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日本製鉄「即時抗告」を韓国メディアはどう報じたか。左派の新聞「日本はセコい」、”当事者”は沈黙……。

2018年10月の韓国裁判所の判決時の様子(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

韓国側が見る抗告の意味。結局は”時間がよりかかる”。

8月の「日韓対決」に新たなアクションがあった。いわゆる「現金化問題」について、日本製鉄が7日午後に韓国の大邸地方裁判所に抗告を行ったのだ。

韓国メディアはこれをどう報じたのか。

まず、韓国の通信社「聯合ニュース」が今後の流れを説明している。

「一般の裁判で、控訴すると判決を確定せずに当事者に再び争う機会を与えるのと同じように、即時抗告も当事者に争う機会を再び与えるもの

まず日本製鉄側の不服申し立てが認められるかが審議され、認められれば再び裁判となる。この過程を「聯合ニュース」は細かく説明したうえで、今回の抗告は、結局はこういった意味があるとまとめた。

「通常、このような手続き進行に数ヶ月かかると法律関係者は見ている」

つまり、原告側が日本統治下での徴用労働に対する補償金を、日本製鉄が韓国で有する会社の株を現金化して受け取るまでには、より多くの時間がかかるということ。なんらかの電撃的な解決策が施行されない限りにおいては。

日本の方針変更を論じる媒体も。保守系媒体は「冷静」。

抗告の報は、7日昼頃に日韓両国で報じられたが、韓国メディアではじつのところ大きな動きはない。

7日の午後、国内最大のポータルサイト「NAVER」のリアルタイム検索、政治部門の1位は「文在寅大統領の不動産政策の失敗」関連ニュースで、ベスト10にもこの話題は入ってこない。

日本側の抗告は、すでに4日の時点で大きく報じられていた。ほかでもない、日本側であった同日の「抗告の見通し」という報道は韓国側にも十分伝わっていたからだ。日本製鉄は「11日の即時抗告締め切り前日、10日に動くのでは」という予想もあり、少し早まったかなという程度だ。

ただ、「時間がよりかかる」という点においての解釈が、各紙で分かれた。

■ハンギョレ新聞(8月4日)

「日本製鉄、即時抗告のセコいやりかた」

大邱地裁浦項支部は、日本製鉄が差押命令の書類の受付を拒否し、1年5カ月以上の時間を稼ぐや、書類が相手に渡されたものとみなされる「公示送達」の決定を下した。これにより、4日0時をもって差押命令効力が発生することになり、裁判所は日本製鉄が所有する韓国内の株式の現金化命令を下すことができる。

”文在寅派”とも言える革新系の新聞が一番強い見出しを出した。前述の「聯合ニュース」と同じく、「より時間がかかる」という内容を報じつつ、これを「セコい」と表現。しかし最も読みたかった、日本の何がセコいのかという供述がなかった。「これまでの1年5ヶ月、日本製鉄側から反応がなかった」という点を取り上げたのみだった。

いっぽう、保守系の経済紙は「日本の作戦変更」を「注目が集まっている」という表現でやんわりと批判した。

■韓国経済新聞(8月5日)

日本製鐵「即時抗告」…‘無視’で一貫してきた日本の戦略を変えるのか。

戦犯企業日本製鉄(旧新日鉄住金)の韓国資産を差し押さえが可能になった4日、当事者である日本製鉄が「即時抗告する」という立場を明らかにした。 2018年10月に強制徴用被害者の賠償判決後、2年近く韓国側の法の手続きに応じなかった日本側の変化の関心が集まっている。

(中略)

韓国最高裁が2018年10月30日、徴用被害者4人が日本製鉄を相手に提起した、慰謝料などの損害賠償請求の再上告審で、1億ウォンずつの賠償を宣告した後、日本製鉄は無対応で一貫してきた。 「1965年韓日協定で個人の請求権は抹消されたため、資産の差し押さえは国際法違反」という日本政府の立場に沿ってきた。

ここまでさんざん、2018年10月30日の賠償命令に対して「無視」を繰り返してきたのに、いざ「現金化」となると、急に反応しようとしているとう視点だ。いっぽう、記事では日本側の考え、立場も示している。この点では日韓間の別の争点である竹島問題とは少し雰囲気が違う。領土問題では「異論・異見は一切認めず」という雰囲気があるが、今回の問題では「そういう考えがある」という点を記すのだ。

また、別の保守系の大手一般紙は「時間を稼いだ」という表現は使わず、抗告を「ブレーキ」と表現した。「無視」を続けなかったことはむしろ日韓関係の悪化を避けた面もあるという解釈と思われる。いっぽうで現金化までが行われた際を想定し、冷静に日本側の報復処置、そしてその効果について記した。

■中央日報

日本製鉄「抗告」、韓国内の資産売却にいったんブレーキ

韓国最高裁が2018年10月に日本製鉄の賠償判決を確定させた後、日本製鉄と日本政府は判決を無視してきた。日本の外務省は、資産差し押さえ決定関連書類を日本製鉄側に転送せず、数ヶ月後に韓国の裁判所に送り返すこともした。日本製鉄は「強制徴用問題は1965年の韓日請求権協定で完全に解決した」という立場だ。

じつのところ、この記事でもタイトルにある「ブレーキ」の説明はしっかりなされていない。上記のように日本がこの件について、どう時間をかけてきたのかを細かく報じたのみだ。いっぽう、事態が今後どうなっていくかについて冷静で細かい情報を伝えた。

日本政府は、資産売却が行われた場合に備えて、さまざまな対応措置を準備中だ。「日本経済新聞」によると、日本政府の対応措置は外交的・経済的・国際法的措置に分けられる。

外交的措置としては、在韓日本大使召還とビザ免除中断、ビザ発給要件の強化案が議論されるだろう。

経済的措置としては、日本国内の韓国資産差し押さえと報復関税などが言及されている。また昨年の輸出規制をより強化する案も議論されている。

国際法的措置は、韓国を国際司法裁判所(ICJ)に提訴するか、世界銀行傘下の国際投資紛争解決センター(ICSID)に仲裁申請をする方法があるが、実効性がないという評価だ。

日本側のカードのひとつ、国際機関への提訴はそれほど”効かない”とみている。同時に「韓国にとって何が一番困るのか」、そして「韓国側の最大のカード」も記している。

日本政府は、金融制裁も検討している。制裁の方法としては韓国企業に対する日本の銀行の保証回収などが挙げられる。佐藤正久(佐藤正久・元外務省副大臣)自民党議員は先月のテレビ出演時に「サムスン電子の海外資金のほとんどは、日本のメガバンクから借りたもの」と金融制裁が効果的だと述べた。

これに対してキム・インチョル韓国政府外交部(外務省)スポークスマンは4日、「日本の輸出規制措置の撤回の動向に応じてGSOMIA効力終了の行使を行うかどうかを検討していくという立場には変わりがない」とし「日付にこだわらず、韓国政府は、いつでも終了可能である」と述べた。続いて「政府は関連事項を注視しており、すべての可能性をオープンにして対応方向を検討している」とした。

他媒体より一歩踏み込んで「サムスンも脅威にさらされる可能性あり」と示している。いっぽうで韓国の「切り札」はGSOMIA打ち切りであるとも。

「現金化」が論じられる「日本製鉄の韓国での財産」とは……日韓合弁会社の株。

いっぽう、日本ではあまり報じられていない「PNR」という会社の様子も「聯合ニュース」が報じている。

ほかでもない、日本製鉄の「韓国での財産」とはこの日韓合弁会社株のことだ。同社公式サイトにははっきりと記されてはいないがPは「浦項製鉄」の「P」、Nとは「NIPPON STEEL」の「N」であることは想像に難くない。サイトにはまた「POSCO(浦項製鉄グループ)の名前が大きく記され、「系列会社」という点が強調されている。

  • PNRの工場の様子。韓国各メディアも同社公式サイトの写真を引用し、社の雰囲気を伝えるに留まっている。

製鉄の工程で生じる副産物を資源化する事業を行う。

2006年に日本製鉄側が浦項製鉄に提案し、08年に法人設立。11年から工場が完成した。「聯合ニュース」は「資本金は390億5000万円で株所有比率は70%が浦項製鉄、日本製鉄が30%を所有とされている」と報じる。

断言できない理由は、当事者に事実確認が出来ないから。なぜなら現在同社は「接触不可能な状態」だというのだ。韓国メディアが公式サイトに掲載される番号に電話をかけても反応がない。また社屋の撮影を申し出ても、親会社たるPOSCO側が認めない。理由はこうだという。

「日本製鉄との合弁会社ゆえ、我々の意向だけでは公開することが難しい」

困惑、といった様子を「聯合ニュース」は伝えている。日本が韓国と力を合わせ、韓国の地で設立した法人の株が差し押さえられようとしている。これもまた、この出来事の一つの側面だ。

8月の「日韓対決」

4日  徴用工判決「現金化」実効期間開始

10日 「安部首相謝罪銅像」展示開始予定

11日 「現金化」の実効期間開始に対する即時抗告期限日(7日に抗告済み)

15日 「光復節(日本からの植民地解放記念日)」文大統領スピーチ

23日 GSOMIA 延長可否通告期限(毎年11月23日に1年ごとの自動延長となるが、破棄の場合は90日前に通告しなければならない) 

その他 8月末にWTO事務局長が退任。6月から2ヶ月間が後任選定期間。韓国からも立候補中。韓国では「日本が他地域からの候補を応援するのでは」と報じられる。

参考記事:4日0時から「徴用工判決問題」がヤマへ突入。”嵐の前”に文在寅大統領が「日本に感謝」とコメント。

【徴用工問題現地反応】もう日本対策は決めた?「現金化、運命の日」に…文在寅大統領は「休みの予定」。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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