京菓子の5倍、2千個が完売! 実はスゴい「名古屋の和菓子」
東京の和菓子ツウが名古屋の和菓子に殺到!
去る10月15日、新宿高島屋で和菓子フェア「名古屋直行便」が開催されました。名古屋エリアの10店舗の銘菓を取り揃えたこの企画では、わずか4時間で500箱2000個以上が完売。これは同様の京菓子のフェアの実に5倍にもあたるとか(!)。
なぜ名古屋の和菓子はこんなにも東京でウケているのか? 新宿高島屋の和菓子バイヤー、畑主税(はた・ちから)さんにその秘密をお聞きしました。
畑主税さんインタビュー。「名古屋の和菓子はとにかくレベルが高い!」
――名古屋の和菓子が貴店のフェアで人気沸騰しているのはなぜなのでしょう?
畑主税さん(以下「畑」) 「純粋においしいからです! 名古屋の和菓子はとにかくレベルが高いんです」
――名古屋の和菓子に着目したきっかけは?
畑「高島屋に入社し3年間洋菓子を担当した後、2006年に和菓子のバイヤーになりました。京都などを回った後、名古屋へ来て“こんなにおいしい和菓子がたくさんあるなんて!”とびっくりしたんです。それなのに全国的にはまったく知られていなくて、京都のようにガイドブックもない。これは是非紹介しなければ!と2007年の春に最初の『名古屋直行便』を企画しました。この時は3店舗の銘菓を取り寄せ、1日で100箱が売れました」
――名古屋の和菓子には、他の町にはない特長があるのでしょうか?
畑「まず日本で一番甘さが優しい。お菓子は北や南へ行くほど甘さが強くなり、日本のほぼ中心の名古屋は最も甘さが控えめです。そして非常に柔らかい。わらびもちや羽二重餅のふわふわぷるぷるの食感は他では味わえません。意外な組み合わせも面白い。きんとんの芯に道明寺あんを使ったり、栗蒸し羊羹をかるかんや松風と合わせた二層仕立てにしたり、名古屋にしかない趣向を凝らしたものが少なくありません。さらにういろうをはじめ蒸し菓子が日本で最も多いし、あんこも種類が多い。しかもこれらいろんな種類のお菓子をいくつもつくるお店がまた多い。名古屋の和菓子屋さんは、とにかくおいしいお菓子をつくる手間を惜しまないんです」
――「名古屋直行便」ではどんなお菓子が売れているのでしょう?
畑 「上生菓子が中心です。上生菓子はお茶席で使う、お店の技術やセンスが最も現れるもの。それが売れていることからも名古屋の和菓子のクオリティの高さがうかがえます。そもそも上生菓子は豆大福など誰もが知っているお菓子と違って、百貨店のフェアなどでそんなにたくさん売れるものではないんです」
――上生菓子というと京都のイメージが強いので意外です。
畑 「『京都直行便』で取り扱う京都のお菓子は、豆大福など主に庶民的なお菓子です。京都、金沢、松江が“三大菓子処”といわれますが、僕は名古屋を入れて“四大菓子処”といいたいです!」
――客層や売れ方に特徴はありますか?
畑 「40代の方が多く、これは普段の和菓子売り場のお客さんより10歳ほど若い。事前にオンライン予約をする方、リピーターの方も多い。つまり和菓子の情報に敏感な方々がおいしさを評価し、目的を持って買い求めてくれているといえるでしょう」
――人気が高まるきっかけがあったのでしょうか?
畑 「メディアに大きく取り上げられて…というようなことは特になく、じわじわと右肩上がりが続いてきた印象です。『名古屋直行便』を16年にわたり春・秋の年2回続けてきて(コロナ禍の時期は休止し今回は3年ぶり)、ついに名古屋が京都をしのぐほど売れるようになった。名古屋の和菓子のおいしさに気づいてくれる人が着実に増えていて、すごくうれしいです!」
【「名古屋直行便 2022」当日販売商品】
□「むらさきや」(名古屋市中区) 栗蒸し羊羹、小生菓子
□「大黒屋本店」(名古屋市中区) 季節の生菓子
□「芳光」(名古屋市北区) わらび餅、季節の生菓子
□「一朶(いちだ)」(名古屋市南区) 豆餅、本わらび餅
□「山田餅本店」(名古屋市瑞穂区) 古代米おはぎ、草餅、秀吉出世大福、鬼まんじゅう
□「亀広良」(名古屋市西区) 栗きんとん
□「きた川」(名古屋市北区) 季節の生菓子
□「川村屋賀峯総本店」(愛知県一宮市) 季節の生菓子
□「松屋長春」(愛知県稲沢市) 羽二重餅、季節の生菓子
□「松華堂」(愛知県半田市) 季節の生菓子
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「名古屋=和菓子」と聞いて驚く人も多いことでしょう。しかも、カリスマ和菓子バイヤーといわれる畑主税さん絶賛! と聞くと、さらにびっくりする人がほとんどではないでしょうか。そして、一番驚くのは当の名古屋人かもしれません。
名古屋は江戸時代から茶の湯の文化が広く浸透してきた土地柄。お茶にはお菓子がつきものですから、茶の湯とともに和菓子づくりが発展してきたのも自然なことだったと考えられます。一方で名古屋は観光地ではなかったため、銘菓の数々も全国に知られることはなく、また地元の人も日ごろ慣れ親しんできた和菓子を特別なものだとは思っていなかったのでしょう。
長らく地元でのみひっそりと愛されながら、1人の和菓子バイヤーがこつこつ続けてきた取り組みによって、いよいよ光が当たるようになってきた名古屋の和菓子。新宿高島屋での次回の「名古屋直行便」は2023年春の予定。東京の皆さんは首を長くして待っていてください。そして、待ちきれないという人は、是非名古屋に足を運んでみてください。風味絶佳な和菓子たちが皆さんをお待ちしています!
(撮影/売り場の商品写真は畑さん提供。他は筆者撮影 ※取材協力/やっとかめ文化祭実行委員会)