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Z世代に人気の居酒屋、5社の特徴とトレンドをまとめてみた「後編」

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
「テルマエ」では壁に酒が出てくる蛇口を設けてフリーに楽しんでもらう(筆者撮影)

表題のとおり、居酒屋を展開している5社の特徴とトレンドを紹介している。創業した順番で、「前編」は昨日の4月15日に2社を紹介した。「後編」として、ここで3社を紹介する。代表者の年齢は40歳、30歳、30歳である。

「2時間食べ放題飲み放題2200円」で予約客が9割

「Z世代に人気の居酒屋」3番目は株式会社おすすめ屋(本社/東京都目黒区、代表/加藤誠庸〈みのり〉)。同社の店舗は「おすすめ屋」で「2時間食べ放題飲み放題」が2200円(税込)。ほかのプランもあるが、メニューにはアラカルトがなく「食べ放題飲み放題」一本。フード、ドリンクともに70品目ずつをラインアップ。食べるものも飲むものも何でもある、という感じだ。場所は東京の場合、新宿歌舞伎町、渋谷道玄坂、池袋、上野、神田とか。名古屋は名駅、京都は河原町、大阪は梅田となんば。いずれも大きなターミナルで、誰もが知る地名である。これらにすべて直営で18店舗展開している(2024年3月末)。

店はほとんどが空中階にある。だから道路を歩いているだけでは店の存在は分からない。同店のお客は9割が予約で7割がウェブ、3割が電話。だから、ブラリと立ち寄っても大抵別の時間に来店することをお願いされる。店の中は見事に満席である。

池袋東口の店舗は8階に出店していて、ビルの1階に店のメニュー等の情報が掲示されている。「おすすめ屋」の場合は9割が予約で来店している(筆者撮影)
池袋東口の店舗は8階に出店していて、ビルの1階に店のメニュー等の情報が掲示されている。「おすすめ屋」の場合は9割が予約で来店している(筆者撮影)

代表の加藤氏(40歳)が飲食業に参入したのは2011年、現在のモデルとなる店舗は2015年東京・八王子にオープンした。ここは学生が多いエリアで「食べ放題飲み放題」の文化があった。大手居酒屋がこれを行っていて、同社がここに参入する上で、これを片手間にやっていては勝つことができないと判断。そこで「食べ放題飲み放題」の一本にした。

おすすめ屋代表の加藤氏。理系の加藤氏は、メニュー設計から、予約の受付方など、あらゆることを徹底的にデータ化して、戦略的に組み立てている(筆者撮影)
おすすめ屋代表の加藤氏。理系の加藤氏は、メニュー設計から、予約の受付方など、あらゆることを徹底的にデータ化して、戦略的に組み立てている(筆者撮影)

加藤氏は東京理科大学で統計工学や生産管理を学び、ホームページの作成やプログラミングを得意としていた。そして、飲食店でアルバイトをしていた。

当時、『ホットペーパー』が紙媒体からウェブ媒体に切り替わる時期であった。加藤氏は、これからはポータルサイトの中で競合他社と戦うために、ウェブを自分たちで工夫してつくらないといけないと考え、このようなことをアルバイト先に提案した。

メニュー70品は表面と裏面で紹介。スモールポーションにして、さまざまな料理を楽しむことができるように設計している(おすすめ屋のHPから)
メニュー70品は表面と裏面で紹介。スモールポーションにして、さまざまな料理を楽しむことができるように設計している(おすすめ屋のHPから)

「このままだとお客様の来店が厳しくなる。私がこちらの店のウェブのページを編集するので、ウェブ経由で入ってきたコースのお客様の売上の10%をください」と。

このような営業を行うようになり、取引先は100店舗近くに広がった。

飲食店経営にリアルに取り組むようになったのは東日本大震災がきっかけ。同社の横浜のクライアントが副業として営んでいた焼鳥店から撤退して本業に専念するという。その店は空中階にあって利益を出していた。

「そんな店をたたむのはもったいない」と、加藤氏の会社がその店を継承することになった。加藤氏の会社では、その店の集客をウェブで行うようになり、ここでの取り組みが同社のノウハウとなっていった。

池袋東口店の平日20時ごろの様子。9割が予約で、予約をコントロールしていることから、営業時間のすべてがほとんど満席、1日2回転を保つようにしている(筆者撮影)
池袋東口店の平日20時ごろの様子。9割が予約で、予約をコントロールしていることから、営業時間のすべてがほとんど満席、1日2回転を保つようにしている(筆者撮影)

酒が出てくる蛇口を13個×2カ所で「タイパ」を提供

4番目は株式会社BIRCH(本社/東京都渋谷区、代表/高橋光基)。同社が経営する「テルマエ」は、店の場所が路面、地下1階、2階とファサードがつくれる場所にある。店頭の看板には「鶏皮串70円」「生中190円」、「飲み放題(1時間)398円」という低価格と飲み放題をアピールしている。「テルマエ」とは、古代ローマの大浴場のこと。これは、古代ローマの大浴場のように、たくさんの人が気軽に楽しむことが出来る場所になることをイメージして名付けたもの。

「大阪駅前第二ビル泉」の店頭。低価格をアピールする数字がよく目立つ(BIRCH提供)
「大阪駅前第二ビル泉」の店頭。低価格をアピールする数字がよく目立つ(BIRCH提供)

店内の壁に酒が出てくる蛇口が13個、それが2カ所に取り付けられている。このそばに、ソフトドリンクや炭酸水、クラッシュアイスのディスペンサーが備えられている。同社によると、これらの組み合わせで無限大のドリンクをつくることができるという。

店内の標準装備となっている「お酒が出てくる蛇口」はさながらテーマパークのような非日常性がある(筆者撮影)
店内の標準装備となっている「お酒が出てくる蛇口」はさながらテーマパークのような非日常性がある(筆者撮影)

代表の高橋氏(30歳)は、この仕組みを「タイパ」(タイムパフォーマンス)と紹介してくれた。

「ドリンクを自分で注ぎにいって、自分好みのドリンクをつくるということは、注文したドリンクを待っているのではなく、時間を有効に使っている気分になる」とのこと。

「蛇口をひねったら酒が出てくる」という仕組みは、テーマパーク的発想であるが、「タイパ」であり、「省人化」というローコスト経営の手法でもある。

高橋氏はオーストラリアでワーキングホリデーを体験した後、東京に戻り飲食企業で働いた。その会社の独立支援制度を元にして、2019年6月に起業した。25歳であった。

BIRCH代表の高橋氏は、飲食企業でマネジメントを学び25歳で独立し、コロナ禍にあって「テルマエ」の業態を生み出した(BIRCH提供)
BIRCH代表の高橋氏は、飲食企業でマネジメントを学び25歳で独立し、コロナ禍にあって「テルマエ」の業態を生み出した(BIRCH提供)

「テルマエ」の業態がひらめいたのは、コロナ禍の真っ最中のこと。2021年11月に1号店の「名古屋駅前泉」をオープンした。店名に「泉」を付けているのは、「酒が湧き出て来る」感覚だから。その後「渋谷道玄坂泉」「池袋西口泉」「川崎仲見世通り泉」「海浜幕張泉」「所沢泉」「大阪駅前第二ビル泉」「栄泉」「金山泉」と、全国に9店舗を展開している(2024年2月末)。

フードメニューの中では「鮎の塩焼き」(698円/税別以下同)と「溶岩焼き」(498円~)が出色であった。「溶岩焼き」ではハンバーグを食べたが、ハンバーグの中心がレアの状態でお客に提供されて、従業員がお客の目の前でハンバーグを半分に切り分け、切ったレアの部分を熱せられた溶岩に押し付けて食べごろを教えてくれる、というもの。

ドリンクの安さと「飲み放題」が目立つ低価格路線ではあるが、フードメニューの満足度は高い。ちなみに客単価は2500円。F(原価率)27%、L(人件費)21%でFLコストは50%を超えていない。利益率の高い業態である。

「池袋西口泉」の平日19時ごろの様子。グループ客が予約なしで入店するのは困難なほどZ世代で人気(筆者撮影)
「池袋西口泉」の平日19時ごろの様子。グループ客が予約なしで入店するのは困難なほどZ世代で人気(筆者撮影)

「鶏ヤロー」の加盟店として学び、独自業態を立ち上げる

5番目は株式会社ジュネストリー(本社/東京都大田区、代表/東明遼)。同社が展開する「均タロー」は、下北沢(路面)、大宮(2階)、高田馬場(地下1階)、溝の口(2階)、上野(地下1階)、渋谷(4階)と直営6店舗、ほかにFC2店舗がある(2024年3月末)。カッコの中に出店している階数を書いたが、基本は地下1階、1階、2階と、ファサードをつくることができる階に出店している。そして、ファサードには「からあげ串99円」「ドリンク各種199円」「お通し、席料0円」という低価格をアピールしている。店名の冠は「爆安99酒場」。

看板は低価格訴求を満載。ビール以外のドリンクが税込218円の均一価格となっている(筆者撮影)
看板は低価格訴求を満載。ビール以外のドリンクが税込218円の均一価格となっている(筆者撮影)

この店名からは「オール均一価格」が連想されるが、均一なのは「ドリンク」で、ビール以外の約20種類が「199円」(税込218円/以下同)で提供される。「フード」は、例えば「焼き餃子299円」(329円)、「ポテトフライ399円」(439円)、「チャーシューエッグ599円」(659円)となっていて、税別表記の「99」で目を引き付けているが至って普通の価格である。

代表の東明氏(30歳)は。高校時代から焼鳥居酒屋でアルバイトを行い、飲食企業に就職。コツコツと貯金をして、22歳で600万円を貯めた。これを開業資金にして、JR鶴見駅近くで起業、次に京浜急行平和台駅近くに出店した。

ジュネストリー代表の東明氏は、高校時代から居酒屋で働いて、一生懸命に貯金をして居酒屋を企業。経営者の道を歩んでいる(筆者撮影)
ジュネストリー代表の東明氏は、高校時代から居酒屋で働いて、一生懸命に貯金をして居酒屋を企業。経営者の道を歩んでいる(筆者撮影)

その後、前編で紹介した「鶏ヤロー」の存在を知り、同チェーンの加盟店となって2019年10月に「鶏ヤロー」蒲田店をオープンした。その後、創業の2店舗は撤退する。「鶏ヤロー」はコロナ禍となってから繁盛するようになる。そして「加盟店として店舗展開をしていこう」と、練馬、下北沢、横浜と展開していった。

上野店は地下1階にあり、入口がアメ横の路面にあり分かりやすい。細長い店内を効率よくレイアウトしている(筆者撮影)
上野店は地下1階にあり、入口がアメ横の路面にあり分かりやすい。細長い店内を効率よくレイアウトしている(筆者撮影)

そこで「鶏ヤロー加盟店」として業容拡大を図ることを考えた。「鶏ヤロー」の代表である和田成司氏に相談したところ、「鶏ヤローの直営店は、都心で展開したい」とのこと。そこで東明氏は「自社業態をつくって都心で展開しよう」と考えた。

このような経緯で「均タロー」が誕生した。1号店は2022年7月、下北沢にオープンした。同店は21坪、コロナ禍まっただ中でも客単価2000円で月商600万円を売った。この勢いが、自社業態の展開に勢いをつけた。

店内の壁には商品の画像と価格がプリントされた紙を張り詰めている(筆者撮影)
店内の壁には商品の画像と価格がプリントされた紙を張り詰めている(筆者撮影)

「均タロー」のモデル店舗は次のような内容だ。売上構成費は、フード30%、ドリンク25%、この他は2980円(税込)の「食べ飲み放題」(2時間制)が占めている。これで客単価は2300円。F(原価)は30%、L(人件費)30%とFLコストが60%となっている。店舗面積30坪弱、客席数80、社員3人、アルバイトがシフトに加わり7~8人の体制で営業。月商900万円とのこと。

出店戦略が異なることで相乗効果をもたらす

以上、「『Z世代に人気の居酒屋』5社の特徴とトレンド」と題して、飲食企業の動向をまとめた。それぞれのポイントはこのようになる。

① FS.Shake:代表者40歳。客単価が鶏料理「とりいちず」2200円、シーシャバー「C.STAND」2400円、もんじゃ「もんじゃ酒場 だしや」2700円。店舗はファサードがつくれる場所(地下1階、1階、2階)ある。ドリンクが低価格。「安くておいしい」に振り切る。

② 「鶏ヤロー」:代表者41歳。客単価2000円。低価格のドリンク。Z世代がリラックスできる空間。店舗はファサードがつくれる場所(地下1階、1階、2階)にある。理念浸透。

③ 「おすすめ屋」:代表者40歳。客単価2275円。2時間2200円食べ放題飲み放題。空中階に出店。ウェブ集客。

④「テルマエ」:代表者30歳。客単価2500円。低価格で訴求するがクオリティが高い普通の価格のフードもある。蛇口から酒が出てくる飲み放題。店舗はファサードがつくれる場所(地下1階、1階、2階)にある。

⑤ 「均タロー」:代表者30歳。客単価2300円。ドリンクが218円均一(税込)。店舗は主にファサードがつくれる場所(地下1階、1階、2階)にある。

これらの共通点は見ての通り、「低価格訴求」で「客単価が低い」こと。中でも特徴のあるポイントとして、「おすすめ屋」が「空中階」で展開して「ウェブ予約」を行っていることが挙げられる。「空中階」に出店することは「路面店」を獲得するための競争を回避することであり、路面店よりも低い家賃で営業が出来る。また、顧客がお値打ち感の高い商品を一度体験するとリピーターとなっていく。

この点、おすすめ屋の加藤氏は「当社の方針は、ほかのZ世代を想定している居酒屋と競合しない。当社の店を予約で利用して、二次会を近くの低価格居酒屋で行うというパターンが生まれてきている」と語る。この2月末に、東京・渋谷の「109」近くの飲食ビルに「4階:均タロー」「5階:おまかせ屋」と同時出店したが、加藤氏が述べるような利用パターンが定着して相乗効果をもたらしている。

東京・渋谷「109」近くの複合ビルに低価格業態の「おすすめ屋」と「均タロー」が同時に出店した。これによって「1次会、おすすめ屋」「2次会、均タロー」という利用パターンが定着してきている(筆者撮影)
東京・渋谷「109」近くの複合ビルに低価格業態の「おすすめ屋」と「均タロー」が同時に出店した。これによって「1次会、おすすめ屋」「2次会、均タロー」という利用パターンが定着してきている(筆者撮影)

そして「鶏ヤロー」の「理念浸透」は、事業を推進していくために根源的に重要なことであろう。働く人たちが、働くことに価値を見出していくことを「理念」によって束ねていくことである。

そして、顧客のZ世代は外食の経験値を重ねていき、それらに対応している働く人たちも同様に歳をとっていく。5年後10年後にZ世代はどのような外食に価値を感じるようになるのだろうか。そして、働く人の価値観も同様である。いつの世も外食シーンは時代と共に様変わりをしていく。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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