「上手い」フォワードから、「恐い」ゴールゲッターへ。FW小林里歌子がWEリーグで見せる新たな真骨頂
なでしこジャパンの絶対的エース、FW岩渕真奈に続く、新たな日本人女子ストライカーの台頭。それは、今後のなでしこジャパンの命運を左右するトピックの一つだ。今季創設された「WEリーグ」から新たなスターが生まれることが期待されているが、日テレ・東京ヴェルディベレーザのFW小林里歌子(こばやし・りかこ)は、その有力候補の一人だ。
今年で24歳になる小林は、10代の頃から高校や年代別代表で常にその名を轟かせてきた。そのセンスの良さは小・中学生の頃から全国の育成関係者の間でも有名で、名門・常盤木学園高校に進学後はAFC U-16女子選手権(優勝)で得点王、U-17女子W杯で世界一に貢献。U-19女子選手権でも最優秀選手に輝いている。高校卒業時には、複数のクラブが獲得競争に乗り出していたほどだ。
その中から日テレ・ベレーザ(現日テレ・東京ヴェルディベレーザ)を選んだ小林は、一昨季のなでしこリーグで11ゴール6アシストを記録。昨季は13ゴール6アシストで得点ランク3位に入った。
フォワードの最重要任務である「点を取る」ことに加えて、前線ならどのポジションでもプレーでき、ポストプレーや守備などの総合的なスキルが高いことが小林の特徴だが、特筆すべきはシュート数に対するゴール決定率の高さ。昨季はリーグトップの40.6%(なでしこリーグ公式サイトより)を記録。40%超えは、2010年のFW荒川恵理子(現ちふれASエルフェン埼玉)以来、実に11年ぶりだった。
【「上手い」から、「恐い」へ】
「シュートはゴールにパスしろ」。小林が中学生時代に叩き込まれたこの教えが、ゴール前で確実にゴールを奪う冷静な判断につながっている。
ただ、「元々、あまり目立つのが好きではなかった」ともいう。周囲を使うプレーに長け、アシストに喜びを感じるタイプだったらしい。とはいえ、なでしこリーグや代表で活躍するためには、どこからでもゴールを狙い、「相手を恐がらせる」FWになる必要があった。
彼女の可能性を見込んでいた周囲もその成長を促した。ベレーザで出場機会を得たのは、加入して3年目の2018年4月。当時、チームを率いていた永田雅人監督(現ヘッドコーチ)は、「小林はボールタッチがしなやかで、急激に角度を変えたり、ドリブルで突破する能力が高い」と、その資質をサイドで生かすことを提案。徹底して「仕掛けるプレー」を求めた。
それまで、「味方を使ってゴールにボールを運ぶ」プレーを選択していた小林の意識は変わり、ドリブラーとしての能力が開花。ゴールから逆算したプレーを選択するようになり、同年9月のアルビレックス新潟レディース戦では、3人抜きのシュートを決めた。その後は、2トップや1トップなど、前線のあらゆるポジションで得点感覚を磨き、持ち前の判断力の良さも輝かせた。
着々と得点力を身につけた小林は、2018年末の代表候補合宿で目を見張るパフォーマンスを見せ、翌年2月にアメリカで行われた「SheBelieves Cup」のアメリカ戦(2-2)で代表デビュー。持ち前の適応力で瞬く間に代表チームにフィットし、同大会のブラジル戦(3-1)、欧州遠征のフランス(●1-3)戦と、立て続けにゴールを決め、2019年夏のW杯メンバーに選ばれている。
だが、日本はベスト16で敗退。小林自身もさしたる結果は残せなかった。強豪国のプレッシャーの中でプレーする難しさを感じ、「個人で打開する能力や、シュートまで持っていく強さをつけないといけない」(19年11月)と、ゴールゲッターとしての自覚を強めた。
そして、プロ選手になった今季。サッカーに集中できる環境に感謝と喜びを感じつつ、結果がすべてのプロリーグを戦うからこそ「1点の重み」も増している。
今季は筋力トレーニングを増やし、練習では力を入れるタイミングや抜くタイミングなど、効果的な身体の使い方を学んできたという。始動から8カ月、その効果は目に見える形で表れ始めている。
9月25日(土)に味の素フィールド西が丘で行われたWEリーグ第3節、サンフレッチェ広島レジーナ戦。小林は先制点を決め、2-0の勝利に貢献した。
球際では、相手より先に体を入れてボールをキープ。背中や腕、肘を使って相手をブロックしながらボールを運び、ユニフォームを引っ張られても動じないプレーは、体幹の強さを感じさせた。ボールを奪われたら、すぐに奪い返す。闘争心を見せつけ、客席を沸かせた。
前半24分。相手陣内中央でボールを受け、力強いドリブルで前進。小林は、右前を走るFW植木理子を視界に捉えながら、ペナルティエリア外から右足を一閃。シュートは広島のディフェンダー2人の間を抜け、176cmの長身GK木稲瑠那も手の届かないゴール左隅に鋭く決まった。冷静な判断や技術とともに、「自分が決める」という責任感も伝わる、パワフルなゴールだった。
「感情を表に出すことが得意ではない」という小林は、これまではゴール後の喜び方も控えめで、味方とのハイタッチ程度に抑えることが多かった。だが、この時は違った。
開幕から2試合勝ちがなく、自身もノーゴールが続いていたこともあるだろう。両手で力強くガッツポーズを作り、大輪の花を咲かせたような笑顔を見せている。
小林の先輩で、近いポジションでプレーするMF中里優は、小林の心情をこう代弁した。
「里歌子は決して、プレッシャーを感じていることを態度や口に出さないのですが、少なからず本人の中には(プレッシャーが)あると思います。その中で頑張る姿を見てきたので、今日の里歌子のゴールはすごく嬉しかったです」
【強い想いを背負って立つWEリーグのピッチ】
一見すると、エリートコースを歩んできたようにも見える小林だが、ケガでさまざまな試練を乗り越えた苦労人でもある。
膝のケガが原因で、2016年にベレーザに加入後、約2年半ピッチに立つことができなかった。同年のU-20女子W杯ではエースとしての活躍が期待されていたが、出場は叶わなかった。
そして今年も大きな「痛み」を味わっている。
東京五輪を数カ月後に控えた今年の春先に、負傷したのだ。幸い、症状は重くはなかったが、3月の代表活動に出遅れたことが尾を引き、五輪メンバー入りは叶わなかった。
「筋肉系のケガです。シーズンの最初だったので、筋トレを増やしたことで負荷に耐えられなかったのかもしれない、という反省はあります。この時期にケガをしている場合ではないのに、(自分は)何をしているんだろう?という思いで代表の試合を見ていました」
再び気持ちを奮い立たせることができたのは、周囲のサポートがあったからだ。そして、数カ月後に迫ったWEリーグの開幕が大きなモチベーションになった。
「(東京五輪代表に選ばれなかったことを)周りの人たちが悲しんでくれて、思っていた以上に自分は応援されていたんだな、と感じました。WEリーグでは、自分のためというよりも、応援してくれる人たちのために頑張ろう!という気持ちで取り組んできました」
小林の話しぶりはいつも穏やかで、多くを語ろうとはしない。だが、我慢強く、強靭な精神力でプロ選手への道を叶えた。大事な試合で負けたり、心を砕くような困難に直面しても、涙を流すのではなく、歯を食いしばって、新たな試練を受け入れ、乗り越えてきた。WEリーグで見せる輝きは、試練の中で彼女が掴んだ「強さ」があるからだろう。
思い出すのはWEリーグ開幕前のことだ。「参考にしているプレーヤーは誰か」と小林本人に直接聞いたことがある。答えは、カリム・ベンゼマ(レアル・マドリード)、ルイス・スアレス(アトレティコ・マドリード)、セルヒオ・アグエロ(バルセロナ)という、欧州サッカー界をリードする3人のセンターフォワードだった。
ベンゼマは、185cmの長身と体の強さと技術を生かしたポストプレーがうまく、自ら仕掛けて決定機を作り、難易度の高いシュートを簡単そうに決める。
スアレスは、相手DFを出し抜く動き出しやこぼれ球への反応など、ゴールへの嗅覚が圧巻だ。鍛え抜かれた筋肉質な体で、相手のコンタクトを受けながらもボールを運ぶ。
アグエロは、173cmで高さはないが、俊敏で強く、相手との駆け引きに長ける。どこからでもシュートを狙い、剛柔自在のプレーでゴールネットを揺らす。
3人とも体が強くてボディバランスが良く、強いプレッシャーをものともしない。個で決められる強さがあるから、相手を恐れさせ、味方を生かすことができる。小林は、ストライカーとしてその「強さ」を追求しているのだろう。
「(FWとしての)タイプは違いますが、得点を取るための動き出しや、強引に(シュートに)持っていく力は自分に足りない部分なので、意識して見るようにしています」
持ち前の「技」に、「心」と「体」の強さを合わせ、相手を恐れさせるゴールゲッターへと変貌しようとしている小林が、今季、つける背番号は「10」。
ベレーザの10番は、伝統的に同クラブの下部組織出身選手に受け継がれてきた背番号だが、小林は同クラブ初の“例外”としてエースナンバーを背負っている。竹本一彦監督が「10番というと、アシストやパスも出せるイメージがありますが、彼女にはゴールゲッターになって欲しいと思っています」と言うように、期待も大きい。
はたしてこれから小林はどんなゴールゲッターに成長していくだろうか。WEリーグはもちろん、なでしこジャパンに欠かせないストライカーとして台頭することを期待したい。