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ゲリラ豪雨で川に取り残された 助かるための秘策を教えてと質問されましたが 

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
豪雨で増水時の堰堤付近の川の様子。(筆者撮影)

 この数日、全国各地でゲリラ豪雨が発生し、記録的短時間大雨情報が発表されたりしています。山あいの渓流で釣りを楽しんでいて、急な増水に驚き、帰り支度をやっている最中に中州に取り残されたといった事故が相次ぎ報道されています。このような時に「助かるための秘策はありますか?」と質問されたのですが、「流れが元に戻るまで待つか、浮いて呼吸を確保するか」というところが、基本でしょうか。

ゲリラ豪雨による増水

 図1をご覧ください。9月初めに新潟県湯沢町の魚野川上流の渓谷にて、災害時のライフジャケットや緊急浮き具の有効性に関する実証実験を行っていた時の川の様子です。(a)は午後2時頃の堰堤付近の様子です。実証実験にしては流量が足りず、むしろ渓流で遊ぶ時の安全管理はどうあるべきかという動画を撮影している雰囲気でした。当然、最低限の安全管理の装備で命の危険を感じるほどの状況ではありませんでした。(b)は午後6時頃の堰堤付近の様子です。雨が降りそうだったので、一旦現場を離れて昼食に出かけ、同じ場所に戻ってきました。この付近では1時間強の間に比較的強い雨が降った後でした。堰堤全体が水で覆われて、これだけでも川の水が相当増水していることがわかります。

図1(a) 増水前の堰堤付近の様子(筆者撮影)
図1(a) 増水前の堰堤付近の様子(筆者撮影)
図1(b) 増水後の堰堤付近の様子(筆者撮影)
図1(b) 増水後の堰堤付近の様子(筆者撮影)

 図2はそれより50 mほど下流の様子の比較を示しています。(a)は午後2時頃の様子です。緊急浮き具としてのリュックサックを胸に抱いて流されている様子です。流速は毎秒50 cm程度で、市街地を流れる洪水を想定しています。比較的ゆったりしています。そして(b)は午後6時頃の同じ場所の様子です。濁流となって水が流れていて、近づくことすら身の危険を感じました。つくづく、雨が降る前に一度現場を撤収していてよかったと感じました。

図2(a) 増水前の緊急浮き具実証実験の様子(筆者撮影)
図2(a) 増水前の緊急浮き具実証実験の様子(筆者撮影)
図2(b) 増水後の様子(筆者撮影)
図2(b) 増水後の様子(筆者撮影)

助かる秘策はあるか

 秘策はないので、ゲリラ豪雨が始まる前に川から離れるのが賢明です。取り残された場合、命が助かる保障はありませんが、呼吸を確保して少しでも時間を稼ぐ方法はあります。いずれにしても、119番通報して救助隊を呼びます。

 中州に取り残された場合、歩いて岸に避難するにはライフジャケットとヘルメットを着装します。それぞれなければ中身の詰まったリュックサック(緊急浮き具)を胸に抱いて、帽子をかぶるか、タオルを頭に巻きます。

 流速が毎秒1 m程度なら膝下までは流されずに歩けます。腰下までだと流される危険が上がります。腰上は簡単に流されます。激流になり流速が秒速3 mくらいになると膝下でも厳しいですが、渓流でこれくらいの流れの速さになると、むしろ深くなっていてどうやっても渡れません。深かったり、流れが速かったりして歩いて岸に避難できないと感じたら、中州にとどまり川の水が引いていく方に期待します。

 対岸に取り残された場合、浮力の確保と頭部の保護は前述の通りです。ゲリラ豪雨は短時間で収まり、それに応じて川の増水も徐々に元に戻ります。歩いて対岸に避難できるようであればそうする選択もありますが、無理なら取り残された場所のできるだけ高い位置に移動して、安全に対岸に戻れるようになるまで待機します。

 増水の川に流された場合、十分な浮力があれば、流れそのものはあまり怖くはありません。秒速3 mは激流に見えますが、10秒流されても距離は30 m。つまり、子供のかけっこよりも遅いのです。

 ただ、岩などいろいろな障害物に当たれば大けがの元になるでしょう。流石にゲリラ豪雨の激流の中をライフジャケット着装や緊急浮き具着装状態で実証実験を行ったことがないので、これ以上のことはわかりません。ただし、ここから続く文章は、すべて実証済みです。

 堰堤の下は、下向きの流れが生じるのでライフジャケットなどを着装していても一時的に水の中に潜ることはあります。ただ、その後すぐに浮きあがってくるので、それまで息を少し我慢します。そのあたりには気泡や気泡ソル(きわめて細かな気泡)が水中に多量に存在しますが、これらの影響で浮力が損なわれることはありません(注)。

 流されるときは背浮きで。注意としては、足を水中に下げたり、背中にリュックサックなどをかつがないようにします。理由は、それらが水中にある岩にぶつかった際に、身体が大きく回転するからです。顔が水中に没したり、出たりを繰り返すので、この時に呼吸に失敗する恐れがあります。

 流されて行くとそのうち淀みが出てきます。岸に上がる余裕がでるので、自力で岸に上がります。もちろん、浮力があれば流されながら携帯電話で通話することも可能です。119番通報しながらであれば、自分の位置も消防本部に自動的に伝わります。それが早期の救助につながります。

まとめ

 とにかく、ゲリラ豪雨の心配があれば川に近づかないことが賢明です。増水した川を歩いて渡るとか、流されるとか、命の保障はありません。あくまでも選択肢の一つとしてお読みください。

注 ホワイトウオーター都市伝説というものがあります。空気を含んだ水では身体が沈むというのですが、誤解です。水中にある気泡は上昇する流れを生みますので、流れは水面に向かいます。上昇する流れのために、その場で身体は沈みません。一方、泡沫という水面に漂う、生ビールの表面の泡みたいな中では身体が泡の中に沈みます。これは窒息の原因になります。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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