数の多かった三人の候補者、小池百合子氏、増田寛也氏、鳥越俊太郎氏のTwitterの使い方や有権者の反応を分析した内容だ。そこから、ストーリーを構築し有権者を巻き込んだ小池氏が、他の二人より数段上手だったことが見えた。

そこで今度は、テレビの放送時間から三人の候補者を比較してみよう。テレビ放送をデータ化するエム・データ社に依頼し、三人の候補者が取りあげられた番組、コーナーを洗い出してその放送時間を集計してもらった。

各番組の各コーナーで三人の名前が含まれるタイトルがついた部分を抜きだし、そのコーナーが放送された時間を秒数で出していった。その合計を算出するとともに、放送された時間を棒グラフ化してみた。この手法だと、タイトルに名前が含まれずに取り上げられた場合は入らないことになる。だがほぼ、すべてをカバーできているはずだ。

都知事選の立候補の話題が出はじめた6月20日から、7月14日の告示を経て31日の投票日までを集計している。

他の二人を圧倒して告示前から多く放送された小池氏

最初に、小池氏は放送時間の合計が175,534秒だった。まず6月29日の出馬表明を、かなりの時間放送されていたことがわかる。グラフの茶色の部分だ。続いて石原伸晃・都連会長との会談も十二分に放送された。グラフのオレンジの部分だ。14日の告示後より、選挙期間に入る前のほうがずっと放送時間が多いのだ。

データ提供・グラフ作成:エム・データ社 ライフログ総研
データ提供・グラフ作成:エム・データ社 ライフログ総研

もともと知名度が高かった小池氏が、出馬表明から数日間これだけ放送されたのなら、人びとの印象に強く残ったのは明白だ。

印象が薄かった増田氏、あまりにも遅きに失した鳥越氏

では続けて残りの二人を見てもらおう。比較しやすいように、縦横の目盛りを小池氏のグラフに合わせてある。

まずは増田氏だ。放送時間の合計は、39,202秒。小池氏よりずっと少ない。

データ提供・グラフ作成:エム・データ社 ライフログ総研
データ提供・グラフ作成:エム・データ社 ライフログ総研

当然と言えば当然なのだが、増田氏のテレビ露出がいかに少なかったかがグラフで明らかとなった。7月の初めから自民等の候補として名前が挙がりそこそこ取りあげられたが、11日に正式に出馬表明をしても存在感が薄い。データにはないが、石田純一のほうが話題をさらっていた。

結局そのまま選挙戦に突入し、存在感が薄いまま投票日を迎えてしまった。昨日の記事で見た通りTwitterのフォロワー数も6000人台どまりで、テレビでもネットでも薄い存在感のままだった。もともとの知名度の低さをくつがえす策がなかったのが痛い。

次に鳥越氏を見てみよう。放送時間の合計は、56,509秒。

データ提供・グラフ作成:エム・データ社 ライフログ総研
データ提供・グラフ作成:エム・データ社 ライフログ総研

12日の突然の出馬表明で盛り上がり、大きく伸びた棒ができている。だがいかんせん遅すぎた。また告示後の話題づくりも特になかった。むしろ、文春のスクープをテレビがさほど取りあげなかったので、本当に最初だけの露出で終わってしまった。後出しが勝つというジンクスは、ここ何回かだけの特例だったのかもしれない。

出だしのストーリー設定を強く印象づけた小池氏の作戦勝ち

昨日の記事で見てもらった通り、選挙期間中の小池氏は、旧態依然の自民都議連に立ち向かうストーリー設定に、人びとをうまく巻き込んでいった。

それと併せてとらえると、テレビはそのストーリー設定を強く世間に印象づけるために大きなチカラを発揮した。その時点ではまだ味方をするつもりがなかった有権者が、その後の演説やソーシャルメディアを通して、”悪者に立ち向かう”小池氏の戦いに参加する喜びを味わっていったのだ。

そうすると、最初に石原氏と揉めたことから計算していたのではないかと考えたくなる。小池氏のようなベテランなら、内々の打診なしに出馬表明をしたら揉めるのはわかっていたのではないか。悪役を設定するためにわざとやった可能性はある。そうだとしたら、とんでもないしたたかさだ。もっとも、そういうストーリーを描いたにしてもその通り演じ続けるのはそうとうなエネルギーと知略が必要だと思うが。それに「厚化粧発言」で見事に最大の悪役となってくれた石原慎太郎氏の登場はうれしい誤算だったろう。

テレビメディアからソーシャルメディア、そして選挙期間中の演説や握手などの活動まで、小池氏はへたな広告代理店よりずっと巧みなメディア戦術を展開した。最高のマーケッターだと言える。都議会議員の皆さんもへたをすると、いつの間にか悪役を演じさせられるかもしれないので注意したほうがいいと思う。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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