人気ゲーム「VALORANT」がZ世代を魅了する理由、ライアットゲームズの企業コラボ戦略
世界的な人気PCゲーム「リーグ・オブ・レジェンド(以下、LoL)」や日本でも話題の「VALORANT」をリリースし、驚異的な視聴者数を誇るeスポーツ大会を世界各地で開催するRiot Games, Inc.(米国)の日本法人であるライアットゲームズ 社長 藤本恭史氏に取材。
前編では同社の斬新なビジネスモデルと日本におけるeスポーツの新潮流を聞いた。後編ではZ世代をディスプレイに釘付けにし、熱狂的なエンゲージメントを生み出すeスポーツの秘密と、参入を考える企業が重視すべきことを深掘りする。
Z世代が推すカルチャーに
徳力 前編では海外に比べて遅れをとっていた日本のeスポーツが、VALORANTの世界大会の日本開催などを経て大きなうねりを起こしていることを伺いました。特にVALORANTはファン層に女性やZ世代が目立ちますよね。
藤本 そうですね。VALORANTのファン層の7割以上はZ世代で、日本で開催される大会の来場者には女性も多いです。その背景にはプレイヤーたちの魅力もあります。今までのプロゲーマーは比較的「オタク」っぽいイメージがあったと思いますが、VALORANTのプレイヤーは非常にスタイリッシュで、ファッション雑誌の表紙を飾るようなイケメンもいます。彼らが協力して戦う姿を見たことで一気にファンが増えました。
人気を集めるゲーム配信者も日本チームの快進撃を応援していたことで、彼らのファンも一緒になって応援するという一大ムーブメントが生まれました。このような流れに敏感なZ世代の層が惹きつけられています。
Z世代の若者は、YouTubeやNetflixなどの動画を早送りして見るほど、タイパ意識が強い傾向にありますが、eスポーツの試合になると驚くほど長時間視聴するのです。1時間ほどの試合を5試合から6試合も平気で視聴し続ける。これはeスポーツとファンがつくり出す世界観が生み出した新しいトレンドと言えると考えています。
その様子を端的に示しているのがこちらの動画です。
徳力 おもしろいですね。プロスポーツの試合と同じレベルの熱狂が生まれているのがここに表れています。素朴な疑問なのですが、この観戦者は皆プレイヤーなのでしょうか?それともファンですか?
藤本 プレイヤーもいれば選手のファンもいますし、ゲーム配信者のファンもいます。
徳力 スポーツだと、実際にプレイしていない人が観戦するのは普通ですが、ゲームの場合は普段からゲームをプレイしている人が参考にするために観戦するのだと思っていたので、純粋に観客としてのファンがいるというのは新鮮です。従来のゲームセンターでのゲーム大会では考えられないですね。
藤本 ゲームの世界観とeスポーツの環境がつくり込まれ、熱量の高いオーディエンスやコミュニティがしっかりと存在しています。こういった状況がZ世代にとって「自分たちが推してもいいカルチャー」として捉えられたことが重要です。
会場で一緒に盛り上がったり応援したりすること、たとえ画面越しであっても、全世界で何百万人と見ている中の一員として参加することができる環境が整っていることで、より一層のエンゲージメントを高めていると思います。個人主義が強いと言われるZ世代も、このような形での空気感の共有を楽しんでいるのです。
徳力 熱烈なファン層の大半がZ世代という状況は、企業から見ても非常に魅力的だと思いますが、企業はeスポーツにどのように関わっていくのがよいのでしょうか? コミュニティが強固で熱量が高い場合、企業が不適切な関わり方をすると逆効果になる可能性もあると思います。スポンサーなどアライアンスを考える企業の方々にアドバイスはありますか?
藤本 スポンサーとして、大会に関わる場合は私たちとの関係になり、チームやプレイヤー個人に対する場合は個別に契約する形が一般的です。ターゲット層はそれぞれに異なってきますね。
たとえばLoLの世界大会の場合、ルイ・ヴィトンがトロフィーケースをつくったり、トロフィーをティファニーがつくったり、メルセデス・ベンツやマスターカードがスポンサーに付いたこともあります。ラグジュアリーブランドがスポンサーになった背景には、中国のオーディエンスが多いことを想定し、中国市場を見据えてではと推測できます。
徳力 ラグジュアリーブランドに接点のなかった若い人々にとって、ブランドに触れる入り口になるということですね。
藤本 そうですね。ただ、よりローカル色が強いイベントになってくると、通常の広告やスポンサーシップの方法ではあまり効果がないので注意が必要です。なぜなら、オーディエンスの大半を占めるZ世代は押し付けがましい広告を嫌う傾向があるからです。Z世代が5~6時間もディスプレイに釘付けになってくれるからといって、ブランドロゴをずっと出していたりすると逆に嫌われかねません。
徳力 では、企業はどのようにブランドを認知してもらえばいいのでしょうか。
キーワードは「世界観への溶け込み」
藤本 Z世代が「このブランドは自分たちの一部なんだ」と感じてくれると、非常に強い効果が得られます。企業側の論理で一方的に商品やロゴを提供するのではなく、プレイヤーに寄り添い、プレイヤーが望んでいるものを可能な限り実現できるよう努力するということです。
たとえばプレイヤーが試合の際に飲むドリンク、試合の合間に食べるもの、リラックスするために使うアイテム、高いパフォーマンスを出すためのアイテムなど、一連のゲームパフォーマンスやプレイヤー自身のストーリーと繋がりを感じられるものであれば、比較的スムーズに受け入れられると思います。
さらに、Z世代の若者は、自分が必要だと思うものに対する消費意欲が非常に強いです。画一的なものを消費することはあまりない代わりに、彼らが推しとする人やモノに強く関連していれば、Tシャツ1枚に数万円を平気で払います。つまり、彼らが好きなものや、繋がりのある世界観の中にうまく溶け込めるかどうかが重要なのです。
徳力 具体的な例はありますか?
藤本 ユナイテッド・アローズさんとコラボし、限定グッズを販売できたのは印象的でした。ユナイテッド・アローズさんの社内にもVALORANTファンがいて、ゲームの世界観を尊重しつつファン目線のアイデアを取り入れて、「さすが」と唸りたくなるような高品質な商品を用意してくださいました。
2022年のオフラインイベント「Riot Games ONE」を横浜アリーナで行った際は、買いたい人の長蛇の列で階段まで埋まるほどの人気ぶりで、2023年に日本で開催した世界大会でもコラボしました。今年の「Riot Games ONE 2024」でもコラボ商品を販売予定です。
※今年の販売予定商品は大会公式サイトでチェックできる。
徳力 音楽コラボにも力を入れていますよね。NewJeansとLoLのコラボやXGとVALORANTのコラボには驚きました。
藤本 そうですね。音楽とゲームのコラボは珍しくありませんが、私たちの場合、完全に世界観に同化してもらうのが特徴的だと思います。たとえば、去年のNewJeansとのコラボでは、彼らの得意な曲調とは全く異なる、LoLの世界観に沿った楽曲をつくりました。
今年のLoLの世界大会では音楽界のスーパースター、LINKIN PARKが歌ったアンセム(テーマ音楽)「Heavy Is The Crown」が9月にリリースされ、ミュージックビデオはYouTubeで5600万回以上再生されています。11月にロンドンで行われた決勝戦のオープニングセレモニーでは彼らのライブパフォーマンスが行われ、大いに盛り上がりました。
徳力 異業種コラボは、ライアットゲームズにとってはどのような意義付けなのでしょうか。
藤本 我々がeスポーツを興行ではなくプレイヤーのための場と捉えているのと同じですね。全ての目的は「プレイヤーへの還元」が基本です。ゲームをプレイすることで広がったエンゲージメントを、ゲーム外の体験でもつくり上げることを考えています。大会の内装にしても音楽にしても、全てゲームやプレイヤーのストーリーと同期して、どこまで感動をファンに届けられるかということに挑戦しています。
徳力 これまでのお話を伺って、かつてのゲームの位置づけが劇的に変わってきていると感じますね。
藤本 日本におけるエンターテインメントやIPの展開は、アニメや漫画が基本にありますが、世界的に見るとゲームが非常に強力な入り口になっています。特に私たちは、ゲームで伝えたい世界観を別の手法で表現することに対して投資を惜しまないという方針を取り、毎年、期待値を上げていくように意識しています。
徳力 藤本さんは日本マイクロソフトでマーケターとしての経験もおありですよね。日本企業のマーケターは、このトレンドにどのように関わっていくのがいいと考えていますか。
藤本 基本的ですが、大切なのはまず知ることです。私も2018年に入社した際はVTuberもゲーム配信者もゲームのプロプレイヤーも、ほとんど分かっていませんでした。ゲーム自体は経験がありましたが、そのコミュニティについても知りませんでした。
ですが、知ることで初めて生まれてくるアイデアがたくさんありましたね。マーケターとしては、大会を見て「盛り上がっているなあ」で終わらず、背景を探って、ぜひ自社にできることを考えてみてください。マーケターとしての腕の見せ所だと思います。
徳力 これからゲームの世界を知りたい人はどこから入っていけばいいのでしょうか?
藤本 VALORANTは現在、PCのほかPlayStation 5やXboxでもプレイでき、より多くの人がプレイできる環境が整っていますから、ぜひ試してほしいです。ただ、私もそうですが、年齢を重ねると目で追うのがなかなか難しいという悲しい現実が(苦笑)。
簡単な方法としては、eスポーツの放送を見ることをお勧めします。VALORANTでは世界大会のほかに日本にも国内大会がありますし、毎週のように熱い戦いが繰り広げられています。公式YouTubeチャンネルなどで気軽に見られます。空気感を知ることができますし、最初は何が何だか分からないかもしれませんが、不思議とずっと見ていられます。ファンのコメントも興味深いですよ。
【対談後記】
私自身、ゲームとともに育った世代ではありますが、昭和におけるゲームと、現在のZ世代にとってのゲームは、根本的に位置づけが変わっているということを痛感したインタビューでした。
ライアットゲームズの特徴は徹底的にユーザー目線でゲームもコミュニティも運営されているという点でしょう。そのポジションが、信じられないほどの同時視聴数や、ハードルが高かったはずの日本市場での成功につながっていると感じます。
特に企業のマーケティングにとっては、ある意味従来のスポーツよりもVALORANTのようなeスポーツの方が、デジタルアイテムでのコラボなど新しいコラボの可能性が拡がっているとも言えます。
これまでeスポーツに興味が無かった方も、この記事が「知る」きっかけになれば幸いです。
※この記事は、徳力基彦とアジェンダノートの共同企画として実施されたインタビュー記事を転載したものです。