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突然の着信あり キャンベラ病院に入院中の未亡人から 5億円あげますロマンス詐欺師につきあってみると…

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

毎日のようにFacebookには友達申請がきます。そのなかに「花子和彦」(はなこかずひこ)という方がおり、申請を許可して友達になりました。

突然、メッセージ電話が2回くる

翌日、メッセージ電話が2回かかってきました。通話禁止のカフェだったので、慌てて外に出ましたが、間に合いませんでした。

この方のプロフィールを見ると、写真は鳥の置物のようなものがアップされており、名前も花子と和彦という男女をかけ合わせたもので、性別はわかりません。

昨日、届いていたメッセージには「お友達になれたら光栄です。あなたの街の天気はどうですか?あなたも福島県出身ですか?」と書かれています。なぜ私が福島出身と思ったのかは謎ですが、すぐに折り返しの電話をしてみました。

9回ほど電話を鳴らし続けると、男性のような低い声で「もしもし」と声がします。

花子和彦は男だったようです。私も「もしもし」と呼び掛けますが、返答はありません。すると突然、ビデオ通話の呼び出し音になります。私の顔を確認しようとしているのでしょうか。しかし相手が詐欺グループだった場合、自分の顔をすべてさらけ出すと、どんな悪用をされるかわかりませんので、顔半分だけを映して通話に出ました。しかし相手の顔は映りません。結局、通話は切れてしまいました。よくみると、相手の電話の後にメッセージが届いていました。

「私の名前は花子和彦です。福島県喜多方市生まれ。オーストラリアのキャンベラ在住、70歳の未亡人です」

筆者撮影・筆者のもとにかかってきた電話とメッセージ
筆者撮影・筆者のもとにかかってきた電話とメッセージ

ロマンス詐欺の代表的な手口の一つ、キャンベラ在住の未亡人をかたる

これを見て「ロマンス詐欺師」と確信しました。

これまでに多くの被害者の取材をしてきていてわかりますが、これは未亡人になりすまして連絡をしてくるロマンス詐欺の代表的なものの一つだからです。

この手口では、オーストラリアのキャンベラに住む未亡人が「自分の命がまもなく尽きるので、身寄りのない私の遺産を受け取ってほしい」というメッセージを送ってきます。その話にのると、運送会社をかたる人間から連絡があり「あなたに送られた荷物(金塊)が税関で止められているので、税金を払ってほしい」などと金銭を要求してきます。

今は、相手にメッセージを送っただけでは無視をされることが多いために、着信を残して相手の気を引いて、メッセージを見させる手を使うようです。

しつこく電話をかけ続けると、男性の声で「ヨシヨシ」

詐欺の実態を暴くために電話をかけ続けました。7回ほどの呼び出し音で、ようやく通話になりますが、無言のままで切られます。再びかけて6回ほどの呼び出し音で通話となりますが、また切られます。

相手からは、次のようなメッセージがきます。

「ごめん。あなたは私の姿を見ることができませんでした。癌のため、声帯がもうないので、話すこともできません。喉がひどく痛くて腫れているので、病院でとても苦しんでいます。化学療法と放射線療法を受けました(中略)気分を害しないでください」

やはり病気で余命あとわずかという設定でやってきました。

返信を無視して電話をかけると、今回は早めの通話となり、途切れ途切れに声が聞こえてきます。そして男の声で「ヨシヨシ ジオディオズパ ティキヌ トゥジャパーティザー」という日本語ではない声が聞こえてきます。やはり相手は未亡人ではなく、外国人の男性のようです。

「もう一回いいですか?」と何度も聞き返しますが、応答はなく、切られてしまいました。

相手からは「話しているのは聞こえますが、話すことができません。」というメッセージがきます。それでもしつこく何度も電話をし続けると「病院にいますので電話はやめてください」若干、切れぎみの返信が届きます。

5億円を受け取ってほしいのメッセージ

電話には出てくれないようなので、メッセージでやりとりをすることにしました。

花子和彦からは次のようなメッセージがきます。

「私は最近癌と診断され、医師から余命6週間未満であると言われたため、あなたに連絡することにしました。(中略)私は困っている人や貧しい人たちに手を差し伸べたいと強く願っていますが、親切な人々の助けを得てそれを続けたいと思っています。 次の質問に答えていただければ幸いです。もし私があなたに5億円寄付したら、あなたの周りの貧しい人々を支援したいという私の内なる願望を実現するために、賢く使っていただけますか?」

このお金は「キャンベラの運送会社に預けられているので受け取ってほしい」と続き、私の取り分は1億5千万円になるとのメッセージも届きます。

筆者撮影
筆者撮影

頻繁に大仏様の言葉を使うロマンス詐欺師

さらに優しく私が「とても病気が心配です。何かしてあげられることはありますか?」とメッセージを送るとすぐに返信がありました。

「喉がひどく痛くて腫れていて、病院でとても苦しんでいます。化学療法と放射線療法を受けました。私は大仏様の恩恵で生かされています」

大仏様の恩恵の意味がよくわかりませんが、この人物は、頻繁にこの言葉を使います。

「私は大仏様に慈悲の心で私の魂を受け入れて頂きたいのです。そこで私は素晴らしい看護慈善団体に協力することに決めました。これは私が死ぬ前にこの世で行う最後の善行の一つにしたかったからです」(原文のママ)

さらに5億円のお金を保管している配送会社への手続きをするために、私の個人情報を教えてほしいといい「フルネーム(氏名)と、住所、国、個人の電話番号、電子メールアドレス、ラインID」を書いて送るように連絡がありました。

相手からも個人情報は届くが、嘘

それに対して、私も「あなたの電話番号や住所、IDを教えてもらってもよいでしょうか?」と返すと、すぐに次のようなメッセージが届きます。

「私の個人情報です。名前: 花子和彦、住所: キャンベラ病院、Yamba Dr、Garran ACT ****、オーストラリア、電話番号: +61 49*******」さらにメールと、LINE IDも載っていました。すでに、これらを尋ねられることを想定しての準備はなされているようです。

調べると、正規のキャンベラ病院の住所を載せていました。では、電話番号はどうなのでしょうか。さっそくオーストラリアの国番号に電話をしてみます。

しかし「お客様のおかけになりました電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめの上、もう一度おかけ直しください」のガイダンスが流れます。

すぐに私はメッセージを送りました。

「教えてもらった電話番号にかけましたが、通じませんでした」

花子和彦からは「何をいおうとしているのですか?」「それは私が入院している病院の電話番号です」という返答がきます。

そこで「あなたに教えてもらった電話番号にかけたけれども、通じません。嘘を教えられました」とメッセージをすると、相手は「それは私の家の固定電話です 私の亡き夫の家族が背後にいるに違いありません 彼らがそれを無効にしたに違いありません」と、慌てているのか、意味不明なメッセージを送ってきます。

「だから、病院の電話番号ではないですし、急に家の電話番号だというとは、通じない嘘の番号を教えたということですね」と厳しく追及するも、それに対する答えは返ってきません。

あなたは本当に存在する方ですか?

そこで私は「電話もでない。電話番号も嘘。あなたは本当に存在する方ですか?身元確認ができません」というメッセージを送ってみました。翌日「この病院で最初の手術の後に撮影されたものです」と本人の入院している写真が送られてきました。

筆者撮影・修正
筆者撮影・修正

しかしどうみても、福島県出身の日本人には、見えません。

そこで「日本人の方ではないように思います」とメッセージを送ると「私は日本人、あなたも日本人です。私たちは先祖の恩恵を受けて生きています。日本人は互いに助け合うように訓練されています」と嘘の上塗りをするようなメッセージが届きます。

詐欺グループはネット上の写真を勝手に使っていることが多いので、調べてみました。すぐに同じ写真を発見しました。それはイギリスのタブロイド紙などが運営するニュースサイトの記事で使われているものでした。

2019年、アメリカ人女性(当時65歳)は、肝臓がんで命の危険がありましたが、そのなかで、彼女を助けるために、C型肝炎に感染した臓器を移植して手術して助かったという記事でした。

もちろん、この女性の名前は花子和彦ではなく、アメリカ人名です。病名も違います。つまり、嘘だらけの話を私にして、詐欺にはめようとしていることがよくわかります。病気で苦しんでいる人の写真を勝手に使い、詐欺を仕掛けようとするなど絶対に許せないことです。今も花子和彦とはつながっていますので、さらにロマンス詐欺師の嘘を暴き続けて、追い込んでいくつもりです。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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