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小池百合子氏の勝因は、ネット戦略?Tweet分析から見えてくる真相

境治コピーライター/メディアコンサルタント
「百合子グリーン」と称し、緑のものを持って来てください、と呼びかけた(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

小池百合子氏の大勝利は、ネット戦術がもたらしたのか?

今回の都知事選の結果を見て多様な感想が飛び交っている。中でも筆者が注目したいのは、ネット戦術の効果だ。ネット選挙解禁後初めてそれが当選に影響したと言う人は多い。

確かにネット上の様々な発言を見ていると、小池氏の好感度が選挙期間中に上がっている気がした。当初は鳥越氏への期待が高かったのが、小池氏優勢にシフトした印象が肌感覚としてあった。選挙戦半ばの23,24日の週末には小池氏が抜きんでてきた印象だ。だがそれが増田氏の組織票や、鳥越氏の野党連携に勝てるのか。

フタを開けてみると、ネット上の印象が組織や党連携を上回った形だ。

では具体的にどんな作用が働いたのか。それをなんとか見える化したい。ポイントはtwitterではないかと、いつも頼りにしているソーシャルメディア分析の雄、データセクション社に相談した。三候補のTweetと、それに対する有権者の反応を取り出してグラフ化してもらった。そこから見えてきたのは、コミュニケーションの基本とでも言うべき姿勢だった。

自身のTweet数、そのRT数では鳥越氏が小池氏を大きく上回る

まず各候補者自身の選挙期間中のTweet数をグラフ化したものだ。

データ提供・グラフ作成:データセクション社
データ提供・グラフ作成:データセクション社

小池氏は国会議員時代からソーシャルメディアを活用してきた。それに対し、とくに増田氏は今回慌ててアカウントをつくったらしい。そう聞くと、小池氏が多くTweetしてそうだが、逆だった。

終盤に向けて慌ただしく鳥越氏も増田氏もTweet数を増やしている。鳥越氏はもう、終わり際は必死にTweetした印象だ。逆に小池氏は余裕とさえ見えなくもない。

続いて、その各候補者のTweetがRetweetされた数をまたグラフにしてもらった。

データ提供・グラフ作成:データセクション社
データ提供・グラフ作成:データセクション社

その結果がまた面白いほど三者三様だ。鳥越氏は終盤に向けてRT数を加速的に伸ばしている。一方増田氏は終始RT数が少ない。その間を小池氏が行く形だ。

増田氏は選挙出馬で急きょアカウントを立ち上げたが、フォロワー数は最終でも6000にしかならず、RTしてもらえる母数がそもそも伸びなかった。

鳥越氏は2010年からアカウントを持っていて選挙期間中にフォロワー数を15万まで伸ばしたので、RTも自身の投稿数に応じて増えている。

小池氏はフォロワー数20万で、そこからするとRT数は少ないように見える。

・・・これを見ると、ネット上では鳥越氏のほうがTweetが拡散され多くの人に声が届いていたはずだ。それなのに鳥越氏は三人の中では得票数がいちばん少ない。おや?ネットは選挙に効かなかった、という結論になるのだろうか?分析で想定していたのと道筋が違ってきてしまった。

Favoriteでは小池氏の圧勝。反応を得ていたのは結局、小池氏

そこで、もうひとつのグラフも見てもらおう。一般ユーザーが各候補のTweetをどれだけFavoriteにしたか、つまり”お気に入り”マークを押したか、その総数のグラフだ。

データ提供・グラフ作成:データセクション社
データ提供・グラフ作成:データセクション社

ここでいきなり小池氏が全体的に上回る。RTされた数は少なかったが、お気に入りに入れられた、つまり有権者が良いと思った数は終始、小池氏が他の候補を上回っていたのだ。ようするに、好感度が高かった。

そしてまた、データセクション社が指摘してくれたのだが、先ほどのRetweet数も個々のTweetに対する数値を見ると、小池氏のほうがずっと多いのだという。

つまり、良いと思われたり、RTで拡散されたりする平均値は、小池氏が鳥越氏を上回っているのだ。レスポンスしたくなるTweetを小池氏ができていた、ということだ。増田氏や鳥越氏のような支援組織がない小池氏の状況を考えると、誰に言われたわけでもなく自然にレスポンスされた数が多かったと言えるだろう。

小池氏は、「ソーシャル上手」だったということだ。

どんなTweetがレスポンスされたのかに、ポイントが

さらにデータセクション社からは、どんなTweetがRTされたか、Favoriteがついたかもデータをもらった。

鳥越氏のTweetでいちばんRTされたのが、これ。

私が都知事になったら東京から250km圏内の原発の停止、廃炉を申し入れます。 https://t.co/gZZ0QJQlpE

RT数は2981、Favorite数は1194。内容的にも鳥越氏を象徴している。これは推測だが、RTが多くても同じような人たちの間でRTが回っていただけでほんとうの意味で”拡散”しなかったのではないだろうか。

一方小池氏のTweetでは・・・

私は東京を文化の発信地にしていきます。コミケ開催地も出版社もその多くが東京にあるのです。東京都が総力を挙げて、コミケを応援します! https://t.co/QF5Iyu2kQM

これがなんとRT数10377、Favorite数4891だ。サリーちゃんコスプレの小池氏の映像はよくテレビでも見たが、豊島区を地盤とする小池氏はアニメのサポーターでもあり、オタク層に受け入れられた。

アニメTweetはちょっと番外的内容で、こんなTweetも紹介したい。

今夜8時参議院選挙の終了とともに、自民党都連への推薦願いを取り下げに党本部へ参りました。14日からの都知事選には推薦なしで出馬いたします。「都議会のドン」やひと握りの幹部による都政運営を改め、都民のための「東京大改革」を進めます。 https://t.co/tnttBcilEw

7月10日、まだ告示前のTweetだが、RT数4334、Favorite数3154と反応も多い。自民の頑なな態度に抗って捨て身で立ち向かう姿勢に支持が集まった瞬間だ。

もうひとつ、これも見てもらいたい。

す、すごい!こんなに多くの皆さんが小池ゆりこ支援にお集まりいただきました。勇気100倍です! 必ず「東京大改革」、都民と共に進めてまいります。#CreateNewTokyo_Yuri #都民が決める #小池百合子 https://t.co/lwoie4HLJD

RT数2393、Favorite数2450。7月16日のTweetだが、政界を牛耳る老かいな男たちに立ち向かったら見る見る支持が広がったことへの感動を書き込んでいる。そしてそんなTweetに多くのレスポンスがついている。

ネットの影響というより、小池氏のストーリーに人びとが参加していった

こうして見ていくと、小池氏のソーシャル戦術には二つの特長が見えてくる。

ひとつは、自民党と都議会の旧態依然たる世界に決然と立ち向かうストーリー構築だ。その凛々しい姿に人びとが共感しているからTweetのレスポンスも大きいし広がる。

もうひとつは、そのストーリーにTweetを通じて有権者を巻き込んでいくやり方だ。先に挙げたTweetも、人びとが集まってきたことに勇気を得たことを明確に表現している。来て良かった!と感じさせるのでレスポンスも大きいのだ。

今回の選挙で、ソーシャルが決定的要因だったとは言えない。フォロワー数20万人、最多RT数1万のTwitterアカウントがそれだけで、200万を超える得票に大きな効果を果たしたとは到底言えないだろう。

しかし、それと日々の演説、テレビでの討論などが有機的に結びついた結果なのもまちがいない。8月1日放送のフジテレビ『ユアタイム』で小池氏の戦術を「SNS+ドブ板」と表現していたが、確かにそうだなと感じた。そう考えると、ネットはいまや選挙の重要なファクターのひとつであると言っていいだろう。

その時に必要なのは、ストーリーと参加をうながす姿勢だろう。個々のTweetを見ていくと、実は具体的な政策にいちばん触れていないのが小池氏だ。他の二人は、実直に自分の政策を打ち出し、自分は正しいから入れてくれと呼びかけているにすぎない。有権者との関係を構築する姿勢が実はほとんどないのだ。政策の議論になっても、保育園を増やすべきだしオリンピックは見直すべきところは見直すと、ほとんど同じことを言う。それよりも、有権者を味方につける物語をふまえて振る舞うことのほうが、大事だったのだと思う。

地方選挙でも、ネット活用は増え、効果も出るはず

一般社団法人ユースデモクラシー推進機構という団体がある。代表理事・仁木崇嗣氏が運営する、地方の若手議員を支援するチームだ。彼らのサポートにより私は、地方議員向けのメディア活用レクチャーを何回かに分けてやってみた。ブログやソーシャルメディアの使い方を、議員向けに解説するものだ。

そこに参加した国立市議会議員の渡辺大祐氏は、私のレクチャーを聴講しつつも「ネットが地方議会の選挙に有効かは疑わしいです」と言っていた。ちょうど都知事選期間中にも講座があり、その時は「このまま小池さんが勝ったらネットの効果を認めます。観念してブログもはじめますよ」と冗談半分に言っていた。案の定、小池氏が勝ったのでどうしたかと思っていたら、さっそく公約(?)通りブログを開設して記事をあげていた。

→ネットがリアルを覆した。「ネット×選挙」が新常識になった都知事選挙。/生意気言ってすみません。

少なくとも今回の都知事選は、ひとりの若い地方議員にネット活用を決意させた。きっと日本中のあちこちで同じように刺激された議員たちがネットを使いはじめるのだろう。その際に必要なのは何か、小池百合子氏から学びとるといいだろう。反応してくれるTweetは何か。みんなが参加してくれる選挙活動はどういうものか。それは結局、政治姿勢そのものかもしれない。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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