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元大関・栃ノ心が相撲博物館トークイベントに登壇「日本に来てよかった」「これからも仲良くしてください」

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
トークイベントに登壇した元大関・栃ノ心のレヴァニ氏(写真:すべて筆者撮影)

大相撲秋場所9日目。5月場所中に現役を引退した元大関・栃ノ心のレヴァニ・ゴルガゼ氏が、スーツ姿で両国国技館に足を運んだ。同部屋の岩友親方(元幕内・木村山)と清見潟親方(元関脇・栃煌山)と共に、相撲博物館でのトークイベントに臨むためだ。集まった多くのファンの前で、約17年間の土俵人生を和やかな雰囲気で振り返った。

仲のよさがにじみ出るトークイベントの様子

3人のなかで一番先輩の岩友親方にいじられながら清見潟親方がふんわりと進行するスタイルで、事前に集めたファンからの質問に答えていくレヴァニ氏。ちなみに3人に聞けば、事前の打ち合わせは「一切やっていません(笑)」。ぶっつけ本番でもうまくできてしまうのは、このトリオの長年の信頼関係があるからこそ。

レヴァニ氏は、印象的な一番を聞かれ、新十両を決めた磋牙司戦を挙げた。2007年の九州場所だった。

「関取になったら世界が変わる。その節目になった一番だったので、よく覚えていますね」

「そのとき、僕も同時に新十両を決めたんですよ」とは岩友親方。「もう16年も前になるのか」と、感慨深げに当時を振り返った。

レヴァニ氏を立て、清見潟親方をいじりながら進行する岩友親方
レヴァニ氏を立て、清見潟親方をいじりながら進行する岩友親方

大関に上がる頃は「日に日に強くなっている感覚があって楽しかったですね。相撲は勝たないと楽しくない」と振り返るレヴァニ氏。同時に、清見潟親方は「レヴァニのことを応援しつつ、悔しい気持ちがありました。自分も上に上がりたかった」と正直な気持ちを吐露した。

終始楽しそうに場を盛り上げてくれた清見潟親方
終始楽しそうに場を盛り上げてくれた清見潟親方

普段はとても仲がよく、「一回もケンカしたことがない」というレヴァニ氏と清見潟親方だが、稽古場では互いに熱くなり、にらみ合って壁をたたきながら激しい稽古をしていたという。レヴァニ氏は、引退した現在も、毎朝6時半にはまわしを締めて稽古場へ下り、四股を踏んだ後、碧山らを含め若い力士にまで胸を出しているというから驚きだ。

「辞める前は体重が197kgまで行きました。もうそんなに必要ないから、痩せるため、自分の運動のためにもなります。いまは160kgないくらいです。それに、いつも稽古で厳しくしてもらうと、終わった後の『今日もやったな』っていう気持ちよさがあった。それが好きでした。いまの子たちに、そういう熱い気持ちをもつことの大切さをどう伝えていくか。気持ちが一番ですからね」

両親方による笑いとレヴァニ氏の落ち着いた語りで、終始会場は穏やかなムード。ファンサービスも充実して、約1時間のトークイベントは無事終了した。

最後はじゃんけん大会でサイン色紙などの栃ノ心グッズをプレゼント
最後はじゃんけん大会でサイン色紙などの栃ノ心グッズをプレゼント

四股名の通り「心」のある人間

イベント終了後、3人にあらためて話を聞いた。

――トークイベントお疲れさまでした。いかがでしたか。

清見潟親方 この3人でできたので楽しかったです。いい空気でよかったですね。

レヴァニ(栃ノ心) 楽しくやれましたね。どんな話をするのか、何も知らないで来たんですけど(笑)、コロナの規制が緩くなって、ファンの人と交流ができてよかったです。

岩友親方 今回はレヴァニがメインでしたから、あとはとにかく雄一郎(清見潟親方)のよさを生かすことだけ考えていました。

清見潟親方 てっきり岩友親方が司会だと思っていたので、急に振られてびっくりしました(笑)。

イベント終了後のレヴァニ氏と清見潟親方。博物館に展示された互いの化粧まわしの前で
イベント終了後のレヴァニ氏と清見潟親方。博物館に展示された互いの化粧まわしの前で

――レヴァニさんは引退後、一度解説席にいらしたこともありましたが、お客さんの目線でお相撲を見るのはいかがでしたか。

レヴァニ 自分の相撲よりドキドキしましたよ(笑)。

清見潟親方 緊張するよね、わかるわかる。

レヴァニ あと、人がめっちゃ来るよね。目を合わせていいのかどうか、どこを見ればいいかわかんなかったですね。

――皆さんの現在の交流は。

清見潟親方 まったく何も変わらず。(レヴァニの)家にも遊びに行きますし。

岩友親方 土俵でレヴァニの姿を見られないことに寂しさはありましたけど、これからも長い付き合いになるだろうなと思っています。

――来年2月4日に引退相撲を控えていますが、こうしてすでに経験されている親方が身近にいるのは心強いですね。

レヴァニ そうですね。大変だよって言われてきたけど、思っていた以上に大変ですね。まだまだこれからですけど。

清見潟親方 一回しかできないことだけど、一回やるともっとこうしておけばよかったって思うことはあるんですよね。協力してくれる方々には、レヴァニが足を運んでお願いすれば、今後もよりよい関係が築けるし、大変ですけど頑張った分だけ自分のためになるので、いいことしかないよねっていう話はずっとしています。

岩友親方 レヴァニはその四股名の通り「心」がある人間です。たとえ親方に怒られてもすぐにその真意を理解したし、まだ日本語がわからなかった頃も、買ったチョコレートをみんなに配って、自分は最後に残った1つだけ食べるような子です。優しい心と素直さがあるので、これからもみんなに愛されるだろうと思います。

岩友親方は最後にレヴァニ氏の引退相撲をアピール
岩友親方は最後にレヴァニ氏の引退相撲をアピール

2月4日の引退相撲のチケットは、九州場所初日の11月12日(日)より販売開始。レヴァニ氏は「日本に来てよかった。皆さんに応援してもらったから相撲を取れました。これからも仲良くしてください」と呼びかける。引退相撲は、日本でもジョージアでも愛される元大関の最後の髷姿を目に焼き付けるチャンス。ぜひ多くの人に足を運んでいただきたい。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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