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上川法相、詭弁はやめてください―「難民鎖国」正当化する官僚作文の嘘に徹底反論

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
上川陽子法務大臣の定例記者会見 筆者撮影

 今月4日、筆者は上川陽子法務大臣の定例記者会見に参加、日本の「難民鎖国」ぶりについて問いただした。紛争や迫害から逃れ、日本にやってきた人々が難民として認められず、法務省・出入国在留管理庁(入管庁)がその収容施設に長期拘束している問題は、国内外で批難され、国連の人権関連の委員会などから繰り返し是正勧告を受けている。法務省・入管庁は、次の国会で入管法の「改正」案の提出を検討しているが、それは難民の救済につながるものなのか。上川法相は正面から筆者の質問に答えることはなく、いかにも官僚が書いた一般論を読み上げただけのような回答ではあったが、「様々な意見に耳を傾けながら、しっかりと検討をすすめていきたい」とも発言したので、今後とも、会見の場で上川法相のスタンスを問うていきたい。

○なぜ日本の難民認定率は低いのか

 日本の難民認定率の低さは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の年次報告でも、名指しで指摘されている。直近の各国の難民認定率のデータを見ると、カナダが55.7%、イギリスが46.2%、難民/移民排斥の言動が物議を醸しているトランプ政権の米国ですら29.6%であるのに、日本はたったの0.4%。文字通りケタ外れに少ない。

*参考情報 https://www.refugee.or.jp/jar/report/2017/06/09-0001.shtml

    難民支援協会提供(出典: UNHCR Refugee Data Finder, 法務省発表資料より作成)
    難民支援協会提供(出典: UNHCR Refugee Data Finder, 法務省発表資料より作成)

 一方、法務省・入管庁が検討している入管法の「改正案」は、法務大臣の諮問機関からの提言や報道から漏れ伝わってくる入管庁側の主張から観て、そもそもの問題の改善が論議されているかは、疑わしい。つまり、本来、難民として認められるべき人が法務省・入管庁の難民認定審査では、難民として認定されないという問題だ。この難民認定審査での問題点はいろいろあるのだが、難民認定率が低い一つの要因として、「個別把握論」に基づく審査が行われていることがある。

 個別把握論とは、現地政府など迫害する側が、難民認定申請者である個人を把握し迫害の対象としているか否かを、難民認定の基準とするものだ。だが、現地政府など迫害する側が具体的に誰をターゲットとしているのかを、確認すること、ましてその事実を逮捕令状等の文書等を入手して立証することは極めて難しい(逮捕令状自体ない場合も多い)。さらに、特定の民族や宗派、その他の迫害対象に、難民認定申請者が含まれているなら、その個人が迫害する側に個別に把握されていなくても、危害を加えられる可能性は高い。紛争地などで、組織的な虐殺やその他の人権侵害が繰り返されている中で、法務省・入管庁が個別把握論にこだわること自体がナンセンスだと言えよう。

 例えば、難民支援協会は、そのウェブサイトで、個別把握論がネックとなったケースとして、アフリカ某国で野党に所属していた難民申請者の女性の事例を紹介している。女性は他の野党メンバー達といたところを、現地政府側とみられる暴漢らに襲撃を受け、全身を激しく殴打され流産する等、深刻な被害を被った経緯があった。それにもかかわらず、法務省・入管庁は「(女性は)野党の指導的な立場にない」、つまり現地政府側が個別に迫害対象としていないと勝手に解釈し、女性の難民性を認めなかったのだ*。

*本稿末尾に、本ケースのその後について追記。

○上川法相の発言をファクトチェック

 先日の会見で、筆者は個別把握論に基づいた難民認定審査を見直すべきではないか、と上川法相に問うたが、個別把握論の是非には正面からは答えず、法務官僚の作文を朗読しているだけかのような回答にとどまった。以下、今月4日の会見での上川法相の発言と筆者によるファクトチェックである。

上川法相の発言:「大量の難民が発生するような地域との地理的要因など、日本とは状況が異なるので、難民認定数について単純比較することは難しい」

事実:法務省・入管庁は「大量の難民・避難民を生じさせるような事情のない国」としてフィリピン、ベトナム、スリランカ、インドネシア、ネパールをあげ、これらの国々からの難民申請者が多いことから、日本での難民認定申請は濫用・誤用ばかりであるかのような印象操作を行っている。だが、全国難民弁護団連絡会議は「世界における難民の認容率をみれば、名指しされている上記5か国出身の難民申請者の難民認定率でさえ、日本の全体の難民認定率をはるかに上回っている」と指摘(関連情報)。また、法務省・入管庁が名指しする国々でも深刻な人権侵害が行われていることは、国際的な人権団体アムネスティ・インターナショナルの年次報告(関連情報)を読めば明らかだ。

上川法相の発言:「我が国では、申請内容を個別に審査した上で、難民条約の定義に基づき、難民と認定すべき者を認定している。お一人お一人の申請に対して適切に対応していく、そして真に庇護を必要とする者を確実に保護していくということでこれまでも進めてきた」

事実:全国難民弁護団連絡会議や入管問題調査会など6団体による今年6月の共同声明は

「例えば、シリア難民であったり、ミャンマーのロヒンギャのような、諸外国であれば、その属性のみが立証できれば難民として認定されているような難民申請者についても、ほとんど難民として認定されていません。日本の難民認定制度は、明らかな機能不全を起こしており、保護すべき難民を保護できていないのです」と指摘している(関連情報)。

内戦が続くシリアの現地状況の過酷さは世界中が知るところであるが、日本では同国からの難民も法務省・入管庁は難民として認めないことが多い
内戦が続くシリアの現地状況の過酷さは世界中が知るところであるが、日本では同国からの難民も法務省・入管庁は難民として認めないことが多い写真:ロイター/アフロ

上川法相の発言:「条約上の難民とは認定できない場合でも、本国情勢などを踏まえ、人道上の配慮が必要と認められる場合の措置も認めており、丁寧に個別案件について、しっかりと審査している」

事実:日本における「人道的配慮による在留許可」(補完的保護)も、他の先進国に比べ、桁違いに受け入れ人数が少ない。2018年の補完的保護の実績では、ドイツが4万8961人、イタリアが2万4172人に対し、日本はわずか40人だ。

人道的な配慮による在留許可(≒補完的保護)も各国と比較して桁違いに少ない「収容・送還問題を考える弁護士の会」の資料に筆者が部分強調 
人道的な配慮による在留許可(≒補完的保護)も各国と比較して桁違いに少ない「収容・送還問題を考える弁護士の会」の資料に筆者が部分強調 

上川法相の発言:「(人道上の配慮から在留を認める場合等について)いろいろな形で様々な御意見があり、今年7月の「収容・送還に関する専門部会」の提言も踏まえて、入管法の改正について必要な検討を行っている」

事実:難民認定審査の改善については、「収容・送還に関する専門部会」の提言は、新たな具体策については何も言及しておらず、"2014年の「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」での提言を踏まえ実施"とするのみ。同「検討結果(報告)」以降も、日本は「難民鎖国」であり続けている。むしろ、「収容・送還に関する専門部会」提言は「再度の難民申請者の速やかな送還を検討」するなど、難民条約に反するような内容も含まれている

○官僚作文の朗読ではなく誠実な会見を

 上川法相は「様々な意見に耳を傾けながら、我が国にふさわしい制度の実現にむけて、しっかりと検討をすすめていきたい」とも発言していた。先日の会見では、法相側のスケジュールの都合で、「更問い」(回答が不十分な場合に、追加で質問を行うこと)はできなかったのだが、筆者としては今後も、会見の場で、上川法相のスタンスを問うていくつもりだ。法務官僚らの自己正当化の作文を朗読するだけではなく、上川法相には是非ともご自身の言葉で、日本の難民受け入れの課題について述べてもらいたい。

(了)

*後にこのアフリカ某国からの女性は、裁判で勝訴し、難民認定された。またこの判決は、法務省・入管庁でも反省事例とされたらしく、難民認定審査での難民性の評価についての通知が地方入管へと送られた。以下、その通知からの抜粋。

「例えば、反政府組織における活動を理由とする迫害のおそれを主張する申請者の案件については、同組織の指導者的立場にある者のみが迫害を受けるおそれがあるとの明確な出身国情報がない限り、同組織における申請者の地位のみに基づいて迫害のおそれの 有無及びその程度を評価してはならず、申請者の実質的な活動状況や過去の 迫害事情等の個別的事情を、申請者の出身国における危険性についての客観的事情に照らし合わせ、申請者の迫害のおそれの有無及びその程度を適切に評価すべきである」

出典:難民認定手続における難民該当性の適切な評価について(通知) 平成28年11月16日 事務連絡

※本記事は、志葉玲公式ブログの投稿に加筆したものである。

https://www.reishiva.net/entry/2020/12/05/174446

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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