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なぜ大赤字のJR北海道で530円の指定席料金で乗れる観光列車が走るのか。 その理由をご紹介します。

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

北海道網走地方気象台から本日流氷初日と発表がありました。

いよいよ厳寒期のシーズン到来です。

JR北海道の釧網(せんもう)本線の網走-知床斜里間では1月28日から今年も観光列車「流氷物語号」が運行開始しました。

釧網本線(釧路-網走)はJR北海道の路線の中でも「今後維持が困難な路線」にノミネートされていて廃止が噂される路線です。その路線でなぜ観光列車が毎年走るのでしょうか。

それは地域の住民の皆様方の熱心な取り組みのおかげなのです。

観光ボランティアが支える観光列車

網走市の観光ボランティア「MOTレール倶楽部」(石黒明代表)が今年も活躍しています。

このボランティア団体は市民の方を中心とした13名に、地元にある東京農業大学の学生24名を加えた37名で構成されていて、2月26日までの運転期間中、この流氷物語号に交代で毎日「乗務」してお客様へのご案内やサービスを担当しています。

流氷物語号に「乗務」する東京農大の学生さんたちです。

観光列車に市民が乗務するというのはなかなか考えられません。

乗務と言えば通常は鉄道会社の職員ですが、ここでは地元のボランティア団体の皆様が乗務して、お客様へのご案内や記念品の販売、車内の消毒や清掃などを受け持っています。

もちろん正式な鉄道会社の職員ではありませんので、ドアの開閉など運転取り扱いに関することはできませんが、それは運転士さんや車掌さんのお仕事。言ってみればJRは運転士さんと車掌さんだけ乗務させれば、あとはMOTレール倶楽部の皆様方がおもてなし全般をやってくれるのです。

これは、鉄道会社にとってはありがたい話ですね。何しろ車内販売一つとってみたって企画、制作、仕入れ、在庫管理などいろいろな業務がありますし、鉄道会社はもともとギリギリの人数で定期列車を運転しているのが実情ですから、いくら観光列車といえどもそうそう臨時列車を走らせることはできません。

そんな会社の状況を知って、地元民が立ち上がって「私たちに任せてください!」と言ってくれるのですから、実に頼もしいではありませんか。

逆に言えば、そこまで言われてしまえば鉄道会社だってNOということはできませんね。

こういうことが地域と会社との協力関係と言いますか、持ちつ持たれつの関係。言うなればお互い様ということで、観光客の誘致、そのための情報発信という点で同じゴールを目指しているのです。

民間ならではの企画力で魅力あふれる観光列車

この流氷物語号は数年前からレトロゲームソフト「オホーツクに消ゆ」とコラボを組んでいます。ファミコン初期の世代の皆様方には懐かしいゲームですが、その商標使用許諾や版権使用契約などのすべてをMOTレール倶楽部が担当しています。

これは鉄道会社がやろうとしても現場的にはなかなか難しいことです。

そして今年はゲームソフトのサウンドを制作した上野利幸氏ご本人が約35年ぶりに手がけたオリジナルメロディを、網走駅・浜小清水駅と流氷物語号車内にて流すとのこと。

「網走駅、浜小清水駅で流れる楽曲は、『オホーツクに消ゆ』のオリジナル発車メロディです。オホーツクや北海道の雄大な風景が目に浮かぶメロディで、ゲームを知らない方でも胸に響く楽曲に仕上がっています。とくに流氷物語1号の網走駅出発前、最北のターミナル駅で聴くメロディは圧巻で、まるで長距離豪華列車の発車を彩るような雰囲気を演出することが出来ました。通常の発車ベルとは違う、オリジナルの曲が流れることは、これから特別な鉄道の旅が始まる!という期待やわくわく感があります。」(石黒明氏)

これだけの情熱を持った皆様方が、この観光列車「流氷物語号」を支えているのです。

今後広がる地域の格差

今、全国的にローカル鉄道の存続が取りざたされています。

特にJRの各ローカル線の沿線は、今までは他人事のように気にも留めてこなかった地元の鉄道から「もう無理です。」と言われて困惑している地域も多いことでしょう。

もともと地域で支える第3セクター鉄道のところは、30年以上前から地域住民の皆様方が一緒になって鉄道を支えてきていますが、JR各線の中ではそういう活動をしているところは全国的に見てもわずかです。

同じJR北海道の路線の中でも、地元が無関心のまま廃線になっていくところがいくつもありますが、ここ釧網本線のように自分たちの鉄道は自分たちで守るという当事者意識がある所とそうでないところは、今後大きな格差が生まれてくるのではないかと、全国のローカル鉄道を見て来た筆者は考えます。

景色がきれいなところは過疎地である

この流氷物語号が走る釧網本線もそうですが、全国には景色がきれいで世界的にも貴重な観光資源と言えるような鉄道路線がたくさんあります。でも、景色がきれいだということは、人が住んでいないところということです。

つまり、本来の意味での交通機関としてはなかなか成り立たない地域ですが、そういう地域の路線こそが今の時代は人を呼ぶツールになるということは、ここ数年ちょっと観光というものを勉強された方ならご理解いただけると思います。

今、日本中の田舎の町が観光で地域を盛り上げようとしています。

ということは、考えようによっては田舎の町は全国津々浦々の地域が競争相手になるということです。

そんな時に、自分たちの町にローカル鉄道があって、景色がよい所を走っているとしたら、それは使わない手はないですね。

温泉は全国に2000湯以上あると言われています。それに比べると地域鉄道は100社しかありません。JRのローカル線を入れても200あるかないかです。

地域おこしのツールとしてはローカル鉄道は良いコンテンツになるのではないでしょうか。

都会人はなぜ田舎の地域にあこがれるのか。

それは美しい景色はもちろんですが、そこで暮らしている素晴らしい人々との触れ合いを求めているからだと考えます。

このようにローカル鉄道を支える活動をしている人たちがいる地域は、都会人の皆様方から見たら「行ってみたいなあ。」と思っていただけるのではないでしょうか。

この流氷物語号は乗車券の他に530円の指定席料金をお支払いいただければ座席を確保できますし、自由席もありますから指定券を買わなくても乗車券だけでどなたでもご乗車いただけます。

いわゆる富裕層向けの豪華列車とは全く違う儲からない列車ですが、それでもJR北海道がこの区間に今年も観光列車を走らせるのは、地域の皆様方の頑張りに支えられているからです。

流氷物語号の詳細につきましてはJR北海道のホームページをご参照ください。

https://www.jrhokkaido.co.jp/travel/ryuhyo/

MOTレール倶楽部が商標権許諾を取って制作しているコラボグッズはこちらです。

https://www.motrailclub.com/

皆様方もお住まいの地域にローカル鉄道が走っていたら、ぜひ応援していただきたいと思います。

今あるものを上手に使うことが地域活性化です。

ローカル鉄道は地域活性化の重要なツールなのですから。

※本文中に使用した写真はMOTレール倶楽部提供によるものです。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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