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ラグビー女子日本代表、NZに大敗。元代表のレジェンド「手ごたえはあった」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
NZファンと交流するレアリー恵美子さん(右から3人目)=24日:本人提供

 ラグビーの女子15人制日本代表「サクラフィフティーン」が24日、ワールドカップ(W杯=10月8日開幕)の開催地、ニュージーランド(NZ)のオークランドの“聖地”イーデンパークで、NZ代表「ブラックファーンズ」に初めて挑戦し、12-95で大敗した。ショックだ。だが、観客席で応援した元日本代表のレアリー恵美子(旧姓・塩崎)さんは「とても誇りに思っています」と言葉に実感をこめた。

 「今回、日本のチームがニュージーランドの対戦相手に選ばれたということは、それだけ価値のあるチームだと判断されたということです。やっぱりブラックファーンズは強かった。たくさんトライをとられましたが、日本代表の2トライはいいトライでした。手ごたえはあったと思います」

 62歳のレアリーさんは、1991年の第1回W杯ウェールズ大会、94年の第2回W杯スコットランド大会に日本代表として出場した。歴史的な日本代表初トライもマークした。第1回大会の初戦のフランス代表戦にはセンター(CTB)でプレーし、0-62で大敗した。

 レアリーさんはいま、NZ人の夫とNZ南島の海岸沿いの街、カイコウラに住んでいる。8月下旬に日本に一時帰国し、歴代日本代表選手への『キャップ授与式』に出席、ラグビー仲間との旧交をあたためた。

 今回は自宅からクライストチャーチまで車で2時間半、さらに飛行機で1時間半をかけてオークランドに駆け付けた。スタンドでは「日の丸」の旗を振りながら、後輩たちへ声援を送った。

 ただ、男子同様、黒衣の女子NZ代表はとても強かった。過去、W杯5度優勝の世界ランキング2位。でかい。強い。激しい。はやい。そして、うまかった。整備してきたはずの日本のディフェンスは何度も破られ、15本のトライを重ねられた。

 試合後、レアリーさんから届いたメールには、こうあった。「自分の1991年大会のフランス戦を思い出しました。その時、日本は相手にまったく歯が立たなかったのです」

 ただ、この日は、サクラフィフティーンの闘争心は最後まで衰えなかった。ボールを持てば、果敢につないだ。しつこく攻めた。前半の終盤にはベテランフランカーの齊藤聖奈が、後半中盤には途中交代で入ったプロップ佐高裕佳が、それぞれインゴールに楕円球を持ち込んだ。

 先発FWの平均サイズが日本は身長165センチ、体重75キロ。NZが175センチ、91キロ。総重量では120キロも違った。それでも、8人一体となった結束スクラムはさほど押されなかった。「ワン・アニマル」となって耐えた。コンタクトエリアでは、それぞれがからだを張った。相手に挑みかかる気概はみえた。

 レアリーさんは説明する。

 「ニュージーランドは、地元開催のワールドカップで優勝のプレッシャーがかかっています。急遽、元オールブラックス(男子NZ代表)のコーチを引き入れたり、セブンズ(7人制ラグビー)の優秀な選手も補充したりして、必死で強化に力を注いできました。またイーデンパークで、しかもオールブラックスとのダブルヘッダーという最高の晴れ舞台も、ブラックファーンズを後押ししたと思います。格下の日本に対しても、本気で闘いに挑んでいました」

 大事なことは、この大敗の屈辱をどうW杯の勝利につなげるのかだろう。歴史を振り返れば、女子ラグビーの選手たちは劣悪な環境にもひたむきに精進してきた。だからこそ、今年、豪州代表、アイルランド代表にも初勝利を挙げるまでに成長してきたのだ。

 うれしかったのは、スタンドのNZの人たちが日本代表にも声援を送ってくれたことだった。「ラグビーって、いいスポーツだな」と、レアリーさんはつくづく思ったそうだ。

 「“ウェルダン(良く戦った)、ジャパン”って。言葉があったかくて。ニュージーランドって素敵な国だなとあらためて思いました。こちらの国でもテレビで生中継されたので、この試合を見ていた人もいっぱいいたようです。夢のようです」

 歴代の女子日本代表、いやラグビー経験者たちの情熱がサクラフィフティーンを後押しする。W杯開幕まで2週間。W杯の日本戦も観戦する予定のレアリーさんは言葉に祈りをこめた。

 「この試合ができてよかったと思います。まだ準備ができます。どんなプレッシャーがあっても、自分たちの力が出せるよう、立て直しができると信じています。ワールドカップで日本らしさを存分に発揮した試合を見ることができるのを楽しみにしています」

 ところで、南半球のNZは春を迎えた。レアリーさんはこう、言葉を足した。「まちのサクラも満開です。サクラフィフティーンを応援してくれているような気がします」と。

 W杯での日本代表の目標は「ベスト8」で、1次リーグでは、カナダ、米国、イタリアと対戦する。確かに強豪ばかりだ。だが、相手が強くなればなるほど、日本女子ラグビーのチャレンジ魂の火は燃えるのだった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2024年パリ大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。酒と平和をこよなく愛する人道主義者。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『まっちゃん部長ワクワク日記』(論創社)ほか『荒ぶるタックルマンの青春ノート』『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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