報じられないイスラエルの侵犯行為:2日続けてシリア領内をミサイル攻撃、住民と「イランの民兵」死亡
「アラブの春」に「上書き」され、「パレスチナ問題」の名で矮小化されたアラブ・イスラエル紛争
アラブ諸国に未曾有の混乱をもたらした「アラブの春」から10年が経ち、各国で今も続く暴力が報じられることはほとんどなくなった。それにも増して、「アラブの春」に「上書き」されたアラブ・イスラエル紛争の不条理に目が向けられることは減って久しい。
むろん、この紛争は「パレスチナ問題」という矮小化された名で呼ばれることで、パレスチナ難民、ガザ地区に対するイスラエルの攻撃、ヨルダン川西岸での入植といった不義への関心を辛うじてつなぎ止めてはいる。だが、こうした関心が、この紛争の当事者にして被害者であるシリアやレバノンに拡げられることはきわめて稀だと言える。
イスラエル軍戦闘機によるミサイル攻撃
そんなアラブ・イスラエル紛争の当事者にして被害者であるシリアに対して、イスラエルが「再び」侵犯行為を行った。
イスラエル軍戦闘機が5月5日午前2時18分頃、シリア北西部に位置するラタキア県南西の地中海上空から同県沿岸部とハマー県ミスヤーフ市一帯に対して複数のミサイルを発射したのである。
国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、シリア軍防空部隊が迎撃し、その一部を撃破したものの、この攻撃で、住民2人が死亡、子供1人とその母親1人を含む6人が負傷、ラタキア市郊外のプラスティック製品工場の施設などが被害を受けた。
英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ミサイル攻撃では、ハマー県ダイル・シャミール村一帯、ラタキア県ハッファ市南にある武器弾薬庫や軍事拠点が狙われ、「イランの民兵」1人が死亡、15人あまりが負傷した。また、ラタキア市北のシャムラー岬(オガレット遺跡)近くの施設が被弾し、住民1人が死亡、女性1人と子供3人を含む5人が負傷した(シリア人権監視団はその後5月7日、ダイル・シャミール村一帯に対する攻撃でイラン・イスラーム革命防衛隊のイラン人およびアフガン人メンバー5人が、ラタキア市郊外に対する攻撃で、「イランの民兵」の外国人メンバー2人とシリア人メンバー1人が死亡したと発表した)。
「イランの民兵」とは、シリア内戦においてシリア軍と共闘する民兵の総称である。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、同部隊が支援するレバノンのヒズブッラー、イラク人民動員隊、アフガン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などを指す。「シーア派民兵」と称されることもあるが、「イランの民兵」という呼称とともに、反体制派、欧米諸国、アラブ湾岸諸国、トルコによる蔑称である。シリア政府側は「同盟部隊」(あるいは「同盟者部隊」)と呼んでいる。
イスラエル軍ヘリコプターによるミサイル攻撃
攻撃は5月6日にも行われた。シリア政府寄りのサマー・チャンネルによると、イスラエル軍ヘリコプターが今度は南部クナイトラ県の拠点複数カ所を攻撃したのだ。
攻撃はレバノンのヒズブッラーの「第90旅団」を狙ったものだという。
これに関して、シリア人権監視団も、イスラエル軍ヘリコプター1機が、占領下のゴラン高原に近いジャバーター・ハシャブ村近郊にあるシリア軍の拠点1カ所をミサイル攻撃したと発表した。
この拠点には、レバノンのヒズブッラーの偵察連隊の戦闘員が駐留しており、ヘリコプターから発射された2発のミサイルで、3人が負傷した(負傷者の身元は不明)という。
監視団はまた、イスラエル軍ヘリコプターが、シャッアール丘近くの軍事拠点に対してもミサイル攻撃を行ったと付言した。
沈黙する西側諸国
イスラエル政府が、シリアに対する侵犯行為を認めること(そして否定すること)はほとんどないが、今回もまた正式な発表はない。
また、国連安保理決議第242号に基づき、1967年以降のイスラエルによる東エルサレム(パレスチナ)、ゴラン高原(シリア)、シャブアー農場(レバノン)、ガジャル(一部シリア、一部レバノン)に対する占領を認めていない西側諸国の政府も主要メディアも問題視していないようである。
「イランの民兵」、ヒズブッラーが狙われたことが、沈黙の免罪符となっているとしたら、中東を含む世界各地の紛争への西側諸国の干渉は、所詮は自らの意に沿わない勢力を貶め、排除することが目的で、民主化支援、人権擁護、国際の平和と安定といった干渉の根拠は美辞麗句に過ぎないことになる。