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教員不足の対応に大学院生までも動員、もはや「戦時体制」なのか

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 教職大学院の学生を非常勤講師とするように推奨する通知を、教職大学を置く各国私立大学長宛に文科省がだした。そこまでやらなければならないほど、教員不足は深刻な状況なのだ。

|さらに教員志望者を減らすことにしかならない

 通知の狙いについて文科省総合教育政策局人材政策課は、『教育新聞』(6月30日付 Web版)の取材に「教員不足のなか、教職大学院には、学生が学びを深めると同時に、学校現場の戦力になることも考えてほしい」と答えている。教職大学院には、大学の学部から進学した学生のほかに、休業して専門の学びを深めるために入学している現職教員も多数在籍している。

 そういう学生に、「学校現場の戦力になれ」といっているのだ。非常勤講師として教壇に立つのは、学びを深めるための実習とは、意味合いが違う。非常勤講師としての「謝金」を受け取るというのだから、それなりの「成果」を求められるわけで、その学校のカリキュラムに完全に組み込まれることになる。なんのために、休業しているのか、わけがわからない。学びを深めるという意味でも、効果的とは考えにくく、逆効果になる可能性もある。

 学部から大学院にすすんだ学生も、謝金を受け取る非常勤講師として、つまり「戦力」として学校現場に行かされることになる。学びを深めるために大学院にすすんだのに、前倒しで教職に就かされるようなものだ。卒業後は教職に就くとしても、いきなり「戦力」扱いされて、学びは浅くなるわけで、学生としては釈然としないにちがいない。

 学ぶ意欲をもって入学してきた学生から、学ぶ時間と学ぶ意欲を奪うことにもなりかねない。これほどの「愚策」はない。

 教員不足が深刻な状況になっていることは誰も否定しようもないのだが、第二次世界大戦終盤の兵力不足を補うために行われた「学徒出陣」を連想してしまう。その結果が悲惨だったように、けっして明るい展望をもてそうもない。

 こうした路線は、さらに悪化もしかねない。学部生を「戦力」とするために、教育実習の長期化や教員免許取得者の一定期間の教職就労義務など、まさに「戦時体制」のような状況に発展しかねず、本気で心配になってしまう。

 教員不足の最大の原因が、教員の働き方にあることは言うまでもない。それを根本的に改善することを避けておいて、ただ「強制的な動員」の策に走るようでは、教員不足は解消されない。それどころか、ますます教職そのものへの関心は失われるばかりだろう。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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