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ウクライナの戦場にテルミット焼夷剤散布ドローン「ドラゴンブレス」が登場

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ陸軍第60独立機械化旅団フェイスブックよりテルミット焼夷剤散布ドローン

 最近、ウクライナ軍がテルミット焼夷剤をドローンに装着して飛行しながら燃えている焼夷剤の炎を撒き散らす戦法を考案しました。ウクライナの農地は区画の境界の部分に木が植えられており線状の林となっており、ここに敵が潜んでいる場合があります。この木々の線に沿ってテルミット焼夷剤散布ドローンが炎を撒き散らしながら飛行して敵を燻り出す目的です。

テルミット焼夷剤散布ドローン

※動画の出典:ウクライナ陸軍第60独立機械化旅団フェイスブック。なお「Vidar」とは同旅団に所属するドローン中隊の名称で、敢えて英語で命名されている。意味はおそらく北欧神話から。

木々の線。農地の境界や道路沿いに木々が植樹されている

Google地図よりウクライナ東部。農地の境界や道路沿いに木々が植樹されている
Google地図よりウクライナ東部。農地の境界や道路沿いに木々が植樹されている

 ドローンに搭載しているテルミット焼夷剤の正体はソ連製120mm迫撃砲用の3VZ4 (3-Z-2) クラスター焼夷迫撃砲弾の子弾です。1つの迫撃砲弾に6個のテルミット焼夷子弾を内蔵したもので、これを解体して子弾を取り出してドローンに搭載して運用しています。

参考資料(砲弾の図あり):120mm 3VZ4 (3-Z-2) incendiary mortar projectile | ARES

 特徴的な半円状の断面と、断面の多数の窪み、大きさなどから、3VZ4 (3-Z-2) クラスター焼夷迫撃砲弾の子弾で間違いないでしょう。この砲弾は旧ソ連時代からあるのでウクライナ軍とロシア軍の双方が保有しています。ウクライナ軍がそのまま迫撃砲で運用せずにドローンに搭載しているのは、おそらく点や面ではなく線(木々の線)に沿って燃やしたいからだと思われます。

 テルミット焼夷子弾はドローンから投下せず、装着したまま燃やしながら飛行させています。本来の焼夷迫撃砲弾としての通常使用の場合は燃焼時間60~70秒ですが、ドローン搭載運用時では燃焼時間が異なるかもしれません。

 使い方は木々を完全に焼いてしまうというよりは敵兵を燻り出すのが目的で、見た目は派手ですが単体では小さなドローンでは搭載量が少ないのでそれほど火力はありません。また目立ってしまい撃墜されやすいことが予想されるので、あまり有力な敵に使用する用途ではない筈です。

 この兵器の正式名称は発表されておらず呼び名はまだ定着していませんが、一部ではドラゴンまたはドラゴンブレス(竜の火炎の息吹)と呼ばれています。

 なお国際法上、野外で敵が隠蔽に利用している場合は植物群落を焼いてしまっても構いません。ただし敵が居ないのに植物群落を焼くのは違反です。なお人口周密地域への空中投射による焼夷兵器の使用は敵が居た場合でも違反です。火災は延焼し民間施設を無差別に巻き添えにするからです。(※「人口周密」は法律用語。ここでは文民の集中したすべての状態を指す)

4. 森林その他の植物群落を焼夷兵器による攻撃の対象とすることは、禁止する。ただし、植物群落を、戦闘員若しくは他の軍事目標を覆い、隠蔽(ぺい)し若しくは偽装するために利用している場合又は植物群落自体が軍事目標となっている場合を除く。

出典:焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書Ⅲ):長崎大学RECNA

※特定通常兵器使用禁止制限条約(Convention on Certain Conventional Weapons:略称CCW)の「焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書Ⅲ)」より一部抜粋。

※CCW議定書Ⅲの原文はUNDOA(国連軍縮部)の「Incendiary Weapons」から”PROTOCOL ON PROHIBITIONS OR RESTRICTIONS ON THE USE OF INCENDIARY WEAPONS (PROTOCOL III)”を参照。

※ウクライナとロシアの両国は同条約に参加している。ただし度々、違反行為である人口周密地域への空中投射による使用が行われている。ほとんどがロシア軍による9M22Sクラスター焼夷ロケット弾の市街地への使用による違反行為。

※なお白リン弾の燃焼温度は800~1000度なのに対し、テルミット焼夷剤の燃焼温度は2000~3000度に達する。現在知られている焼夷兵器ではテルミットが最も高温に達するとされている。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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