韓国の8.15はもはや「国内の左右分裂の日」? デモに日の丸 vs 公式行事で「親日派墓暴き」演説
2020年8月15日。確かににこの日、全国戦没者追悼式にて安倍晋三首相から発せられた式辞には「歴史」に関する言及がなかった。2013年当時は大いに語っていたにもかかわらず。
古田大輔氏による参考記事:村山談話を再び炎上させている人たちは、より戦争の被害に踏み込んだ安倍談話は批判しないのか
しかし韓国側からは、大きな反応がなかった。保守媒体は日本メディアの報道を引用する範疇に留まった。また本来なら強く反応しそうな革新系メディアのほうが関連記事の数が少ないという状況だった。
もはやベクトルは日本に向かっていないのではないか。日本を立てた左右分裂。そんな感もあった韓国の植民地解放記念日だった。
不適切、と指摘が出た大統領演説の「前座」。
まずは公式性の高い行事である「第75周年光復節慶祝式」。
これが、実はいびつな構造だった。まずは大統領に先立ち演説に立ったキム・ウォヌン氏。独立運動家の歴史を伝承する団体「光復会」(設立1965年)の会長の演説が極端だった。
強い口調でこういった内容を口にしたのだ。
「李承晩は反民族行為特別委員会を暴力的に解体し、親日派と結託しました」
「大韓民国は反民族の歴史をしっかりと清算できない唯一の国になり、清算できない歴史がいまも続いています」
「ソウルの国立墓地にいまにも日帝にへつらい、独立軍の討伐の戦闘に立った者が埋められています」
「こういった親日反民族の人物69人が今も国立墓地に安蔵されているのです」
「反省のない民族反逆者を抱え込むことは国民和合ではありません。正義を放棄することです」
「親日清算は国民の命令です」
これを巡り、保守系の第一野党「未来統合党」が激怒した。李承晩大元統領を侮辱した、として。
「慰安婦のおばあちゃんたちを前に立てて私腹を肥やす尹美香議員のような人を正義の名のもとに審判出来ない者たちが、どうやって親日清算云々が言えるのか」
「自ら物事を成し遂げる少しばかりの能力もないあぶれ者に光復節記念式の色を変えてしまわれ、もどかしくて残念だ。肝心な時に日本に一言もちゃんと言えず、やたらと国民に向けて刀を抜く陣営論理を焚きつける人に光復会長の資格はない」
筆者自身も韓国側からどういった言葉が出てくるのか真摯に耳を傾けようとしたが、そんな気も失せた。式の主旨から外れた内容だったからだ。また、日本の立場からこんなことを言うのはおせっかいの極みだが、これでは韓国国民が幅広く参加する式典とはいい難いのではないか。
また「前座」が強く言ったからか、文在寅大統領は昨今の日韓関係については徴用工判決に言及したのみ。それも「司法の判断を尊重」という内容を繰り返すだけだった。唯一踏み込んだ点は「日本と協力して解決する」という表現だった。
光復会のキム・ウォノク会長はその後、出身地の首長でもあるウォン・ヒリョン済州道知事にたしなめられた。「国民と道民の大多数が決して同意できない過度の歴史観が入った話を記念辞として読み上げたのは遺憾」。
これに対して18日、こう噛み付いた。
「ウォン・ヒリョンのような親日派を庇護する政治家は、光復節の行事に来なくていい」
「光復節の行事に参席する資格のない親日庇護政治家名簿を発表する計画」
パブリックとプライベートの分別もできない。自国民に対する「寛容」という言葉も知らない。仲間うちだけで、別の集会をやったらどうですか?
親日派批判とは「親日反民族行為者」への批判だ。”日本に協力し、当時の朝鮮人に危害を加えた人”のこと。直接的な日本批判とは少し趣が異なり、韓国国内の闘争という側面がある。
右派デモには日の丸登場。「反日のない光復節」の記事も
いっぽう、市内の光化門近くでは保守系団体による1 万5000人規模のデモが繰り広げられた。
タイトルは「文在寅退陣国民大会」。
ソウル首都圏で新型コロナが再流行するなか、12日時点で市当局は集会の全面禁止執行命令を出し、「勧告を破った場合には、集会禁止などの処罰もありうる」との強い姿勢を見せていたが、結局は30人が逮捕されるなか強行された。
ここでは韓国人のデモ参加者から「日本国旗が提示される」という出来事があった。主要メディアはこれを記事化まですることはなかったが、写真でこれを伝えた。厳密にいうとアメリカ国旗も並んでおり、「韓米日同盟」の重要性をアピールする、というものだった。左傾化して「中国側」につくのなら、日本と組んででも現在のフレームに留まるべきだという主張だ。保守派による日本>共産主義という構図は筆者自身もこれまでの取材で見てきた場面だ。
- 左派の「たまねぎ男」チョ・グク氏は自身のアカウントで抗議の意味を込めてこの写真を紹介した。
話が少し脱線するが、右派の主張もかなりのものだ。コロナ感染が心配されるなか、これまでも集会を強行してきた右翼の大物「愛第一協会」のチョン・グァンフン協会についに陽性反応が出てしまった。結果、こう言い放ったのだ。「ウイルスの元は北朝鮮。これは間違いない」。
この8月15日の出来事について、決してメジャーな媒体ではないが「ポリニュース」という媒体が「“光復節”のない光復節集会」という記事を掲載した。
つまりはそこまで日本にストレートに意見する日だったと。
同媒体は市内の別の場所(鐘路)では小規模ながら左派系団体のデモも行われ、そこでは労働者の権利が守られるべき、という主張が繰り広げられた点を伝えている。しかし結局は保守団体の「文在寅弾劾」のコールに包まれる一日となったとし「過去75回の光復節があり、その時ごとに太極旗が振られてきたが、今日の太極旗は意味が違って見えた」とまとめている。
ここ数日の韓国内での世論調査では、いずれも保守系野党の支持率が革新系与党に肉薄。「日本どころじゃない」というのが韓国の実情だ。日韓関係の次の動きは、8月23日から24日のGSOMIA関連のものになりそうだが、どういったものになるだろうか。
8月の「日韓対決」
4日 徴用工判決「現金化」実効期間開始
10日 「安部首相謝罪銅像」除幕式予定(中止に)
11日 「現金化」の実効期間開始に対する即時抗告期限日(7日に抗告済み)
15日 「光復節(日本からの植民地解放記念日)」文大統領スピーチ
23日 GSOMIA 延長可否通告期限(毎年11月23日に1年ごとの自動延長となるが、破棄の場合は90日前に通告しなければならない)
その他 8月末にWTO事務局長が退任。6月から2ヶ月間が後任選定期間。韓国からも立候補中。韓国では「日本が他地域からの候補を応援するのでは」と報じられる。
参考記事