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男子バレー世界選手権、カタールに快勝の日本代表。最も印象に残った山内晶大の「あの1本」

田中夕子スポーツライター、フリーライター
ミドルブロッカーの山内晶大。二度目の世界選手権を戦う(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

フェイクセットからミドルを選択した石川祐希

 日本が2セットを連取して迎えた第3セットの終盤だった。

 カタールのサーブを石川祐希がレシーブし、ややパスの返球位置が乱れたボールをセッターの関田誠大が処理し、西田有志がレフトから返す。カタールのチャンスボールとなったが、相手の軟打を関田がレシーブ。コート中央に上がった2本目のボールをトスにすべく、後衛から石川が走りこむ。

 おそらく東京五輪の前ならば、シンプルに考えれば石川がトスを上げ、前衛の西田か髙橋藍に上げるだろう、と予測するのだが、もう1つ、いや2つの選択肢がよぎる。

 このまま石川が打つかもしれない。

 いやいやこのシーンは打つと見せかけたトス、フェイクセットだろう。

 関田のふわりと絶妙な高さ、位置への返球を石川はどうするか。後衛中央から走り込み、打つ、と見せかけて選択したのはすぐ左隣にいた山内晶大へのBクイックだった。

 結果的にこの1本は直接得点につながらず、ラリーの後で西田が放ったスパイクが日本の19点目となったが、相手を惑わすだけでなく、味方も見る者も惑わす。何より「この選択肢があったか!」と思わずうならされ、笑顔で「ブラボー!」と叫びたくなるようなフェイクセット。

 まさにバレーボールの面白さを伝える1本は、この試合で放たれた数多くのスパイクの中で最も強く印象に残った1本だった。

攻撃準備をする山内「考えられなかったことが当たり前になった」

 遊び心に溢れた石川の選択や、絶妙な場所に返球した関田の技術と判断力もさることながら、特筆すべきは山内が「上がってくるかもしれない」と予測してこの場面で攻撃準備をしていたことだ。

 そこには、つながる伏線がある。

 Vリーグのパナソニックパンサーズでも、同様のシーンは幾度もあり、山内に攻撃準備や攻撃参加の意識の変化をたずねたことがあった。

 山内の答えはこうだ。

「(前ポーランド代表主将のミハウ)クビアクが来てからです。ラリー中でも使えると思えばどこにでも(トスを)上げてくるし、打てると思えば自分が入ってくる。その時々で状況判断しないといけないし、上がってきた時に(攻撃へ)入っていないとめちゃくちゃ怒られる。怒られるからやるっていうわけじゃないですけど(笑)、どこで上がってくるかわからないのは正直難しいけど楽しい。考えられなかったことが、今ではどんどん当たり前になった、という実感はあります」

 石川や西田、関田が海外で個のレベルアップを求めただけでなく、日本で戦う選手たちもクビアクを筆頭に、世界のトッププレーヤーと共にコートへ立つ中で多くの刺激を受け、意識と技術が変わる。そしてその成果は今季最も重視する大会でもいかんなく発揮されたのが、あの1本だった。

 どれほどのキャリアを持つ選手でも、世界選手権や五輪、大きな国際大会の初戦は緊張も伴う。だが日本代表の初戦では、そんな緊張など微塵も感じさせない、どの選手が出ても変わらぬ堂々たる戦いぶりを見せ、なおかつバレーボールを楽しむ。そして勝つべき相手にストレート勝ちを収めた。

 まさに“当たり前”のレベルが上がった、と証明する、これ以上ない初戦の勝利をつかみ、次戦は28日、ブラジルとの対戦が待っている。

 次はどんなプレーが飛び出すか。楽しみは増すばかりだ。

フェイクセットから息の合ったコンビを見せた石川(左)と山内(右)。ブラジル戦もどんなプレーが飛び出すか。期待が高まる
フェイクセットから息の合ったコンビを見せた石川(左)と山内(右)。ブラジル戦もどんなプレーが飛び出すか。期待が高まる写真:YUTAKA/アフロスポーツ

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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