ビッグバン・インフレーションとは?なぜ有力なのかを解説
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「ビッグバン・インフレーションとは何か?」というテーマで動画をお送りしていきます。
●宇宙には「始まり」があった
20世紀の初めまで人類は、宇宙には始まりも終わりもなく、永遠不変のものであると考えてきました。
そんな中後述する様々な観測事実が明らかになり、現在では宇宙には始まりがあったとする理論が定説となっています。
現在有力とされている宇宙の始まりの瞬間に起きた出来事は、以下の通りです。
この宇宙が誕生する以前の世界は、あらゆる物質も、時間や空間(時空)すらもない「無」の状態であったとされています。
そんな中量子論的ゆらぎから、10^(-35)m程度という極めて小さい宇宙の時空が誕生したそうです。
ただしこの宇宙誕生の前と誕生の瞬間については、理論的にも観測的にもほとんど何もわかっていません。
そして宇宙誕生の瞬間の10^(-36)秒後から10^(-34)秒後までの極めて短い間に、極めて小さい宇宙が直径1cm以上のサイズに急膨張します。
この膨張速度は光速などの比ではなく、「シャンパンの泡1粒が一瞬のうちに太陽系以上の大きさになるほど」と例えられています。
この宇宙誕生直後の急膨張を「インフレーション」と呼んでいます。
インフレーションの際、膨大な熱エネルギーが放出され、宇宙空間を満たします。
この宇宙誕生直後における超高温の火の玉のような状態の宇宙を「ビッグバン」と呼びます。
●ビッグバン宇宙論の観測的証拠
宇宙が超高温・超高密度の火の玉の状態から始まったとする「ビッグバン宇宙論」は、宇宙は永遠不変であるとする「定常宇宙論」と比べて、誕生の瞬間やそれ以前の未知の世界が出てくる意味で、直感的ではない気もします。
ただしこのビッグバン宇宙論にはそれを支持する様々な観測事実があり、現在では定説となっています。
その中でも主要な観測事実を2つ紹介します。
○宇宙の膨張
地球から遠方にある天体から放たれた光を調べると、光の波長が伸びる現象(赤方偏移)が起きていることが分かります。
さらに地球からの距離が遠い天体ほど、赤方偏移の度合いは顕著です。
また、地球は宇宙において特別な点ではないため、この宇宙における地球以外のあらゆる観測地点においても、同様に遠方の天体ほど遠ざかって見えると考えられます。
この観測事実は、「宇宙空間自体が膨張している」と解釈することで上手く説明ができます。
その場合、膨張する宇宙の過去に遡っていくと、全てが1点から始まったとする「ビッグバン宇宙論」に辿り着きます。
○宇宙背景放射の存在
ビッグバン宇宙論においては宇宙誕生直後、宇宙は高温のためあらゆる粒子が結合せず独立して存在していました。
その後温度が下がるにつれて粒子が結合して存在するようになります。
当時の宇宙では光は別の粒子と反応し、直進できませんでした。
宇宙全体が霧や雲に包まれたように、視界が開けていない状態でした。
ですが宇宙誕生から約38万年後に宇宙の温度が3000度程度になり、電子と原子核が結合して原子が誕生すると、反応する粒子がなくなったことでようやく光が直進できるようになります。
これを「宇宙の晴れ上がり」と呼びます。
仮にビッグバン宇宙論が正しければ、この宇宙の晴れ上がりの瞬間に宇宙空間を直進できるようになった最初の光である「宇宙背景放射」が、現在の地球でも観測できると予測されていました。
そして実際に1964年に宇宙背景放射が発見されました。
この光は、ビッグバン宇宙論が正しければ存在すると予測されていた光の特徴と見事に一致していたため、ビッグバン宇宙論を支持する特に強力な根拠となっています。
●インフレーション理論の根拠
先述の通り、宇宙はインフレーション直後に超高温のビッグバンの状態となったという、インフレーション理論を盛り込んだビッグバン宇宙論が定説となっています。
ではなぜビッグバンの前にインフレーションが起きたと考えられているのでしょうか?
それは端的に言うと、インフレーション理論がビッグバン宇宙論の様々な問題点を見事に解決できるからです。
○地平線問題
インフレーション理論を盛り込むことで解決できるビッグバン宇宙論の問題点の代表例に、「地平線問題」というものがあります。
この宇宙はあまりに広く、さらにあらゆる情報は光速を超えて伝わることがないので、ある観測地点から一定以上離れると、そこからの情報が宇宙誕生から一度も届いていないような領域が存在します。
ある観測地点から見て、情報が届いている範囲の限界点を「宇宙の地平線」と呼びます。
宇宙の地平線以遠からは一切の情報が届いていないため、その観測地点との因果関係を持っていません。
インフレーションのない宇宙では、因果関係を持たないほど遠く離れた領域同士は、宇宙誕生直後から全く別の進化を辿ってきたため、それらが偶然にも同じパラメータを持っている可能性はほとんど0になります。
にもかかわらず、先述の宇宙背景放射はあらゆる方向からほとんど同じ特徴の光がやってきます。
これは因果関係を持たないほど離れた領域同士が、まるで因果関係を持つかのように同じ特徴を持っていることになります。
このような問題を「地平線問題」と呼んでいますが、ここでインフレーション理論を導入すると、かつて因果関係を持っていた領域同士がインフレーションで因果関係を持たないほど遠く離れたと考えることができます。
その場合現在の宇宙で因果関係を持たないほど遠い領域同士でも、宇宙誕生直後に因果関係を持っていたことになり、宇宙背景放射があらゆる方向からほとんど同じ特徴を持ってやってくることも問題ではなくなります。
○平坦性問題
また地平線問題と同様に、「平坦性問題」についてもインフレーション理論で解決できるビッグバン宇宙論の主要な問題点として挙げられます。
宇宙は、宇宙内に存在する物質の重力により、時空全体が歪んでいる可能性が示されています。
この宇宙は時空が歪んだ宇宙なのか、それとも歪んでいない「平坦な宇宙」なのかは、物質の密度で決まると考えられています。
宇宙が平坦であるために必要な物質の密度は、「臨界密度」と呼ばれています。
宇宙の物質の密度がこの臨界密度よりも少しでも大きかったり小さかったりすると、時空が歪んだ宇宙になってしまいます。
特に誕生直後の宇宙では、物質の密度が実に10^15分の1というとてつもなく高い精度で臨界密度と一致していないと、すぐに自重で潰れるか、猛烈に膨張して現在のような宇宙はできていなかったそうです。
それにもかかわらず、観測的にはこの宇宙は高い精度で平坦であるという結果が得られています。
宇宙の密度が偶然で臨界密度に一致していたとは考えにくく、このような問題は「平坦性問題」と呼ばれています。
ですがこの問題もまたインフレーション理論によって上手く説明ができます。
誕生直後の宇宙に歪みがあろうがなかろうが、インフレーションによってそれは均され、平坦な宇宙となると考えられるからです。
○磁気単極子問題
ビッグバン宇宙論の問題点ではありませんが、「磁気単極子問題」も、インフレーションによって解決できる主要な問題の一つです。
電荷には、陽子などの+の電荷を持つ粒子と、電子などの-の電荷を持つ粒子が発見されています。
一方でN極とS極を持つ磁石をどれだけ小さく分けても、両方の極を持つより小さな磁石ができるだけです。
N極かS極の片方の性質のみを持つ粒子を「磁気単極子」と呼びます。
理論的にはこの磁気単極子はこの宇宙に豊富に存在するはずであるにもかかわらず、今まで一度も発見されていません。
これを「磁気単極子問題」と言います。
この磁気単極子問題もインフレーション理論で解決できます。
誕生直後の宇宙では高密度で存在していた磁気単極子も、インフレーションが起こると散り散りになり、現在全く観測できていない事実を説明することができます。
○観測的証拠について
インフレーションが実在していた場合、「原始重力波」と呼ばれる特別な重力波が検出できる可能性が示されています。
さらに原始重力波が実在していた場合、宇宙背景放射に「Bモード」と呼ばれる特殊な偏光パターンを痕跡として残すと考えられています。
つまり宇宙背景放射のBモードを検出できれば、間接的に原始重力波を発見したことになり、インフレーション理論が正しいことの強力な観測的証拠となると期待されています。
ということで今回は、現在の定説となっている宇宙の始まりの瞬間に起きた出来事、そしてそこで登場するビッグバンとインフレーションが実際に起きたとされる理論的根拠や観測的証拠などについて解説してきました。