未完の大作となった『ベルセルク』。ガッツの「ドラゴンころし」はどれほどスゴイ剣なのか?
こんにちは、マンガやアニメを、空想科学の視点から考察している柳田理科雄です。
三浦建太郎先生が亡くなられて、あまりにも残念……!
『ベルセルク』は、読んでいて息が詰まるような戦いが続くマンガだ。悲劇的な展開や、凄惨なシーンも多い。絶望しかない状況のなか、狂ったように戦うガッツから、どうしても目が離せない。とても重苦しいけど、本当に面白い。
このすごい作品を描かれた三浦先生に感謝を込めて、ここでは主人公ガッツの武器について考察してみたい。そう、「ドラゴンころし」の異名を持つあの巨大な剣について。
◆重さは貴景勝くらい!
「ドラゴンころし」は、本当にデカかった。長さが大柄なガッツの身長ほどもある。劇中のナレーションは、こう紹介していた。
「それは剣と言うには、あまりに大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。それは正に鉄塊だった」(句読点は筆者)。
一般的な日本刀は、長さ1m、重量1kgほどだが、戦国時代には「野太刀」や「斬馬刀」と呼ばれる大きな刀があった。
実用に耐えたといわれる最大のものは、刃渡り180cm、全長270cm。日本刀を相似拡大した形で、重さは8kgだったという。人間が武器として使うには、そのぐらいのサイズと重量が限界なのだろう。
では、ガッツの大剣は? そのサイズや重さは公表されていないが、前述どおり全長はガッツの身長と同じくらいだから、おそらく190cmほどだろう。日本家屋の戸口の高さは、標準仕様で6尺=182cm。この剣、立てた状態では戸口を通らないのだ。
また、刀身の幅と厚さが半端ではない。マンガの描写から、長さと比較して計算すると、幅は根元が27cm、先端が18cm。厚さはなんと7.1cmで、日本刀の峰の10倍ほどもある。スマホを10個くらい重ねたような厚さ!
長い、広い、厚いという三拍子揃った「ドラゴンころし」だが、これが武器であることを考えると、いちばん気になるのはその重量である。切りつける速度が同じなら、威力は重さに比例するからだ。
剣の重量も作中では示されていないが、鋼鉄製だと仮定して、前述のような形状から計算すれば、その重量はなんと165kg!
大関貴景勝の体重が166kgだから、ガッツは貴景勝を背負って歩いているようなものである。すごすぎる!
◆てこの原理が働いて…
それにしても重い。この「ドラゴンころし」は、武器として使いこなせるのだろうか。
これほどの重さになると、持つだけで大変である。たとえば、右手で柄の前方を持ち、左手で柄の後端を持って、水平に構えたとしよう。
前述のとおり、ガッツの剣の長さは190cmと思われるが、それを元にマンガの描写で図ると、柄の長さが32cmで、刃渡りは158cm。これを下のイラストのような体勢で持つには、てこの原理が働いて、剣の重量より大きな力が必要になる。
しかも、刀身と比較して柄が短いため、より大きな力のかかる右手の場合、剣の重量の4.8倍もの力が必要に。それすなわち792kg!
すごいすごいとは思っていたが、ここまですごい怪力だったとは……!
水平に構えるだけで792kg。振り回すとなると、さらに大変である。
剣を90度振って、先端の速度をプロ野球の一流スラッガーと同じ時速155kmに到達させるとしたら、必用な力はなんと15t!
こんなモノをブンブン振り回されたら、相手もたまったものではない。切断できる太さは、樹木なら直径40cm、檻などに使われる軟鋼ですら16cm。人間が輪切りにされるのは当然で、そこらへんの物陰に隠れてもどうにもなるまい。
『ベルセルク』の世界には、こんな剣を使いこなすガッツに立ち向かう者がいっぱいいたが、あまりに蛮勇だ。真っ向から振り下ろされる「ドラゴンころし」を自分の剣で受け止めるのは、時速64kmで走ってくる自動車を刀1本で受け止めるようなもの。自分の剣ごと切断されると思う。
視点を変えれば、平然と「ドラゴンころし」を振り回せるガッツは、普通の剣を持ってもメチャクチャ強いはずだ。
ガッツが重さ1kgの普通の刀を振り回せば、そのスピードは時速4000km=マッハ3.3なのだ。ライフル銃の弾丸より速い。至近距離でガッツに刀を振り回されると、反応できる人間などいないだろう。
このヒト、本当にすごい剣士なのだ。
――そんなガッツには、いつか必ず平穏が訪れてほしいと思っていたが、それも叶わなくなってしまった。せめて繰り返し『ベルセルク』を読んで、どんな状況にも絶望しなかったガッツの戦いを堪能したい。