日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞について①
○被団協のノーベル賞受賞について
2024年のノーベル平和賞は日本の日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が受賞した。
被団協は1956年に設立された団体で、広島・長崎の被爆者により日本全国の都道府県に設立されている被爆者団体が加盟する全国組織である。被爆者団体は全国に存在していたが、会員の高齢化等の理由により、現時点で参加団体がない地方自治体も存在する。
被爆者団体と原水爆の禁止運動には密接な関係があるが、禁止運動自体は党派性が強い政治運動に転化しており、被爆者の生活等に関わる支援運動や政治活動、被爆の実相の伝承や啓蒙活動の実施を活動目標とする被団協との間には、重複する分野もあるが、相違も存在する。
日本国内では、反核運動の政治性に嫌悪感を持つ人も多く、被団協に所属する団体の一部に対して厳しい目が向けられているのは事実である。しかし、被団協が被爆者の声を集め、彼らの主張を政治運動へと発展させた功績は大きく、その声は被爆の実相を伝える貴重な「一次資料」となっており、活動自体には敬意を向けられてきた。
その意味で、今回のノーベル賞受賞はこれまでの活動の蓄積に対する評価であり、素直に歓迎すべきなのである。
○ノーベル平和賞と被団協
被団協の平和賞受賞を、政治的な文脈で考えてみよう。まずノーベル平和賞は特別な賞であることを理解すべきである。平和賞は他の分野の賞とは違い、スウェーデンではなく、ノルウェー政府が授与者である。この点について、ノルウェーの専門家から、スウェーデンは好戦的な国であり、平和を語る資格がないため、と解説を受けたことがある。
それが事実かどうか、それとも単なる冗談だったのか、今になっては検証の方法がない。ただノーベル財団の判断には、政治的な意味合いが強く込められることには、多くの意見の一致があるように感じる。特にそれは、近年受賞者の特徴を見ると明らかになる。どこを起点にするかにもよるが、平和賞は、人権、開発、国連(国際組織)、軍備管理軍縮、民主主義、そして政治的成果などの分野ごとに受賞者が選定されている。過去の例を見ても、分野が連続して受賞というのは少ない。
軍備管理軍縮分野は2000年以降5回受賞しており、2005年(IAEAとエルバラダイ)、2009年(オバマ大統領)、2013年(化学兵器禁止機関)、2017年(ICAN)、そして2024年(被団協)となる。他の分野の数もほぼ同じであることを考えると、ローテーションで決定されるわけではないが、受賞サイクルが約5年となる。市民社会団体は約5年ごとに巡ってくるチャンスを狙って活動を進めており、それぞれの分野の関係者(特に市民社会団体)は受賞者発表時期になると、大いに気を揉むことになる。
軍備管理軍縮分野では、核兵器関連の問題に授与される事例が多く、通常兵器分野の受賞は1997年の地雷禁止国際キャンペーンとジョディ・ウィリアムズのケースがあるのみである。核兵器の廃絶等が達成可能で現実的な問題だとは思えないが、2017年のICANは核兵器禁止条約の成立に向けた啓蒙活動が評価され、通常兵器の地雷禁止国際キャンペーンと合わせて、その活動方法は市民団体の一つのモデルになった。
この二つの事例は、市民社会活動が国際政治に重大な影響を与える例として紹介される。つまり、社会の規範が政治を動かす、というものである。実際には、社会の規範が政治に影響を与えるためには多くの「作業」が必要であり、前述の二つの市民社会運動を近くで見ていた研究者として、「綺麗事」を主張すれば世論が変わるというものではない現実は強調しておきたい。
その意味で、被団協の平和賞受賞は、被爆の体験者が実相を伝えるという地道な啓蒙活動が評価された事例として、歓迎し、また評価すべきものである。ただ、被団協の活動は、国内の被爆者に対する国の法的支援を獲得し、その支援対象を拡大するという成果を上げているが、国際条約などの成果「物」は達成していない。つまり、今回の平和賞受賞は、活動そのものに対して授与されたものと理解すべきなのである。