オルセー美術館で「ガウディ」展がスタート。旅心を目覚めさせる展覧会
旅が足りていない!
そう感じている方、多いのではないでしょうか?
かれこれ2年以上、旅らしい旅をしていない、と。
フランスでも相変わらず新型コロナウイルス感染は多く、新規陽性者数が10万人以上という日が珍しくない今日この頃。けれども、公共交通機関などを除けば、マスク着用の義務はほぼなくなり、飲食店に入る際に「ワクチンパス」を提示する必要もなくなりました。
そんな開放感からパリのカフェのテラスなどは大賑わい。外国からの来訪者も目に見えて増えています。晴天の週末ともなれば、セーヌを上り下りする遊覧船は鈴なりの盛況ぶりです。
とはいえ、アジア人観光客を見かけることは少なく、コロナ禍前のような状態には戻っていません。かくいう私も、祖国日本はだいぶ遠い存在になり、長期の出張も少なくなって、“旅ロス”が日常化してしまったような気がします。
そんな中、これほど旅に出たくなる気持ちにさせる展覧会があっただろうか? と感じる機会がありました。
それが、4月12日からパリのオルセー美術館で始まった「GAUDÌ(ガウディ)」展です。
アントニ・ガウディといえば、一連の作品がユネスコの世界遺産にも登録されている建築家。1852年、日本でいえば幕末の時代に生まれ、バルセロナを拠点に活躍しました。今回の展覧会はバルセロナの「カタルーニャ美術館」との共同開催で、3月までバルセロナで展示されていたものがパリにやってきた形です。
展覧会は次のような展開になっています。
※記事の最後に展覧会の様子を紹介する動画を添えています。合わせてご覧ください。
●ミラ邸の玄関ホールを再現
特別展の会場に入るなり、バルセロナの邸宅建築の内側にワープしたような心地。美術館の展示鑑賞というと、絵の細部に入り込んでゆくようなベクトルが働くのが常ですが、ここでは逆に広がりを感じさせるようなアプローチになっています。
●ガウディ晩年のアトリエを再現
写真資料などをもとに晩年のガウディのアトリエを再現した動画が見ものです。
●ガウディの形成期
影響を受けた建築遺産や本、さらに建築学校の卒業制作作品などが展示されています。校長先生は、ガウディのことを「天才か、狂人か?」と評したという逸話が残っているそうです。
●バルセロナの変貌とガウディ
19世紀後半、急激な勢いで都市が拡大発展したバルセロナ。それはガウディの成長と並行するような時代の流れでした。
●ガウディとグエル
グエル公園、グエル邸といえば、ガウディ建築の代表作。邸宅を飾った斬新なデザイン家具の現物が展示されているほか、動画で色鮮やかなグエル公園の景観も紹介されています。
そして数々の邸宅建築の家具やオブジェの展示、さらに宗教建築のコーナーへと続き、「サグラダファミリア」のクライマックスへと続きます。
「サグラダファミリア」は、ご存知の通り2022年現在も建築が続いています。ガウディは1926年に74年の生涯を閉じていますが、生前に完成しないことは百も承知でこの建築に献身していました。
彼の死はトラムに轢かれたのが原因。しかも、あまりにも見すぼらしい身なりをしていたことから、病院に運ばれてもガウディだとは気づかれず、十分な治療が受けられず、事故から3日後に亡くなってしまったのだとか…。歴史に名を残す巨匠の最期としてはあまりにも悲しい事実です。
じつは2020年1月、私は「サグラダファミリア」を初めて訪れる機会に恵まれました。パンデミックの気配が迫ってはいたものの、ひと月後にロックダウンになるとは思いもしなかった時期です。
同じヨーロッパ、しかも隣国とはいえ、カタルーニャ地方、バルセロナの開放感はパリの住人にとっても異国情緒たっぷりです。陽光、魅力的な食文化、街を彩るガウディ時代の建築、そして「サグラダファミリア」内部の異次元ぶりに圧倒されたことが思い出されます。
今回の展覧会は、扱うテーマが絵や彫刻ではなく、建築というスケールの大きなものであるだけに、ガウディの世界観を表現するのに限界を感じるのは当然です。とはいえ、動画を駆使して空間を追体験できるような演出をするなど、現代の技術を味方につけてかなり工夫がされていると感じました。
その上で、美術館の中だけでは到底体感できない“実物”をこの目で見てみたいという気持ちが湧いてくる。旅ができるという、以前はごく当たり前だったことのありがたさを痛感し、またきっとそういう日が来る、というポジティブな未来に焦点を当てようという気にさせられる展覧会。リモートの便利さに慣らされた今だからなお、実物に触れること、現場を体感することのパワーを再認識させられる機会です。