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【安保報道】朝毎東は「違憲」派学者重用、読産日は憲法学者に触れずー6月の新聞1面を分析

楊井人文弁護士
※はそれぞれの憲法学者が6月に出席した主な国会や記者会見

【GoHooトピックス7月10日】新聞1面で憲法学者の言説をたびたび取り上げたメディアがある一方で、全く言及しなかったメディアもある――国会で審議されている安保法制に関する報道の実態を調べるため、日本報道検証機構は読売、産経、日経、毎日、朝日、東京の6紙を対象に、データベースを利用するなどして6月1日~30日の紙面を調査し、分析した。その結果、各紙の紙面に憲法学者が登場する頻度や、法案が違憲か合憲かをめぐる見出しの付け方に大きな違いがあることが、浮き彫りになった。

各紙とも、5月までは憲法学者に言及した記事はほとんどなかったが、6月4日に衆議院憲法審査会の参考人質疑で憲法学者3人が政府が提出している安保法案について「憲法違反」と表明した直後から急増。5月は主な憲法学者11人の名前もしくは「憲法学者」という表現が出てくる記事は6紙あわせて約50件だったが、6月は約380件あった。実名で言及された憲法学者の上位は、「違憲」派では長谷部恭男・早稲田大教授と小林節・慶應大名誉教授、「合憲」派では西修・駒沢大名誉教授、百地章日本大教授が占めていた。国会参考人質疑や記者会見の頻度もほぼ同じであることから、この4人の学者に絞って記事での取り上げ方を調査した(東京版のみで、産経は夕刊なし。期間は6月1日から30日まで。社説などを含め全記事対象)。

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「違憲」派学者だけを取り上げた記事、「合憲」派学者だけを取り上げた記事、「違憲」派と「合憲」派の両方に言及した記事の本数を調べたところ、6紙とも「違憲」派だけの記事が「合憲」派だけの記事を上回っていたものの、とりわけ朝日、毎日、東京は「違憲」派学者だけに言及した記事が圧倒的に多いことがわかった。たとえば、朝日は「違憲」派だけの記事が25本、「合憲」派だけの記事が2本、東京は「違憲」派だけの記事が32本、「合憲」派だけの記事が8本だった。他方、読売、日経はこの4人の学者を取り上げた記事自体が少なく、他紙の3分の1程度だった

また、名前は出ていないが「憲法学者」という単語が出てくる記事についても調べたところ、朝日、毎日、東京は他の3紙の2倍以上あり、そのほとんどが憲法学者が安保法案について「違憲」と指摘しているという文脈で用いられていた。

さらに、新聞1面はその新聞社のニュース価値判断が表れ、読者への影響力も大きいことから、1面にこの憲法学者4人が登場した回数も調べた(冒頭タイトル下のグラフ参照)。その結果、朝日、毎日、東京の1面に最も多く言及されていたのは「違憲」派の長谷部教授で6~7回。次に小林教授で3~5回。「合憲」派の西教授と百地教授はその半分以下だった。他方、読売、産経、日経は1面で「合憲」派を含めてこの4人に言及した記事がほぼ皆無で、唯一あったのが長谷部教授に批判的に言及した産経新聞6月27日付朝刊1面コラムの「産経抄」だった。

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さらに、憲法論争に関する社論とニュース記事の見出しの特徴をみるため、6月の安保法案関連報道のうち「違憲」「憲法違反」「合憲」といった表現が入った見出しを網羅的に抽出して傾向を調べた。(1)「違憲」もしくは「憲法違反」という文字があり「違憲」論に否定的表現がないもの、(2)「合憲」という文字があり「合憲」論に否定的表現があるもの(たとえば「安保法案 乏しき『合憲』 政府見解『砂川判決』拡大解釈」)をあわせて「違憲」型見出し、(3)「合憲」という文字があり「合憲」論に否定的表現がないもの、(4)「違憲」「憲法違反」という文字があり「違憲」論に否定的表現があるもの(たとえば「衆院特別委 防衛相が反論『安保法案 憲法違反でない』」)を「合憲」型見出し、(5)「違憲」説と「合憲」説を均等に両論併記したもの(たとえば「衆院特別委 安保法案有識者が議論『合憲』『違憲』割れる」)は「両論併記」型見出しとして分類。社論の立場が見出しにそのまま反映される社説や寄稿は除外し、解説を含む一般のニュース記事に限定して調べた。

その結果、東京は「違憲」型が突出して多く、「合憲」型の9件の3倍超の32件もあった。朝日も「違憲」型の13件が「合憲」型の7件の2倍近くあった一方、読売はその逆で「合憲」型が13件、「違憲」型が5件だった。毎日、産経、日経は「違憲」型見出しと「合憲」型見出しの割合がほぼ同じだった。憲法論議を主題とした記事が最も多かったのは東京の46件で、産経(ただし、東京版は夕刊なし)の約3倍だった。

日本報道検証機構が今回とりまとめたのは調査結果の一部。今後も、読者に多様な情報・視点を提供しているか、社論と異なる見解を公平に扱っているどうかといった観点から、安保報道に関する多角的な調査、分析を進め、報告書にまとめて発表することも検討している。

(*) 本文中、「『違憲』派学者だけを取り上げた記事、『違憲』派学者だけを取り上げた記事、『違憲』派と『合憲』派の両方に言及した記事の本数を調べたところ」は「『違憲』派学者だけを取り上げた記事、『合憲』派学者だけを取り上げた記事、『違憲』派と『合憲』派の両方に言及した記事の本数を調べたところ」の誤りでした。お詫びして、訂正します。(2015/7/10 21:50)

(**) 「安保法案 憲法論争見出し(6/1~30)」のグラフで、東京新聞で「違憲」型が34件、「合憲」型が7件としていましたが、正しくは「違憲」型が36件、「合憲」型が9件でした。精査したところ、カウントの仕方に誤りがあったことが判明しました。このため、「東京は『違憲』型が突出して多く、『合憲』型の7件の5倍近くの34件もあった」の部分は「東京は『違憲』型が突出して多く、『合憲』型の9件の3倍超の32件もあった」に訂正して、お詫びします。各グラフの元のデータは報告書に盛り込んで発表する予定です。(2015/7/18 1:50)

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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