モアナ2も新記録。ディズニーは「動画配信×映画館」の成功の方程式を見つけたのか
ディズニーの映画『モアナと伝説の海2』の全世界興行収入が8億ドルを突破し、第一作の全世界興行収入の6億4300万ドルを大きく上回ったことが発表されました。
この『モアナと伝説の海2』は、日本より一足先に米国では11月27日に公開され、感謝祭シーズン5日間興行収入で、過去最高の興行収入を記録するなど、数々の新記録を樹立したことでも話題となりました。
参考:『モアナと伝説の海2』『アナ雪』を大きく超える新記録を樹立!!!全世界で史上No.1記録を続々塗り替え2024年の超特大ヒット!
今年のウォルト・ディズニー・カンパニーは、この『モアナと伝説の海2』以外にも、『インサイド・ヘッド2』や『デッドプール&ウルヴァリン』なども新記録を更新し、世界興行収入で単一スタジオとしてコロナ禍後初めて50億ドルの大台を突破したことも大きく報じられています。
参考:ディズニー、コロナ禍後初の快挙 世界興収50億ドル突破
ここで注目していただきたいのは、ディズニーが配信と映画の成功の方程式を確立しつつあるという点です。
コロナ禍で「オワコン」と騒がれた映画館ビジネス
多くの方はもう忘れているかもしれませんが、2020年から2021年にかけて新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るった結果、三密をさけるために世界中の映画館が閉鎖に追い込まれ、甚大な影響を受けました。
並行してNetflixやDisney+などの動画配信サービスが普及し始めた事で、一部のメディアでは映画館ビジネスは「オワコン」だと報道されていたほどです。
特に象徴的だったのが、2021年に一時期ディズニーやワーナー/ブラザーズが、自分達の映画を映画館の公開と同時に自分達の動画配信サービスで配信を行うという選択をしたことです。
その結果、日本でも大手シネコンが「ブラック・ウィドウ」などのディズニー作品の上映を取りやめるなど、ディズニーとの冷戦状態に陥ったこともありました。
参考:「ブラック・ウィドウ」をめぐる、ディズニーと映画館の「冷戦」の勝者は誰なのか
当時は、動画配信サービスは明確に映画館ビジネスの敵だとみなされていたのです。
配信サービスでシリーズ映画の興行収入が底上げ
しかし、今年のディズニーの全世界の興行収入が、50億ドルを突破したように、映画館ビジネスは全くオワコンではありませんでした。
また、動画配信サービスが、映画館ビジネスにとっての敵になるどころか、実は映画館で公開される映画の興行収入を向上するための味方となることをディズニーは証明しつつあると言えるのです。
特に象徴的なのが、今年アニメーション映画史上歴代最高の興行収入を叩き出した『インサイド・ヘッド2』や、既に第一作を上回る記録を次々に達成している『モアナと伝説の海2』など、シリーズものが次々と前作を大きく上回る興行収入を叩き出している点です。
従来シリーズものの映画は、一般的には1作目の興行収入を2作目が上回るのは難しいというのが映画における常識でした。
昔は、2作目を楽しむためには1作目を視聴していることが必須となると、どうしても2作目をみに映画館に足を運ぶ人の人数が1作目を視聴した人数より少なくなってしまいがちだったからです。
しかしディズニーは、2019年にDisney+を立ち上げ、現在では世界で1億5000万人以上の会員を集めることに成功しています。
Disney+の会員は月額料金を払っていれば、いつでもディズニーの過去作品を視聴できる状態です。
そのため、シリーズものの映画において、映画館で1作目をみた人だけでなく、さらに1億5000万人のDisney+会員を2作目の潜在的な観客とすることができるわけです。
1作目の『インサイド・ヘッド』の興行収入が8億5910万ドルだったのに対して、『インサイド・ヘッド2』が16億9880万ドルと、倍近い興行収入を叩き出したのがその象徴でしょう。
配信での人気によりドラマから映画に変更
また、『モアナと伝説の海2』は『インサイド・ヘッド2』以上にDisney+があるからこそ成功した映画ということが言えます。
なぜなら『モアナと伝説の海2』は、もともとはDisney+のドラマシリーズとして企画が立ち上がった背景があるからです。
もともと「モアナと伝説の海」は2016年に公開された作品で、全世界興行収入は6億3440万ドルと、ディズニー・アニメーションの中ではそれほど大きな成功を収めた作品ではありませんでした。
しかし、Disney+が普及する過程で、Disney+会員の間で『モアナと伝説の海』のファンが急増し、Disney+のドラマシリーズとしての続編の企画が立ち上がったのです。
最終的に、Disney+の中で『モアナと伝説の海』は2020年も2021年も2番目に視聴された映画となり、2023年には何と米国内で最もストリーミング視聴された映画になるのです。
その結果、2024年に入って『モアナと伝説の海2』は映画として公開されることがサプライズで発表され、多くの関係者にも驚かれることになります。
参考:映画化はサプライズだった!もともとはテレビシリーズとして制作されていた『モアナと伝説の海2』
その後、5月に公開された予告編は、公開後24時間で1億7800万人に再生され、ディズニー・アニメーション史上最多記録を樹立するのです。
つまり、ディズニーは、Disney+を通じて過去作品のファンも増やすことができますし、視聴者の反響を見ながら、続編の制作の判断や、映画化の判断ができるようになっているわけです。
ディズニーが確立した動画配信と映画館の相乗効果
もちろん、Disney+があるからといって、ディズニーの映画作品の全てが大ヒットが約束されているわけではありません。
ただ、既にディズニーは、動画配信サービスのDisney+と、映画館ビジネスの相乗効果を生み出す成功の方程式を確立しつつあるのは間違いないでしょう。
実際に、Disney+独占のドラマシリーズとして始まった「マンダロリアン」は、2026年に「マンダロリアン&グローグー」という映画館向けの映画を公開することが発表されています。
これまで、日本でも『踊る大捜査線!』のようにテレビドラマシリーズを映画化したり、『鬼滅の刃』のようにアニメシリーズを映画化したりという、成功の方程式が確立されてきましたが、今後はディズニーのように動画配信サービスと映画を組み合わせる成功の方程式が重要な時代になってきていると言えます。
今年日本の実写映画として大ヒットを記録した「ラストマイル」が、関連する過去のテレビドラマシリーズをNetflixなどで配信して、再度注目を集めたのも、その新しい成功の方程式の一つと言えるかもしれません。
参考:「ラストマイル」の大ヒットが切り開く、「シェアード・ユニバース」という映画とドラマの新しいカタチ
今後、日本の映像関係者にとっては、ディズニーが実践しているように、配信や映画をそれぞれ別の場所と捉えるのではなく、自らの映像コンテンツをDisney+やNetflixなどのグローバルな動画配信サービスといかに連携していくかを戦略的に考えていくことが大事なポイントになりそうです。