あなたは指定席派? それとも自由席派? 意外と知らない指定席のナゾ
先日書きました「なぜ大赤字のJR北海道で530円の指定席料金で乗れる観光列車が走るのか。 その理由をご紹介します。」(2月2日)の記事の中で、北海道の釧網本線の「流氷物語号」は座席指定席料金530円を払えば誰でも乗れると書きましたが、実際には自由席もありますので、指定席料金を払わなくても乗車券だけで乗れるのですが、あえて指定席料金を強調したのはわけがあります。
それは、この列車には通路を挟んで海側が指定席、山側が自由席というおそらくJRの臨時普通列車としては初めての指定席発売方法を取っているからです。
というのもこの釧網本線の「流氷物語号」が走る区間はその名の通り流氷が接岸するオホーツク海に沿って走る路線で、当然のように皆様海側の座席を好まれます。つまり、山側の座席と海側の座席では価値そのものが違うと考えられるからで、同じ列車、同じ車両でも海側を指定席、山側を自由席とするここだけの取り扱いをしているのです。
他でも指定席需要の少ない路線では1両すべてを指定席とするのではなく、同じ号車の前半分など一部座席を指定席扱いにしている例は見られますが、通路を挟んで片側が指定席という運用はここだけになります。
指定席というのは座席が確保されていて着席が保証されているということですが、では、指定席というのはそもそもどういう取り扱いになっているのでしょうか。
あなたは指定席派? それとも自由席派?
筆者は新潟県の上越市に住んでおりますのでひと月に何度も上越妙高駅から北陸新幹線「はくたか」を利用します。同じ新幹線でも「かがやき」や「はやぶさ」などは全車両が指定席ですが、「はくたか」の普通車には指定席と自由席という2つの区分けが存在します。
筆者は基本的には指定席を予約するようにしていますが、その理由は座る席が確保されているという安心感からです。昨今はネット予約で車内の座席レイアウトから空席を見ながら好きな座席を選べるようになりましたので、そんなことも一つの楽しみとして指定席を選んでいますが、指定席の問題点としては、自分の予定や行動が予約した列車の時刻に縛られるというところでしょう。
この点、自由席は指定席に比べると数百円安いという利点はありますが、座れるかどうかという保証はありません。でも、列車の発車時刻に縛られることなく、気ままな旅ができますし、車内に入ってから状況を見て好きな席を選べるというのも利点だと考えられます。
指定席という切符の特徴
でも、指定席は必ず列車時刻の制約を受けるかと言えば、現行のルールでは「指定の列車に乗り遅れた場合、その日の後続の列車の自由席に乗車できる。」とありますから、本数が多い区間の新幹線などであれば時間を気にしなくてもフレキシブルに対応できる利点はあります。
ただし、指定席というのは「その日付の、その列車の、その号車の、その座席に限って有効」という性質の切符ですから、同じ列車の他の座席や、あるいは同じ列車の自由席に乗車することは認められませんし、乗り遅れではなく、予約しているよりも前の列車の自由席に乗ることも認められていません。
厳密には券面に指定された駅以外から乗車することもできませんから、例えば東京-仙台の指定券をお持ちのお客様が、大宮からその座席に乗車するということも効力外ということになります。
自由席の場合は、車内で車掌に申し出て差額を払って指定席へ変更することは可能ですが、指定席のお客様が同じ列車の自由席へ変更することはできません。(規則上そのような設定がありません。)
特急列車の指定席と自由席を比べた場合、指定席料金から数百円を引いた金額が自由席料金ですから、一見すると指定席の方が優位に感じますが、こうした取り扱いを見ると実はそうではなくて、指定席というのが自由席に対して優位性は持っていないということになります。その理由は、特急券(正式には特別急行券)というものは、本来は列車、座席を指定して発売されるものであり、その列車のその座席に限って有効とされるからです。
なぜこのようなルールがあるかというと、国鉄時代には特急列車というのは基本的には全車指定という原則がありました。
当時の特急列車はその名の通り「特別急行列車」でしたが、これに対して普通急行列車、いわゆる急行列車というのがたくさん走っていて、夜行列車や寝台列車など特別な列車を除き、急行列車には自由席車両が連結されていて、急行料金というのは基本的には自由席でした。急行列車の指定席に乗るためには急行券の他に指定席券が必要でしたが、特急列車は特急券そのものに座席指定という概念が組み入れられています。
それが国鉄の末期から赤字補填の増収のために急行列車をやめてより料金が高い特急列車を増発し、全車指定が原則だった特急列車に自由席車を連結し始めたところから、それまでなかった自由席特急券という制度を設け、特急料金を数百円引きで売り始めたという経緯があります。
ですから特急券の券面を見ていただいても指定席券という表示はどこにもありません。自由席特急券は存在しますが、指定席特急券というのはそもそも存在しないのです。
自由席のお客様が指定席に立ち入ることはできない?
自由席のお客様は指定席車両に立ち入ってはいけない。そう思われていらっしゃる方も多いかもしれませんが、自由席車両も指定席車両も同じ普通車であれば自由席の方も立ち入ることができます(着席はできません)。
デッキやトイレなども共用設備となりますので、自由席の方が指定席の設備を利用しても問題はありません。
その証拠に現在一部の新幹線では「オフィス車両」として8号車を開放しています(開放扱いはまもなく終了)が、お客様へのご案内はこの列車の特急券、乗車券をお持ちの方であればどなたでもご利用いただけますといわれていますので(全車指定席の列車は除く)、1~4号車の自由席のお客様が8号車に行くことができる。つまり自由席車両から指定席車両に立ち入ることは可能だということになります。
しかしながら、グリーン車やグランクラスとなるとこれは特別車両扱いとなりますから、普通車のお客様はデッキやトイレなどの設備を使用することもできないということになります。もちろん特別車両の方には優位性がありますから、グリーン車のお客様が普通車両に立ち入ることは可能ということです。
このように考えると、筆者としてはどちらかというと自由席の方が自由度が高くてよいような気がします。
ガラガラな自由席と満席の指定席
年末年始のシーズン中に指定席を予約していた列車に乗り遅れたことがありました。
仕方なしに後続列車の自由席に並んだのですが、意外にもガラガラでした。
車内に入って好きな場所に座ると周囲には誰もいません。「おや、ずいぶん空いているな。」と思ったのですが、車内アナウンスでは「本日指定席は満席となっております。今空いている座席にも途中からお客様がご乗車されます。トラブル防止のために、指定されたお座席にお座りください。」と車掌さんが連呼していました。
そう考えると、自由席の方がいいのかもしれないと思いました。
以上、鉄道のルールを一般の方にわかりやすく解説させていただきましたが、JRの旅客営業規則や取扱規定では指定席にはいろいろと制約があります。ただし、物事をしゃくし定規にすべて規則に当てはめようとすると、規則そのものが現状の旅客の嗜好や動きと合わなくなってきていることもありますので、実際の現場では臨機応変に対応しなければなりません。そのためには国鉄時代から「通達」というものを出していて、現場で柔軟に対応できるようになっています。
例えば多客時で自由席の乗車率が120%を超えた場合などでは自由席のお客様の指定席への誘導を行ったりしていますし、指定された本来の乗車駅から乗車しなかったからといって特急券を無効扱いされることもありません。
こういう通達はその有効期限も合わせると無数にあり、公開されるものではありませんので時々旅客営業規則等との整合性に疑問を持つ方がいらっしゃるようですが、規則や約款というのは基本的には事業者側に有利にできています。通達はその運用上利用者側に有利に取り扱うものですので、趣味の研究以外では議論に値するものではないと筆者は考えます。
このような指定席と自由席の関係ですが、鉄道の長い歴史や経緯を考えてみると、釧網本線で走る「流氷物語号」の海側指定席という形態は座席の確保ではなく、景観の確保を売りにしているのですから、今までの座席指定の概念を打ち破る新しい挑戦をJR北海道が行っていると言えるわけで、経営難にあえぐJR北海道の取り組みとしては高く評価できるのではないかと筆者は考えます。
(つづく)
次回は指定席の鉄道会社側の問題点について解説してみたいと思います。
※おことわり
・本文は国鉄、JRの各規則を平易に解説したもので、一部文言等は実際と異なる場合があります。
・本文中に使用した写真は、表記の無いものは筆者撮影、所蔵のものです。