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日本の野良猫の保護活動のゴールは?猫の楽園・イスタンブールの猫と比べてみたら

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

日本に野生の猫は、基本的にはいません。野生の猫は、イリオモテヤマネコ、ツシマヤマネコだけです。路地や公園で野良猫を見たら、それは人間が作り出したものなのです。

風が通るところでまったりしている野良猫を見ると、いいなと思うかもしれません。しかし、日本の野良猫は、食事や水も満足にもらえず、安心して寝る場所もないという過酷な環境にいます。当然、世の中は、猫が苦手な人もいるので、嫌な目に遭うこともあります。

保護猫活動をしている人は、全部の野良猫を飼い猫にすることができず、TNR※という野良猫を捕獲して不妊去勢手術をする活動をしています。

野良猫を不妊去勢手術した印として、耳をカットします。この猫の耳の形が、桜の花に似ていることから、このような理由で不妊去勢手術された猫を「さくら猫」と呼んでいます。さくら猫にすることで、野良猫が二重捕獲や二重手術することを防ぐことが出来るのです。

今日は、野良猫に優しい町・イスタンブールと比べながら、日本の保護猫活動のゴールは何かを考えていきましょう。

※TNRとは、「猫を捕獲し(Trap)、不妊手術を行い(Neuter)、猫を元の場所に戻す(Return)」ことです。

大阪の中之島公園の野良猫ゼロ作戦

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イメージ写真写真:イメージマート

20010.01.05の朝日新聞に「中之島公園で野良猫ゼロ作戦 施設に保護、飼い主探す」という記事がありました。

大阪の中之島公園付近は、ビジネス街です。この付近には、大阪市役所、日本銀行大阪支店、中之島公会堂などがあり、堂島川と土佐堀川に挟まれた中洲です。

以前は、中之島公園はオフィス街なので、昼食時のサラリーマンやOLなどから野良猫はえさをもらうことができて繁殖して、野良猫の名所になっていました。

しかし、2007年11月に、中之島公園の再整備工事が始まり、この場所が、人が入れない閉鎖された場所になりました。そこに住み着いた野良猫がいても、えさもあげに行けないので餓死するのではと問題になりました。

そこで、公園を管理する公園事務所と保護猫活動をしているボランティアの人が「野良猫ゼロ作戦」を開始しました。

中之島公園内に小屋を設けて野良猫を集め、保護猫活動をしている人が、飼い主探しを進め、野良猫の姿がほとんど見られなくなったのです。

日比谷公園の野良猫がゼロに

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イメージ写真写真:イメージマート

2022.04.04の毎日新聞に「日比谷公園、猫守り20年 最後の3匹を保護 団体「動物遺棄は犯罪」」という記事がありました。

東京都心の日比谷公園(千代田区)から、去勢・不妊手術を施されてボランティアに見守られてきた「地域猫」の姿が消えたそうです。2000年ごろには野良猫が60~80匹はいたそうです。

長い時間をかけて健康チェックや駆虫を徹底し、飼い主を見つけていた愛猫家団体が2001年「ちよだニャンとなる会」(18年から一般財団法人)を発足し、その団体が中心になり、保護猫とふれあえる2軒目のカフェを区内でオープンしました。そこに日比谷公園で、保護した猫がいて、約20年かけて、野良猫がゼロになったそうです。

千代田区が2000年に始めた飼い主がいない猫に対する去勢・不妊手術費用の助成金を出しました。

保護猫活動のゴールとは?

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イメージ写真写真:アフロ

イスタンブールの野良猫事情を見てみましょう。FNNプライムオンラインの「“ネコに優しい町”に異変... 捨てネコ地域が集中的に」では、イスタンブールの高級住宅街のシシリ区で、野良猫に寝床や食べ物を与えて、そして病気になれば、無料の動物病院まであることを報告しています。日本では、考えられない野良猫にとってはよい待遇です。

この猫に優しい文化背景は、トルコはイスラム教の人が80%以上いて、イスラム教の預言者であるムハンマドが、猫好きだったので、猫を大切にするようになったということがあるようです。日本とはこの辺りの文化が違うので、野良猫対策として、トルコのようなことは起こりにくいのです。野良猫に対する予算(税金)は、シシリ区では2億2000万円以上で、新宿区では227万円なので、この予算を見れば、いかにイスタンブールのシシリ区の野良猫は大切にされているかわかりますね。

日本の大きな公園は、猫たちにとって、居心地のよい場所のように思うかもしれません。

しかし、夏の暑さや冬の寒さ、車や自転車にはねられる事故、カラスやハクビシンの襲撃にさらされているのです。

行政が猫の保護活動のために、助成金を出してもらえれば助かります。そして、野良猫をTNRしなくても、大きな保護猫施設があれば、野良猫は、外の過酷な環境で暮らさなくてすみますね。

十分な助成金や大規模な保護猫施設があれば、それが日本の保護猫活動のゴールなのでしょうか。

日本では、トルコのような猫に対する文化ではありません。猫に対して虐待する人や猫に心よく思ってない人もいます。外は猫にとって安全な場所ではないのです。

日本では、飼い主が、猫を飼ったら不妊去勢手術をして外に出さず、猫を完全室内飼いにするよることが、猫にとってよい環境ではないでしょうか。つまり、保護猫活動をしない日が来ることが、それがゴールだと考えています。

そのなるためには、飼い主の意識が変わり、猫は室内飼いするもの、そして、終身飼育することが、基本になることですね。未来には、保護猫、TNR、さくら猫という言葉が使われなく時代が来ることを望んでいます。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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