ロシア海軍太平洋艦隊オビ級病院船「イルティシュ」の動向は平常通り
3月26日にロシア海軍太平洋艦隊の大部隊が宗谷海峡を東進しオホーツク海に入りました。戦闘艦12隻と支援艦6隻の構成で大規模演習を行うものと見られ、支援艦の中には病院船も含まれています。
そして新型コロナウイルスが世界中に蔓延する中で病院船が活動していることで誤解が生まれ、ロシアで何か異常事態が起きているという根拠の無い陰謀論が一部で囁かれてしまいましたが、しかし実際にはこれはよくある見慣れた光景であり心配する必要はまったくありません。ロシア海軍太平洋艦隊がオホーツク海で大規模演習する際に病院船が随伴するのは何時ものことなのです。
日本防衛省では、防空識別圏に入った他国軍用機に対する戦闘機のスクランブル発進や重要な海峡を他国軍艦が通過する場合に発表を行っており、防衛省統合幕僚監部の公式サイトで誰でも閲覧することが出来ます。この公式発表で報告された中からロシア海軍太平洋艦隊の保有する唯一の病院船の動向について、過去10年分から確認したものが以下の通りです。
なおロシア太平洋艦隊がオホーツク海に入るには宗谷海峡を通過するか、間宮海峡を大回りする方法があります。つまり日本海上自衛隊が観測できるのは宗谷海峡を通過する場合のみになりますし、日本防衛省の発表も観測対象が往復する場合は片方のみ発表する場合があるので、発表された報告が動向の全てではありません。
ロシア海軍太平洋艦隊オビ級病院船「イルティシュ」の動向(日本防衛省発表、宗谷海峡)
- 2020年3月26日 宗谷海峡を東進 戦闘艦12隻含む合計18隻 ※3月27日公表
- 2018年9月1日~2日 宗谷海峡を西進 戦闘艦17隻含む合計28隻 ※9月3日発表
- 2015年7月10日 宗谷海峡を西進 戦闘艦8隻含む合計16隻 ※7月13日発表 なお前日の9日に戦闘艦3隻含む合計5隻が宗谷海峡を西進 ※7月10日発表
- 2014年10月2日 宗谷海峡を西進 戦闘艦6隻含む合計12隻 ※10月3日発表 なお数日前に戦闘艦8隻含む合計13隻が宗谷海峡を西進 ※9月29日発表
- 2013年7月13日 宗谷海峡を東進 戦闘艦8隻含む合計16隻 ※7月14日発表 なお翌日の15日に戦闘艦5隻含む合計7隻が宗谷海峡を東進 ※7月15日発表
- 2011年9月9日 宗谷海峡を東進 戦闘艦12隻含む合計20隻 ※9月10日発表
過去10年間で6回、宗谷海峡でロシア海軍太平洋艦隊のオビ級病院船「イルティシュ」の動向が報告されています。太平洋艦隊が20~30隻近い大艦隊をオホーツク海に展開して大規模演習を行った際には毎回のようにこの病院船が随伴していることがわかります。上記の戦闘艦とは水上打撃戦闘が可能な艦艇を分類しました。この大規模演習は対艦ミサイル演習を含み、外洋曳船が対艦ミサイル標的用の台船を曳航している場合がよく確認されています。
なお病院船が単独で行動している場合には日本防衛省は確認しても発表を行っていない場合があるので、病院船が大規模演習の時だけしか活動していないというわけではありません。
ロシア海軍が演習を行う際に不測の事態に備えて病院船や外洋曳船を引き連れていくのはよくあることです。演習艦隊に参加すること自体もその艦艇にとって訓練になります。病院船が活動しているからといって、ただそれだけで新型コロナウイルス関連で何かが起きているかのような邪推はする必要がありません。
今回の病院船「イルティシュ」の活動は平常通りのよくある見慣れた光景なのです。