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うろたえ、目が泳ぎ、言うことがころころ変わる菅総理の初予算委員会

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(544)

霜月某日

 アメリカ大統領選挙はまだ確定していないが、民主党バイデン候補の勝利は間違いないと思う。トランプ大統領は敗北を認めず法廷闘争などで活路を見出そうとしているが、バイデンが歴史上最多の得票数を獲得したうえ、トランプに400万票以上の差をつけたのだから巻き返しは難しいと思う。

 トランプが敗北を認めず、決着が年を越すようなことになれば、そのことに対する批判が起きてトランプはますます窮地に陥る可能性がある。どこかのタイミングで撤退を模索せざるを得なくなるとフーテンは思う。

 共和党は上院で過半数を超えることが確実になったので、共和党にとっても異端のトランプとこれ以上運命を共にする必要もない。むしろトランプ後の戦略を構築することが急務なのではないか。

 ところで米国は11月4日にトランプ大統領の方針通り正式にパリ協定から離脱した。しかし来年の1月20日にバイデン大統領が就任すれば、直ちにパリ協定に復帰することになる。それは所信表明演説で「2050年脱炭素宣言」をした菅総理にとっては好機となる。

 フーテンは菅総理の所信表明演説を聞いて「菅総理はバイデン勝利を確信しているのか?」とブログに書いた。「トランプが聞いたら極左と批判しただろう」とも書いた。菅総理にとってバイデン勝利は追い風になると思う。

 ところが世界が米大統領選挙に揺れた11月の1週目、日本では菅総理が初めて衆参予算委員会で野党の追及を受けた。本会議場で行われる代表質問と異なり、予算委員会は一問一答方式だから受け答えの難しさのレベルが違う。かつて田中角栄元総理はフーテンに「総理として最も緊張するのは予算委員会だ」と語った。

 その予算委員会で菅総理は日本学術会議の6名拒否について質問されると、これまでのどの総理にも見られない特異な反応を示した。うろたえ、目が泳ぎ、ぼそぼそと何かを言うが、それがころころ変わるのである。日本学術会議の6名拒否問題はますます理解不能な闇の世界の話になった。

 中でも印象的だったのは、4日の衆議院予算委員会で立憲民主党の辻元清美議員の質問に答えた時である。辻元氏は日本学術会議が推薦してきた105名の名簿を菅総理が見ていないことを確認したうえで、「99名の名簿を決裁した時に今回は6名外したという話を聞いたのか」と質問した。すると菅総理は「聞いていない」と答えた。辻元氏は「6名外したことをいつ知ったのか」と質す。菅総理はすぐに答えられず考え込んだ。

 自らの方針に基づいて6名を外したのであれば考え込む必要はない。6名全員の外した理由を言えるはずだ。それを言えずに考え込むのは「想定問答」を思い出そうとしているように見えた。ところがそれを思い出せないのは自分が納得できる「想定問答」ではなかったからだ。しかし責任は自分で取ることだけは決めている。フーテンにはそう見えた。

 そして辻元氏に対し菅総理は官僚が書いた原稿を朗読し始めた。「学術会議が名簿を出してきたのが8月31日で、相談を受けたのは9月16日に総理になってから。私の懸念を官房長官や官房副長官を通して内閣府に伝えた」と言う。辻元氏は「じゃあ6名の名前は決裁した後のニュースかなんかで知ったのか」と問い返す。

 すると官僚からメモが菅総理に渡され、総理はまたそれを読み始める。そこで初めて「決済する前に説明を受けた」と答弁が変わる。辻元氏は「えっ!誰から聞いたの」となる。菅総理は「多分、杉田副長官です」と答える。辻元氏が「では誰が6名を外したのか」と聞くと、菅総理は「任命権者は私ですから」と言って、誰かをかばう。

 辻元氏が「杉田副長官が外したのか?」と質問すると、「最終責任者は私ですから」と言って自分が矢面に立とうとする。この間、自分の意志ではなかったかのように言いよどみ、また自分の知らないところで決められたことを、それでも自分が責任を取らなければならないと考えているかのような答弁が続いた。

 菅総理が内閣府に伝えた「懸念」は、本人が何度も口にしている「民間出身者や若手が少なく、出身大学に偏りがあり、多様性が大事」ということだと思う。それを内閣府に伝えたらその結果が6名拒否だった。しかも拒否された6名の中には50代の若手がおり、出身大学も3人は私立大学だった。菅総理の「懸念」はまったく考慮されていない。

 参議院予算委員会ではさらに答弁が出来なくなる事態が起きた。菅総理は5日の予算委員会で自民党の二之湯智議員に対し、「以前は推薦名簿が出される前に内閣府の事務局と日本学術会議の間で一定の調整が行われていたが、今回は推薦前の調整が働かず、任命に至らないことになった」と答弁した。

 菅総理は安倍政権下の2017年の任命の際には推薦前に「調整」があったという新たな事実を明かしたのである。これを6日の予算委員会で共産党の小池晃議員が問題にした。「調整」とは何か。推薦名簿を出させる前に日本学術会議の人事権に政府が介入したのではないか。それは日本学術会議法に違反する違法行為ではないかと質した。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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