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ハドソン研究所の石破論文について ①

佐藤丙午拓殖大学国際学部教授/海外事情研究所所長
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

○「ハドソン問題」について

 2024年10月1日に、石破茂氏が首班指名を受け、第102代の総理大臣に就任した。

 石破総理をめぐっては、自民党総裁選挙で総裁に選出された直後から、総理がハドソン研究所に寄稿した論文(以下石破論文)が注目を集め、多くの議論を呼ぶものとなった。

 本コラムは、石破論文の内容を検討するものではない。内容については、多くの安全保障研究の専門家によって批判され、その提言内容の問題点が指摘されている。また、ここではその修正を提案するものではない。既に日本の首相に就任した政治家の言葉は世に出てしまっており、それを修正撤回することは、石破首相の言葉自体の信頼性を損なうものにつながる。

 重要な点は、ハドソン研究所への寄稿文のどこが問題であり、政策面での軌道修正を図る上で、石破首相が今後何を考慮すべきかについて論じるものである。

写真:代表撮影/ロイター/アフロ

○政治家が主張すべきもの

 政治的影響力と地位を持つ政治家にとって、使用する言葉は極めて重要な意味を持つ。その国の方向性に注目する聴衆は、それは国民や外国の聴衆であっても、政治家が発する言葉を通じて、彼らが推進する政策を理解する。つまり、政策の方向性は政治家の言葉によって規定される。したがって、政策を司る政治家は、言葉を軽く扱ってはいけない。

 特定の聴衆向けに派手で目立つ言葉を使用する政治家は多く、あえて刺激的な表現を使用して相手の反応を試そうとする政治家も多い。それは、政治の技法として意味がある場合もあるが、その技法が及ぶ範囲と影響を慎重に考える必要がある。

 石破首相の寄稿文は、日本の新指導者の誕生が国際的に注目され、さらに首相が安全保障に精通するとの評価を受ける中、これまでの安倍・菅・岸田路線の継続か、それとも反主流派として直近の数年の政治生活を過ごしてきた石破首相が、ついに政治の頂点に到達して、異なる政策を打ち出すかという点にも注目が集まる中で発表された。さらにそれは、日本の安全保障政策にとって重要なパートナーである米国の首都、それも政策研究で優れた業績を持つハドソン研究所から発表された。いわばこれは、石破首相の国際舞台への登場であり、なおかつ米国や世界に向けたメッセージの意味があった。

 このような文脈がある中で、果たして石破論文は、そのような注目に耐えうるものであったのだろうか。

(続く)

拓殖大学国際学部教授/海外事情研究所所長

岡山県出身。一橋大学大学院修了(博士・法学)。防衛庁防衛研究所主任研究官(アメリカ研究担当)より拓殖大学海外事情研究所教授。専門は、国際関係論、安全保障、アメリカ政治、日米関係、軍備管理軍縮、防衛産業、安全保障貿易管理等。経済産業省産業構造審議会貿易経済協力分科会安全保障貿易管理小委員会委員、外務省核不拡散・核軍縮に関する有識者懇談会委員、防衛省防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会委員、日本原子力研究開発機構核不拡散科学技術フォーラム委員等を経験する。特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の自律型致死兵器システム(LAWS)国連専門家会合パネルに日本代表団として参加。

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