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【卓球】パリ五輪代表選考 日本卓球協会が貫くべき大義とは何か

伊藤条太卓球コラムニスト
世界卓球で勝ってもポイントがつかない宇田幸矢(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

5月11日、日本卓球協会は、今月20日から南アフリカ・ダーバンで開催される世界選手権に出場予定だった篠塚大登(愛知工業大学)が腰痛のため辞退することになり、代わりにダブルスにだけエントリーされていた宇田幸矢(明治大学)がシングルスにも出場することを発表した。

今回の世界選手権は、シングルスの結果がパリ五輪代表選考レースのポイント対象であり、優勝が200点という、全対象大会の中で最高の配点が与えられている。国内選考会は、昨年は優勝が50点で今年は100点と2倍になっているが、世界選手権はそのさらに2倍の高配点である。五輪本番に近く、格が高い大会ほど高配点にすることは極めて妥当である。

ところが日本卓球協会は今回の発表で、宇田についてはシングルスで勝っても一切のポイントをつけない旨をつけ加えた。

今回の世界選手権のシングルスのメンバーは、昨年11月時点のパリ五輪代表選考ポイントの上位5名が選ばれた。当時宇田は15位だったが、協会推薦でダブルス要員として代表入りした経緯がある。そのため、本来ならシングルスに出る資格がなかった宇田にポイントをつけるのは不公平だという考えでの措置である。

もっともな考え方に思えるが、一方で、世界選手権という最高ランクの大会での勝利が代表選考に反映されないのは、選考方法として間違っているようにも思える。賛否の分かれるところであろう。

同様に賛否が分かれる例がもう一つある。今年9月に開催予定のアジア競技大会の配点である。優勝しても80点しかつかないのだ。これは、ほぼ同時期に開催されるアジア選手権の半分の値であり、国内選考会よりも配点が低い。アジア競技大会といえば、各国ともアジア選手権よりも重視して主力選手を送り込んでくる大会である。それなのにこの配点である。実はアジア競技大会は、もともと昨年9月に開催予定であり、諸般の事情で今年9月に延期になっているもので、80点とは、延期が決定される前に設定されていた値なのである。アジア競技大会の代表選考時点で設定されていた配点を事後に変えるのは不公平だというわけである。

また、今年の大会からは中国の世界ランキング上位3人に勝つとボーナスポイントがもらえる、いわゆる「中国ポイント」が付与されることになっているが、これもアジア競技大会だけは対象外となっている。中国ポイントは、アジア競技大会の代表メンバーが決まった後に設定されたものであり、選考時点で設定していなかった配点を追加するのは不公平だからだ。

大雑把に言えば「アジア競技大会は、もともと昨年の大会だったから昨年の大会扱いする」ということである。これも、選考基準の一貫性としては正しいが、選考方法としては疑問符がつくのは、宇田の例と同じである。

アジア競技大会に出場する吉村真晴
アジア競技大会に出場する吉村真晴写真:長田洋平/アフロスポーツ

以上、「世界選手権に代替出場する選手の扱い」「延期開催となったアジア競技大会の扱い」の二つは、選考において真に重視するべきは何かということを考えさせられる非常に良い題材である。

選考の公平性の点では、日本卓球協会の判断は正しい。一方で、最強の選手を選ぶ方法としては正しくない。従ってこれは、選考の公平性と最強の選手を選ぶことのどちらを優先するのかが問われている問題なのである(本来この二つは一致すべきであり、一致しないこと自体が選考方法の欠陥なのだが、それはおいておく)。

難しい問題だが、選考の目的が何なのかを考えれば、おのずと結論が出てくる。選考の目的は、五輪で勝つべく最強の選手を選ぶことである。選手たちの公平感や納得感は重要だが、選考の目的を犠牲にしてまでそれらを優先するのは本末転倒である。選考の一貫性を守って選手やその母体から批判されないようにすることが行動原理になってはならない。選考方法の欠陥によるしわ寄せで本来の目的を棄損してはならないのだ。

確かに、宇田にポイントをつけ、アジア競技大会の配点を2倍にして中国ポイントをつければ、その大会の選に漏れた選手や母体から不満や批判が出るだろう。スポーツ仲裁機構に提訴する者も出てくるかもしれない。彼ら彼女らの立場からすればそれも当然である。誰もが必死なのだ。

それでもなお、日本卓球協会には、選手たちの痛みを理解しつつ、万難を排して「最強の選手を選ぶ」という大義を貫く義務があるはずだ。

代表選考はたかだか十数人のトップ選手たちのためにやるのではない。会費を納入している30万人もの日本卓球協会会員とその背後にいる何百万人もの卓球愛好者、そのほか何千万人もの、日本の卓球の活躍を期待している人々のためにやるのだ。

それが、公益に資することを旨とする公益財団法人・日本卓球協会の責務なのだから。

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、一般企業にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、執筆、講演活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。NHK、日本テレビ、TBS等メディア出演多数。

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