Yahoo!ニュース

桜がまた芽吹き国会で安倍前総理が繰り返した嘘を白日の下に晒した

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(549)

霜月某日

 桜がまた芽吹いた。東京地検特捜部が安倍前総理の公設秘書らを「桜を見る会」の前夜祭を巡る疑惑で事情聴取を行い、安倍氏側が会費の補填を行っていたことが明らかになった。安倍前総理は国会で「補填は行っていない」と全否定していたが、それがまるで嘘だったことが分かった。

 安倍前総理の周辺からは「秘書が安倍氏に嘘の報告をしていた」と、あたかも安倍前総理が秘書に騙されていたような情報が流されているが、そんなことを東京地検特捜部が信ずるとすれば、検察に対する信頼は粉々に砕け散るに違いない。

 秘書は初めから政治資金収支報告書に記載する気がなかった。記載すれば小渕優子衆議院議員と同様に政治資金規正法違反で訴追されることになるからだ。小渕優子後援会は2007年から毎年群馬からバスを連ねて上京し、明治座で観劇する催しを行っていた。それをきちんと政治資金収支報告書に記載していた。

 報告書を見れば会費収入より支出の方が多いのが分かる。つまり収支の差額を小渕事務所が補填していた。それを誰かが週刊新潮にリークし、東京地検特捜部は捜査に乗り出さざるを得なかった。この時は父親の代からの秘書が政治資金規正法違反で起訴され有罪判決を受けた。

 しかし公職選挙法は有権者に対する「寄付行為」を禁止しており、この場合も小渕優子議員は買収容疑で訴追される可能性があった。そうなれば議員辞職に値する。この時は例の黒川弘務前東京高検検事長が裏でシナリオを書き、大ごとにならないように取り計らったと言われる。

 小渕優子事件は政治資金収支報告書に真面目に記載したから起きた。だから安倍事務所は意図的に記載しなかった。そしてこちらは税金を使う公式行事に後援者を招待するのだから観劇よりスケールが大きい。検察が総理を訴追することなどありえないと考え、それで押し通せると思ったのだろう。確信犯でより悪質である。

 それを秘書だけが知っていて安倍前総理が知らないというのはあり得ない。知らないことにしていざとなれば秘書が罪を被るということだ。しかも小渕優子事件より問題なのは国権の最高機関である国会で安倍前総理が嘘をつき続けたことである。

 安倍前総理は誰が聞いても嘘と分かる話を堂々と繰り返した。前夜祭のパーティの主催は安倍後援会であるのに、「秘書に確認したところ、安倍事務所は参加者がホテルに支払う仲介をしただけで、参加者とホテルが契約したことになり、政治資金報告書に記載する必要がなかった」と言った。

 なぜ会費が安いかについても「参加者がホテルに宿泊するのでホテル側の判断で料金は設定された」と、あたかもホテルがパーティの主催者であるかのように言い、さらに「自分はゲストだからホテルに料金は支払っていないし、安倍事務所の人間は誰も飲食のサービスを受けていない」と言い逃れた。

 しかしそれらの発言はすべて嘘である。国権の最高機関である国会で嘘をつき続けた最高権力者が、権力の座を降りた途端、その嘘が白日の下にさらされたというのは、歴史に残る大スキャンダルだと思う。

 フーテンは今年5月に「総理を辞めると手が後ろに回る政治家」というブログを書いた。安倍前総理が検察庁法を改正し黒川弘務前東京高検検事長を検事総長に据えようとしていたからだ。コロナ禍で国民がみな不安を感じている時に、無理筋の人事を強行するのは尋常ではない。安倍前総理は相当に追い詰められていると想像した。

 それは総理在任中ではなく、総理を辞めた後の心配がそうさせている。フーテンがそう思うのは、総理を辞めたために逮捕された田中角栄元総理と、辞めた後に逮捕されないよう周到に準備し、「禅譲」という手法で後継の権力者を意のままにした中曽根元総理を直接取材した経験があるからだ。

 田中角栄氏は総理を辞めたからロッキード事件で逮捕されたと考えていた。辞めていなければ逮捕されることはなかった。それが角栄氏の考えである。辞めた理由を世間は金脈追及と思っているが、実はそうではない。娘の真紀子氏の懇願に負けたのである。理由は愛人である佐藤昭子氏が国会に証人喚問されていた。それを娘は許さなかった。

 角栄氏は自分の年齢を考え、辞めてもまだ総理に返り咲けると思ったが、辞めた途端に思いもよらぬ冤罪が襲ってきた。政敵である三木総理の差し金で検察が動き、ロッキード事件の主犯として逮捕されたのである。

 ロッキード社の秘密代理人は児玉誉士夫で、それと最も近い政治家は中曽根康弘氏だったが、検察は児玉ルートの捜査を行わず、対潜哨戒機P3C導入を巡る疑惑は封印された。児玉ルートの捜査が行われていれば逮捕されたのは中曽根氏のはずだった。だから角栄氏は中曽根氏を総理にして自分を無罪にするよう圧力をかけた。

この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。

「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバー 2020年11月

税込550(記事6本)

※すでに購入済みの方はログインしてください。

購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。
ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

田中良紹の最近の記事