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知られざる数億ションの世界 丸見えで恥ずかしい浴室が当たり前?その理由は……

櫻井幸雄住宅評論家
ベッドからよく見える位置にガラス張りの浴室……いったい何のために?筆者撮影

 キングサイズのベッド正面に浴室があり、しかも総ガラス張り。ベッドから丸見えになるように浴室を配置しているのは、ある種のホテルのものではない。都心部で分譲されているマンションのモデルルームだ。

 といっても、当然ながら普通の住戸ではない。

 都心部で分譲価格が数億円となる高額住戸=いわば数億ションのモデルルームでは、このようにちょっと恥ずかしい、というか、誰が何の目的で使用するのだろうと首をかしげたくなる寝室+浴室を目にすることが多い。

 販売価格が10億円を超える10億ションでは、さらに巨大でジェット噴流付きの浴槽がガラス張り内に設置されることもある。まさに、何のために?である。

まさか、密会の場所として購入?

 分譲価格が数億円、ときに10億円を超える高額住戸を若い世代が購入することはまずない。財産を築いた熟年の富裕層が典型的な購入者像となる。が、お年を召したご夫婦が、このように開放的な浴室を好むとは考えにくい。

 そこから、「さては、夫が都心のプレイルームとして密かに購入するのか」と想像する人も出てくる。

 お金持ちの男性が都心のマンションを購入し、内密にお付き合いする女性と逢瀬を楽しむための部屋、と想像を膨らませるわけだ。

 そのように考えたくなるのも無理はないが、それは妄想というべきもの。富裕層といえど、数億円の買い物を妻に内緒で行うことはむずかしい。それ以前に、発覚したとき、言い逃れができないモノを買うはずがない。

 では、このような浴室は、誰のために、そして何のためにつくるのか。その理由に、高額マンションの知られざる実情が隠れている。

こんなこともできます、とアピールする場

 分譲価格が安くても数億円、高い住戸は10億円以上という高額マンションは、一般に公開されることなく販売されることが多い。

 たとえば、総戸数20戸ですべて10億円以上というような物件は、限られた購入者を対象に、ひっそりと販売される。当然ながら、そのモデルルームも一部の人しか見ることができない。

 冒頭に掲げた写真は、現在、都心部で分譲されている「パークコート神宮北参道」のもの。全471戸の大規模マンションで、そのモデルルームが昨年11月、マスコミに公開された。その際、高額住戸のモデルルームも公開されたので、主寝室の浴室を撮影した。

 マスコミに発表され、写真撮影も許可されたため、特殊な浴室+寝室の写真も公開可能となった。が、これは、レアなケースだ。

 戸数規模が小さい高額マンションは、マスコミにモデルルームを公開することはない。特別に取材できても、撮影は不可となるのが普通だ。

 つまり、高額マンションのモデルルームにおける浴室の写真は表に出にくい。だから、全面ガラス張り浴室の写真を見て驚いた人も多いだろう。

 しかしながら、前述したとおり全面ガラス張りの浴室は、超高額マンションにおいては「よくあるパターン」なのだ。

 そう書くと、高額マンションを買う人は、ガラス張りの浴室が好きなのか、と思われがち。そうではなく、「お望みなら、ここまで大幅な間取り変更もできます」とアピールする目的で、ガラス張りの浴室がつくられるのである。

 高額マンションのなかでも10億ションは、間取りや設備のほとんどがオーダーメイドとなる。

 あらかじめ用意された間取りはあるが、購入者の希望でどのような間取りも設備も可能になる(その分、追加費用が発生する)。

 どんな部屋にするかは、購入者次第。なので、モデルルームは、「こんなこともできます」というショールームの性格が強くなるわけだ。

 その際、思い切った提案を行うのがキッチンと浴室。キッチンと浴室は工夫ポイントが多いし、素材や設備機器にいくらでもお金をかけることができる。つまり、プランナーの腕の見せどころとなる。

 といっても、キッチンは使いやすさが重要なので、遊びの要素を加えにくい。その点、浴室は思い切り遊べるし、突拍子もないこともできる。

 遊び心があって、突拍子もないデザインとして、全面ガラス張りの浴室が生まれてしまうわけだ。

 「見学者をびっくりさせるような演出」との前提で、冒頭の写真を改めて見てみよう。

冒頭の写真を改めて、見直すと……。筆者撮影
冒頭の写真を改めて、見直すと……。筆者撮影

 この写真を基に、浴室とベッドの間に木質の壁と木質ドアを付けた状態を想像していただきたい。ガラスを外し、ベッド側から浴室と脱衣スペースが見えないようにするわけだ。

 そうなると、寝室に併設された普通の浴室空間になってしまう。

 「ガラス張りの浴室」は、普通の浴室をこのように演出することも可能です、と実証しているだけなのだ。

実際に、よくつくられる浴室とは……

 では、ガラス張りの浴室を見た購入希望者はどのような反応を示すのか。

 ベッドから丸見えになる浴室をそのまま採用するのは、1人暮らしの人くらい。それはそうだろう。家人から丸見えになる浴室は落ち着かない。

 一方で、「入浴すると、見晴らしがよい」浴室を好む人は多い。浴室を大きな窓のそばに移し、展望風呂のようにするわけだ。それも、高額マンションの“あるある”なのである。

 タワーマンションの最上階に設定された高額住戸で、窓に面した浴室+トイレを特注した人もいる。展望風呂とともに、眺望を満喫しながら使用できるトイレも求めたわけだ。

 ちなみに、そのトイレを希望したのは、男性ではなく女性。もちろん、外からトイレ内は見えず、便器に腰掛ければ正面に大きな空が見える。開放的なトイレに憧れていたのだそうで、そんな夢を実現できるのも、数億ション、10億ションの世界なのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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