2024年は、「日本語の歌」が世界に拡がり始めた年として、音楽業界の歴史に残る年になる。
2024年も、いよいよ終わろうとしていますが、今年は日本の音楽にとって非常に重要な分岐点になった年として記憶されることになりそうです。
特に重要なのは「日本語の歌」が世界に拡がり始めたことが明確になった1年だったという点です。
従来、日本のアーティストの楽曲が海外に拡がるためには、英語での歌唱が必須であると考えられてきました。
ピンクレディーや宇多田ヒカルさんも英語の歌で米国進出に挑戦したのが象徴的と言えるでしょう。
音楽は国境も言語の壁も越える、と一般的には言われてきたものの、「日本語の歌」のままでは国境を越えるのは難しいというのが、日本の音楽業界の「常識」だったのです。
しかし、今年はそんな「常識」が間違っていたことが明確に証明される出来事がいくつも連なる年となりました。
大きな変化のポイントとしてあげられるのは下記の4点です。
■日本語曲が海外のチャートで上位に
■日本語曲が立て続けにアメリカでゴールドディスクを獲得
■海外のフェスで日本語曲を観客が大合唱
■海外の有名アーティストと日本のアーティストのコラボが増加
■日本人アーティストのワールドツアーが増加
順番に詳細をご説明したいと思います。
■日本語曲が海外のチャートで上位に
日本語の楽曲が海外のチャートで上位に入るという現象は、ここ数年珍しくなくなってきた現象です。
2022年に突如海外で大ヒットとなった藤井風さんの「死ぬのがいいわ」を筆頭に、2023年にはYOASOBIの「アイドル」が国際チャートで1位を獲得する快挙を成し遂げました。
参考:YOASOBI「アイドル」国際チャート1位の快挙に学ぶ、日本の音楽が世界で勝つ方法
ただ、去年の段階では、こうした現象をまだ「特殊な成功」と捉える傾向が強かったのですが、今年はCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」がYouTubeの世界1位を獲得するなど、大ヒットを記録。
さらに、Creepy Nutsはその後10月にアニメ「ダンダダン」の主題歌である「オトノケ」をリリースし、こちらもグローバルチャート入りに成功した点は大きいニュースと言えるでしょう。
今回Creepy Nutsの楽曲の世界での連続ヒットは、こうした日本語曲による世界的ヒットが、単発ではなく再現可能であることを証明してくれているのです。
■日本語曲が立て続けにアメリカでゴールドディスクを獲得
さらにここ最近、日本語曲がアメリカのレコード協会が認定するゴールドディスクを立て続けに獲得しています。
昨年10月には、米津玄師さんがアニメ「チェンソーマン」の主題歌である「KICK BACK」でゴールドディスクに認定。
今年に入ってからは、藤井風さんの「死ぬのがいいわ」がゴールドディスク認定されました。
参考:藤井風「死ぬのがいいわ」の米ゴールドディスク認定の快挙で考える、日本語楽曲の可能性
さらに、6月にはBABYMETALが、Bring Me The Horizonとのコラボ曲「Kingslayer ft. BABYMETAL」でゴールドディスクに認定されているのです。
米国のゴールドディスクというと、古くは60年以上前の1963年に、坂本九さんの「上を向いて歩こう」が米国で「SUKIYAKI」としてヒットした際に獲得したことが有名です。
そうした規模のヒットを、ここに来て日本人アーティストが立て続けに獲得しているのは大きな変化と言えるでしょう。
■海外のフェスで日本語曲を観客が大合唱
さらに、今年の象徴的な現象と言えるが、世界最大規模の音楽フェスとして有名な「コーチェラ」に日本人アーティストが5組も出演を果たしたことです。
特に単独ステージに出演した、新しい学校のリーダーズやYOASOBIのステージにおいて、海外のファンが日本語の歌を大声で歌っている映像は非常に象徴的な光景だったと言えます。
参考:新しい学校のリーダーズ、圧巻の「コーチェラ」出演に学ぶ、言語を超える音楽の力
実は、こうした日本語の楽曲を海外のファンが合唱する光景は、海外のフェスに多数出演しているアーティストにおいては珍しい光景ではなくなりつつあります。
特にその代表と言えるのがBABYMETALでしょう。
BABYMETALは、2024年の1年間で世界中のフェスやライブに100万人を超える動員をしたことを発表しており、もはや海外のファンによる日本語曲の大合唱は、普通の光景と言える状態になっているのです。
参考:「世界ツアー101万人動員」の快挙を成し遂げたBABYMETALに、日本の音楽業界が学ぶべきこと(徳力基彦) - エキスパート - Yahoo!ニュース
ある意味では、昔日本人が海外のアーティストの英語曲を、うろ覚えの英語で大合唱していたのと同じことを、日本人アーティストが世界で成し遂げ始めていると言えます。
■海外の有名アーティストと日本人アーティストのコラボが増加
さらに、今年明確な新しいトレンドとして確立したのが、海外の有名アーティストと日本人アーティストのコラボです。
これまでも、前述のゴールドディスクを獲得したBABYMETALとKingslayerのコラボなど、単発ではある程度存在しましたが、今年は立て続けに海外の有名アーティストとのコラボが話題になりました。
主なものを並べると下記の通りです。
■5月:BABYMETALとElectric Callboyが「RATATATA」をリリース
アメリカの「ハードロック・デジタル・ソング・セールス」で1位獲得
■6月:千葉雄喜とミーガン・ジー・スタリオンが「Mamushi」をリリース
ミュージックビデオがYouTube世界8位にランクイン。
■7月:BE:FIRSTとATEEZが「Hush-Hush」をリリース
ビルボードジャパンの総合チャートで1位獲得
■12月:AdoとImagine Dragonsが「Take Me To The Beach (feat. Ado)」をリリース
AdoさんのSpotify月間リスナー数が急増
こうした有名アーティストとのコラボで特に注目点と言えるのが、日本語歌唱が楽曲に取り入れられている点です。
特に、千葉雄喜さんとミーガン・ジー・スタリオンさんのコラボにおいては、ミーガン・ジー・スタリオンさんも日本語のラップを一緒に歌唱していることが世界中で大きな話題となりました。
従来、日本人が海外アーティストとコラボでは英語歌唱をするのが普通だったと思いますが、今では逆にあえて日本語歌唱でのコラボが求められるようになっていると言えます。
■日本人アーティストのワールドツアーが増加
こうした流れを汲んで、日本人アーティストによるワールドツアーも明確に増加しています。
直近では、藤井風さんが20万人規模と言われるアジアツアーを行っていますし、YOASOBIも20万人近い規模のアジアツアーを実施中。
今年はXGや新しい学校のリーダーズのワールドツアーも話題になりましたし、Travis Japanやなにわ男子など、STARTO ENTERTAINMENT所属グループもワールドツアーを実施したことが注目されました。
米津玄師さんは3月から10万人を超える規模のワールドツアーが予定されていますし、BE:FIRSTも来年ワールドツアーを実施することを予告。
また、今年ヨーロッパツアーを成功させたAdoさんが、来年50万人規模のワールドツアーを展開すると発表したことは非常に大きな話題になりました。
こうした日本人アーティストによる積極的なワールドツアーの展開により、海外にさらに日本語の歌のファンが増えることは間違いないでしょう。
日本語曲が海外に拡がらなかったのは、聞けなかったから?
実は、日本の楽曲は日本人が知らない間に海外で幅広く聞かれるようになっていたという面もあります。
象徴的なのは、日本の1970年〜80年代にヒットしたシティ・ポップが、ここ数年海外で大ブームになっていることでしょう。
ただ、これまで、多くの日本人は日本語の楽曲がそのまま海外で聞かれるようになると思っていなかったため、日本の音楽業界も日本語楽曲を海外で聴けるようにする仕組みに注力してきませんでした。
日本では未だにCDビジネスが音楽市場の中心を占めていますし、ストリーミング配信を解禁していない楽曲も多数存在します。
日本の音楽番組は海外からほとんど視聴することができませんし、日本のアーティストのライブは撮影禁止が多く、ファンの動画投稿が海外で広がることもなかったわけです。
実は日本の音楽が海外に拡がらなかったのは、単純に海外では日本の音楽に出合ったり聞くための手段がほとんど無かったからと言えるかもしれません。
世界が日本語の歌に注目し始めている
しかし、それがここに来て、日本のアーティストが海外を明確に意識して活動するように変わってきた結果、世界に日本の音楽が見つかり、日本語の歌のままで世界に拡がり始めていると言えます、
直近で印象的だったのは、グラミー賞のウェブサイトにおいて、Snow ManにXG、BABYMETALやYOASOBIなど立て続けに日本人アーティストが、紹介されていた点です。
特にTravis Japanに関しては、12月リリースのアルバムの中で聞くべきアルバムとして筆頭にあげた上で、アメリカツアーの動画も紹介するなど強くプッシュされています。
Travis Japanは英語曲も複数リリースしていますが、あえて「Sweetest Tune」という日本語曲をプッシュしている点も、興味深い点と言えます。
グラミー賞のウェブサイトの担当者が、日本のアーティストの可能性を信じてくれているからこその、あえての日本語曲の紹介と考えるべきでしょう。
実は世界における「日本語の歌」の可能性を一番信じていなかったのは、私たち日本人だったのかもしれません。
日本の音楽は、間違いなく国境や言語の壁を越えていきます。
2025年は、間違いなくさらに「日本語の歌」が世界に拡がる年になるはずです。