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実は143キロ出ていた!? トライアウトから明日で1週間、前ヤクルト近藤一樹は今…

菊田康彦フリーランスライター
「平凡な積み重ねが将来非凡を生む!」が近藤の座右の銘(筆者撮影)

 2020年シーズンが終わり、プロ野球の世界では今年も数多くの選手が球団から戦力外通告を受けて自由契約選手として公示された。その中から能見篤史(前阪神タイガース)がオリックス・バファローズ、内川聖一(前福岡ソフトバンクホークス)は東京ヤクルトスワローズ、そして福留孝介(前阪神)は古巣の中日ドラゴンズと、実績あるベテランが相次いで新天地を決めた。

「まだまだ『出力』は出せる」と感じたトライアウト

 その一方で、横浜DeNAベイスターズが風張蓮(前ヤクルト)との契約合意を発表するなど、12月7日に行われたプロ野球12球団合同トライアウトに参加した選手からも、新たな契約を勝ち取る者が出てきている。ただし、そんな選手はほんの一握り。昨年まで3年連続で50試合以上に登板しながら、今シーズン限りでヤクルトを戦力外になった近藤一樹(37歳)もまた、現役続行を目指して他球団からのオファーを待ち続けている。

「10月22日(イースタン・リーグの読売ジャイアンツ戦)を最後に実戦登板から離れていた割には、違和感もなく投球できました」

 三振2つを奪うなど、打者3人を完璧に抑えたトライアウトでの登板を、近藤はそう振り返る。

 例年なら実戦で投げることなどあり得ないこの時期、しかも1カ月半も試合から離れた状態で果たして100%の力が出せるのかという懸念もあり、逡巡していたトライアウトへの参加を決断したのは“本番”1週間前のこと。シーズン終了後も例年どおりの練習やトレーニングを続けていたこともあり、そこからピッチングの強度を高めた結果、シーズン中に感じていた「紙一重でタイミングがずれていて、しっくりこないという気持ち悪さ」はなくなっていたという。

「いざトライアウトで投げてみたら、相変わらずスピードガンは出ないなって思ったんですけど、指のかかりはめっちゃ良かったんで。決して100%ではなかったですけど、次の日に『筋肉痛なんかな?』って思ったらどこも張ってなくて、まだまだ『出力』を出せるんだっていう手ごたえは感じました」

表示は130キロ台でも弾道測定器では最速143キロ

 スピードガンが出ない──。これは今年に限らず、シーズン中もしばしば近藤から聞かされていた話である。つまり球場のスピードガンで表示される球速と、さまざまなデータ収集のために多くの球団で導入されている弾道測定器「トラックマン」の数値に、乖離が見られるということだ。

「トライアウトでの球速が気になって(トラックマンの)データを確認したら(最速)143キロ。リリース(ポイント)も(ピッチャーズプレートから)215センチ前後で何も変わらなかったです」

 確かにトライアウトで最初に対戦した加藤脩平(前巨人)を空振り三振に取った外角高めのストレートは「134km」と表示されていたが、とてもそうは見えなかった。2人目の松井飛雄馬(前DeNA、登録名は飛雄馬)がライトフライに倒れた球は139キロ、3人目の中村和希(前東北楽天ゴールデンイーグルス)が空振り三振したストレートも138キロという表示だったが、近藤によればトラックマンの数値はいずれも140キロ以上。松井を打ち取ったインサイドのストレートは、143キロ出ていたという。

「シーズン中からそうだったんですよ。僕の場合は投げ方の角度とかの影響か、リリースが(他の投手よりも)前だからなのか、ホントに球場のスピードガンとの相性が悪いんで……。だから表示(される球速)だけ見て衰えとか言われるんですけど、球自体で判断してほしいですね」

「今は現役を続ける選択肢しかない」

 そのトライアウトから明日で1週間。いったん家族の待つ関西に戻った近藤のもとには、いまだNPBの球団からのオファーはない。

「待つしかないので……。今から何をしても、何も変わらない。すごい変な心境です」

 プロ19年目にして、初めて“宙ぶらりん”の状態のまま過ごすオフ。だが、そう簡単に現役をあきらめることはできない。

「(2016年の)オリックスの時みたいに早くから『このままだと構想外だから』って言われてたらまた違ったかもしれないですけど、そうではなかったので……。ケガで投げられないわけでもないですし、正直衰えたっていう感じもないので、今は現役を続けるって選択肢しかないです」

 ヤクルトが前年の最下位から2位に躍進した2018年には、球団タイ記録の74試合に投げ、首脳陣に「勝ってても負けてても、ランナーがいてもいなくても『言われればいつでも投げますよ』っていう彼の姿勢は本当にありがたかった。彼を(セットアッパーに)固定してからチームが強くなったし、右肩上がりになったっていうのはありますね」と言わしめた献身的な右腕に、働き場所を与えるチームは出てくるだろうか?

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フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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