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平均身長195センチ。男子バスケの命題「サイズアップ」したU19世代が世界に挑む

小永吉陽子Basketball Writer
平均身長195.2センチ。サイズアップして挑むU19代表。写真/FIBA.com

男子バスケットボール界の命題である「サイズアップ」した布陣で世界に挑む――。

7月3日から11日までラトビアで開催される「FIBA U19ワールドカップ2021」。日本およびアジアのアンダー世代が国際大会に出場するのは2018年8月に開催した「FIBA U18アジア選手権」以来3年ぶりで、世界大会は4年ぶりとなる。大陸予選を行っていないためFIBAユースランキング順に出場国が決定し、アジア・オセアニア大陸からはオーストラリア、韓国、日本、イランが出場する。(中国とニュージーランドは辞退)

今大会の指揮を執る佐古賢一ヘッドコーチはA代表とのコーチ兼任であり、2018年11月よりアンダーカテゴリー(U16~U19)を指導。その中で一番に取り組んできたことが「サイズアップとポジションアップ」だ。今大会に出場するU19代表の平均身長は195.2センチ。この世代としては過去最高のサイズを持つ大型チームとして挑む。

U19ワールドカップ出場は1991年、1999年、2017年に続いて4回目。2017年大会では八村塁、シェーファー アヴィ幸樹ら大学生主体で挑み、日本男子バスケットボール界(A代表含む)における世界大会の最高順位となる10位を記録した。

今大会に挑むU19代表の顔ぶれは、2018年冬から定期的に合宿や遠征をしていた当時のU16代表(現大学1年生の早生まれ・高校3年生)とU18代表(現大学2年生の早生まれ・大学1年生)が中心となるが、2020年1月のチェコ遠征以降は試合ができておらず、約1年半も実戦から離れた状態で挑むことになる。そんな逆境の中ではあるが、佐古ヘッドコーチは「世界を経験することで成長できる楽しみな世代」と期待を寄せている。佐古ヘッドコーチにU19ワールドカップへのチーム作りと、育成年代の強化について聞いた。

2018年からアンダー世代の指揮を執る佐古賢一。2021年にFIBA殿堂入り。写真/FIBA.com
2018年からアンダー世代の指揮を執る佐古賢一。2021年にFIBA殿堂入り。写真/FIBA.com

将来のA代表につながる選手を育成

――7月3日からU19ワールドカップが開催されます。アンダーカテゴリーの国際大会は3年ぶりで、世界大会は4年ぶりの出場。「待ちに待った」という気持ちでしょうか?

本当に待ちに待った大会です。U16に関してはアジアでの大会期日が決まらずに2年間も流れ、U18も大会日程が決まらず、そうしているうちに新型コロナウイルスの影響で大会が中止になってしまったので、アジアを飛ばしていきなり世界大会になります。このコロナ禍で1年以上も強化合宿ができなかったので、選手選考に関しては改めてセレクション合宿を行う必要があり、この状況下でしたが学校関係者の方には理解してもらい、春先から2回のセレクション合宿をすることができました。関係各位には本当に感謝しています。

(※このインタビュー後、大会直前に3回目となる最終選考合宿を実施している)

――今回のU19代表は、佐古ヘッドコーチがアンダーカテゴリーのヘッドコーチに就任した2018年11月から指導していた当時のU16代表(現大学1年生の早生まれ・高校3年生)とU18代表(現大学2年生の早生まれ・大学1年生)を中心に選考したメンバーと言っていいでしょうか。

そうですね。私が就任してから強化を進めていたU16とU18を合併させたチームで、U16とU18が半々のチームといえます。JBA(日本バスケットボール協会)の方針として、当時からU16とU18のアジア選手権に向けて2チームを平行に強化していました。

U18は大会まで時間があったので2年スパンで強化し、U16は2019年のアジア選手権に向けて強化していたのですが、大会日程と開催地が決まらずに延期を繰り返していたので、どちらかというと、U16のほうが海外遠征を含めて定期的に合宿を続けていたので、そのU16のメンバーをU18のメンバーに加えてどれくらい力があるのか見極める必要がありました。

――今大会に臨むU19代表には超大型センターがいるわけではないですが、歴代のアンダーカテゴリー代表と比べると、今までにない大型チームで走れる機動力があります。選手選考の基準を教えてください。

ここ数年のアンダーカテゴリーは、「将来のA代表につながる選手を育成する」ことをテーマに継続して強化してきました。とくにU16で強化してきた選手は、ナチュラルポジションからポジションアップした選手が多く、ポジションアップの適正がある選手が多かったことも特徴です。そうしたチャレンジをした中で選考しているので、今までよりサイズの大きなチームになり、将来への可能性のある選手を選出しています。

大型化について例を出すと、明成高校(仙台大明成)の佐藤久夫先生は大きい選手を積極的に早い段階からペリメーターで起用していますし、菅野ブルース選手は195を超えるサイズで、明成ではポイントガードに取り組んでいるとの報告があります。本人にポイントガードをやっている感想を聞くと「ものすごく難しい」と言っていましたが、素晴らしいチャレンジだと思います。それ以外にも、オールラウンダーや大型シューターが各学校から出てきているところです。

大型選手の頭数を増やす

――2017年大会に出場したU19代表は、八村塁ら大学2年の早生まれをはじめ、大学生を主体にディフェンスを強化したチームでした。今回のU19代表は高校生が多く選出されている若いチーム。大学2年の早生まれまで資格がある中で高校生を多く選出しているのは、ポジションアップに成功した選手が多いからでしょうか?

本来、2019年に開催するはずだったU16アジア選手権が延期、また延期になったので、U16世代はチェコの国際大会(クリスタル・ボヘミアカップ)にほぼ同じメンバーで出場して2連覇できました。そこで海外の大きな選手を相手に、ポジションアップしたプレーで自信をつけたのがこの世代です。その中心になっていたのが岩下准平(福大大濠高3年)、山﨑一渉、菅野ブルース(ともに仙台大明成高3年)らで、彼らは高校3年生ですがU19でも十分通用する選手たちです。

また早生まれの対象として金近廉、ハーパー ローレンスジュニア(ともに東海大1年)、浅井英矢(筑波大1年)らが当時のU16として活動していて、彼らは大学1年生になりました。ですから、ともにU16で活動していた高校3年生と大学1年生はほとんど差がないと思っています。

そして、さらに若い世代として期待される川島悠翔(福大大濠高1年)、介川アンソニー翔(開志国際高2年)を今年4月の第2次強化合宿で候補に加えて競わせました。最近は海外でプレーすることを目指している選手が多くなっています。国際大会を経験するなら早ければ早いほどいいので、有望な選手は飛び級で参加させています。

※岩下准平、菅野ブルースは高校2年次に負傷があり、昨年はリハビリのためゲームに出場していなかったが、現在は復帰している。

――アメリカでプレーしている山ノ内勇登選手の合流は?

彼はこのコロナ禍ではセレクション合宿に参加できなかったのですが、以前のU16の合宿には何度か参加していて、最近のプレーもチェックしています。現時点では参加する方向で動いていて、現地で合流する予定です。とびきり大きなセンタープレーヤーはいませんが、彼の加入によって、2~4番ポジションは世界基準のサイズになったと思います。

――JBAではアンダーカテゴリーからトップカテゴリーまで「一気通貫」の強化体制を掲げています。その第一歩がアンダーカテゴリーから大型選手を発掘、育成していく方針となりますか?

そう思っています。というのは、これから誰がA代表のヘッドコーチになったとしても、大型の優秀な選手の頭数を多くしておくことが、選手選考の幅を広げることにつながるからです。それに、ポジションアップするならば早ければ早い方がいいです。選手の将来の選択肢が広くなっていきますから。

もちろんポジションには適正がありますし、サイズがある選手を育成するには時間がかかります。だからこそ、試合の機会がたくさんほしいところです。今回、はじめての大会がいきなり世界大会となりましたが、本来であればアジアの大会に向けてセレクション合宿をして海外遠征を行うので、そうした機会の中で大きい選手の頭数を増やす育成をすることができます。サイズのある選手が全員ペリメーターでプレーできるように、アンダーカテゴリーからチャレンジさせていくことが、この世代でいちばん取り組まなくてはならない課題だと思っています。

日本は強豪のカナダ、リトアニアと同グループ。初戦のセネガル戦がカギを握る。図像/FIBA.com
日本は強豪のカナダ、リトアニアと同グループ。初戦のセネガル戦がカギを握る。図像/FIBA.com

U19代表は小さな選手と比べても変わらない機動力がある

――U19ワールドカップではサイズアップ、ポジションアップした選手たちがどこまでやれるかが、着目点のひとつになりますね。

先ほど「今までにない大型チーム」と言っていただきましたが、このチームを指導していると、大きいということを感じなくなってるんですよ。それくらい動けます。私自身は、現時点で小さくて上手だと言われている選手をワールドカップに連れていっても、このメンバーで戦っても、順位はそう変わらないと思っています。このメンバーは小さい選手と比べても機動力では劣っていません。切り替えの速さや速攻のスピードが遅いと感じたこともありません。細かい技術に関しては、今完成されている選手と、コンバート中の未完成の選手では多少の違いはあると思いますが、それは経験を積んでいけばいいことです。

A代表のコーチとしても思うことですが、今の日本はいきなりワールドカップでメダルを獲ってください、ということが求められている段階ではありません。とにかく、今はコンバートした選手が何かを感じ、将来A代表に入ったときにこの経験を生かすことが大事。そして、サイズアップやコンバートした選手たちが100%全力で勝ちにいくチームを目指しています。彼らにはポジションアップをしても、自分が自信になることをこの大会で見つけてほしいです。

――サイズアップは日本バスケ界が掲げるテーマですが、佐古ヘッドコーチ自身、A代表のコーチとして、選手時代の経験を通じて、サイズアップの必要性を痛感していますか?

それは間違いないです。選手時代は高さの壁にぶち当たりましたし、A代表のコーチを経験して、絶対にサイズアップが必要だと痛感しているところです。

僕がアンダーカテゴリーのコーチをするにあたってJBAに確認したのは、アンダーからトップまでの「一気通貫」の考え方です。強化したいことはJBAが掲げる方針と同じ思いでした。とにかく、「A代表が世界で勝つためにはどうすればいいか」を考えています。その中で、アンダーカテゴリーの立ち位置は「将来に必要な選手を育てる」こと。そういったところで考え方が一致したので、取り組ませてもらっています。

日本の場合、待っていても動ける大型の選手は出てきません。世界にチャレンジする環境を作り、その場を与えなければ、2メートルのオールラウンダーは生まれないと思います。これからやるべきことは、絶対数の少ない大型選手に対し、適応能力を見ながらチャレンジさせていくこと。それも根気強くやっていくことが必要です。このまま何もせずに選手が出現するのを待っていたら、何も起こりません。日本の大学で190センチの選手がセンターをやる現状が増えていくだけだと思います。だから、より早い中学生、高校生のタイミングから、サイズのある選手がペリメーターのプレーができるように取り組んでいきたいです。

――実際の問題点として、2020年1月のチェコ遠征からは1年半が経ち、試合も合宿も十分にできていません。試合勘を取り戻しながら、大会を戦っていくための課題は?

この大会の前にアジアで試合がしたかったのが本音です。勝つとか、負けるというよりも、とにかく、ゲームをたくさんさせてあげたかった。コンバートをしている選手というのは、10年間そのポジションをやっている選手に比べれば、どうしても自分の中で消化する速度が遅くなってしまうので、なかなか自信が持てないものです。ある程度のゲーム数をこなしながら、成功体験と失敗体験を繰り返せば、このチームはもっともっと楽しみなチームになったと思います。ただ、この状況で世界大会が開催されることは本当に良かったことですし、感謝しなければなりません。選手たちも同じ思いで、世界で戦うのを楽しみにしています。

ワールドカップではトランジションの速さやアグレッシブなディフェンス、運動量で負けない戦いを目指しています。ここでチャレンジしたことが将来に絶対に生きる。そんな戦いをします。若い世代が成長する姿を見てください。

――今大会の目標は?

まず1勝することです。A代表は2019年のワールドカップでは全敗で終わっているので、若い世代が世界大会で1勝をもぎ取ることを目指します。そして試合ごとに成長、変化する選手たちを見てみたいです。

◆FIBA U19ワールドカップ公式サイト

グループラウンド

日本(FIBAユース世代ランキング27位)

7月3日(土)18:00 vs セネガル(38位)

7月4日(日)18:00 vs カナダ(2位)

7月6日(火)21:00 vs リトアニア(5位)

※試合開始時間は日本時間

FIBA U19ワールドカップ2021 日本代表

4 元田 大陽(190/SG/東海大2年)※キャプテン

5 米山 ジャバ偉生(191/PF/専修大2年)

7 木林 優(203/PF/筑波大2年)

8 小川 敦也(191/PG/筑波大1年)

11 ハーパー ローレンス Jr(183/PG/東海大1年)

12 浅井 英矢(200/C/筑波大1年)

13 金近 廉(198/SF/東海大1年)

14 岩下 准平(183/PG/福大大濠高3年)

15 菅野 ブルース(198/SF/仙台大明成高3年)

16 山ノ内 勇登(204/PF/リベットアカデミー)

17 山﨑 一渉(200/SF/仙台大明成高3年)

18 川島 悠翔(201/PF/福大大濠高1年)

※ロスターは日本協会発表より

※身長はセンチを省略

◆2017年U19ワールドカップに出場した八村塁のプレー

Rui Hachimura's VERY BEST plays from the FIBA U19 Basketball World Cup

Basketball Writer

「月刊バスケットボール」「HOOP」のバスケ専門誌編集部を経てフリーのスポーツライターに。ここではバスケの現場で起きていることやバスケに携わる人々を丁寧に綴る場とし、興味を持っているアジアバスケのレポートも発表したい。国内では旧姓で活動、FIBA国際大会ではパスポート名「YOKO TAKEDA」で活動。

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