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「日本の男子バレーは弱くない」新たな歴史を刻む、ネーションズリーグ初の銅メダル獲得!

田中夕子スポーツライター、フリーライター
ネーションズリーグで銅メダルを獲得した男子バレー日本代表 ※写真は昨年の大会(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

フルセットで世界王者のイタリアに勝利 

 悲願のメダル獲得。最後の1点を決めたのは、主将の石川祐希だった。

 前衛レフトからのスパイクがイタリアのブロックを弾き飛ばし、15点目をもぎ取ると、選手たちはコート内で歓喜の輪をつくった。

 国際大会でこんな光景が見られる日が来るなんて。

 決して大げさではなく、思わず目頭が熱くなる。これまで嫌というほど、飽きるほど「弱い」「勝てない」と言われ続けてきた男子日本代表が、世界大会で表彰台に上がり、メダルを手にする喜びを全身で表現している。

 試合直後のコートで、国際映像のインタビューに応じた石川は興奮を隠さず、声を弾ませた。

「しっかりメダルを取って日本に帰ることができる。いいニュースを届けることができて、とても幸せです」

勝利を引き寄せた宮浦のサーブ

 5月30日に愛知・名古屋で開幕した予選ラウンドから見せ続けた「誰が出ても強い」「各々の役割を果たす」日本代表の強さを最後まで発揮した。

 ポーランド・グダニスクで行われたネーションズリーグファイナル、3位決定戦。開催国で世界ランク1位のポーランドに1対3で敗れてから、24時間しか経っていない中で迎えた23日(日本時間24日0時)の一戦。心身のコンディションを整えるには決して十分ではなかったであろう中、日本は第1セットからサーブで攻め、主導権を握る。

 リベロの山本智大がつなぐレシーブから、複数のアタッカーが攻撃準備の助走に入り、セッターの関田誠大がコンマ数秒の時間で相手のブロックを確認し、その時々でベストだと考える攻撃を選択する。理想的な展開で1、2セットを連取したが、第3セットからは昨年の世界選手権覇者であるイタリアがサーブ&ブロックで主導権を握り、3、4セットを奪取。

 どちらに転んでもおかしくない、むしろ2セットを取り返したイタリアに分があるのではないかと思われた最終セットの立ち上がり。日本に流れと勢いをもたらす、これ以上ない1点を叩き出したのはオポジットの宮浦健人だった。

 最終セットは15点先取。まず主導権を握るべく、サーブから始まる第5セット。この試合で初めて、日本はこの試合で6本のサービスエースを叩き出している宮浦のサーブから始まるローテーションでスタートした。

 そして、宮浦が完璧な形で期待に応えた。

 高いトスから、最高打点で放ったサーブがイタリアコートのエンドライン付近にノータッチで刺さるサービスエース。待望の1点目をブレイクで先行すると、4対3と日本が1点をリードした場面から今度は宮浦、山内の連続ブロックで6対3とリードを広げる。

 さらに山本の好レシーブから石川がバックアタックを叩きこみ、石川のサーブで崩したところを髙橋藍が決め10対4。相手に取られてもまた流れを引き寄せる強さを見せつけた。

 国際映像のインタビューで「(第5セットは)自分たちのエナジーをコートに持ち、発揮することで勝つことができた」と話した石川は、何度も「本当に嬉しい」と繰り返しながら、こうも言った。

「お互いを信頼していました。チームメイトにありがとうと言いたいです」

勝負所でサーブ、スパイクで得点、大会を通して存在感を残した宮浦 ※写真は昨年の大会
勝負所でサーブ、スパイクで得点、大会を通して存在感を残した宮浦 ※写真は昨年の大会写真:YUTAKA/アフロスポーツ

「変化」と「自信」をもたらしたブラン監督

 抱き合い、走り回り、その場でピョンピョンと跳び上がる。それぞれが、感情の赴くままに喜びを噛みしめる中、勝利の瞬間、両手を強く握りしめ、叫んだのが昨年からチームを率いるフィリップ・ブラン監督だ。

 選手、スタッフと抱き合い、画面越しにも音が聞こえるのではないかと錯覚させるような強いハイタッチを交わし、集合写真の中央で満面の笑みを浮かべた後、メガネを外し、そっと涙を拭う仕草も見せた。

 現役時代はフランス代表として活躍、引退後は母国やポーランド代表で監督、コーチを務めた名将が日本代表のコーチに就任したのは17年。前年にはリオデジャネイロ五輪の出場権を逃している。変化と成果を出すことが急務であることを受け止めながらも、コーチ就任当初のインタビューでブラン監督は「時に我慢しながら、じっくり待てば選手たちは変化を受け入れ、成長する。そしてそれを助ける役目を果たすために、私はここにいる」と述べた。

 あれから6年の月日が経ち、今日本代表で戦う選手たちは変化もチャレンジも恐れず、どんな相手にも正面から立ち向かう強さと自信を得た。

 もちろん今この場に立つ選手たちだけでなく、これまでこの場に立ち、立とうとチャレンジしてきたすべての選手たちも同じだ。

 連戦と移動が伴うネーションズリーグは出場国のすべてが常にベストメンバーで臨むわけではなく、むしろこの後開催される欧州大会に照準を置くチームも決して少なくない。そして言うまでもなく、すべてのチームにとって最も重要なのは、今秋開催されるパリ五輪の出場をかけた予選だ。

 まだ通過点と考えれば、喜ぶには早いかもしれない。だがこれまでの長く、時に暗かった日本男子バレーが歩んできた道のりを振り返れば、格別の喜びがある。むしろこれほど、新たな時代が始まる高揚感と共に得られた結果を、喜ばずにいられるはずがない。

 目指す場所は、もちろんまだまだもっと先にある。満足はしない。でも、確実にここから――。

 男子バレー日本代表が、重い扉をこじ開け、大きく、新たな一歩を踏み出そうとしている。

昨年から今年、1年で大きくステップアップを遂げた ※写真は昨年の大会
昨年から今年、1年で大きくステップアップを遂げた ※写真は昨年の大会写真:YUTAKA/アフロスポーツ

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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