Yahoo!ニュース

宿泊できる産後ケア施設 一線の女性医師が利用した理由

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
赤ちゃんと母親が宿泊できる産後ケア施設が広がっている(ペイレスイメージズ/アフロ)

厚生労働省の研究班は昨年、2015〜16年に全国で産後1年までの母親92人が自殺したと発表し、産後うつの影響が指摘されています。ある女性医師は難産の末、体調が悪かったため産後ケア施設に赤ちゃんと宿泊しました。その体験を取材しました。

●36時間の難産、貧血も

Xさんは長い間、医師として第一線で働いてきました。妊娠中は、産後に赤ちゃんと宿泊してケアを受けられる施設については知りませんでした。つわりがひどく7キロやせてしまい、それでも休まず出勤していました。

お産は難産で、陣痛は36時間も続きました。土曜の夜9時に陣痛が始まって、日曜の朝に入院。月曜の昼にやっと生まれました。食事は出されて少し食べただけ。後半は食べられず、点滴でした。月曜には母体に炎症が起きてしまい、陣痛促進剤をたくさん入れ、痛みはさらに増しました。赤ちゃんの心拍数も落ち始め、帝王切開の準備をしつつ吸引してやっと生まれたそうです。Xさんは貧血もひどく、ぐったりしていましたが、周りには元気そうに見えたのでは、といいます。赤ちゃんは黄疸が出て一緒に退院できず、Xさんは自宅で搾乳して病院に届けました。

●研修医より辛い産後、施設で救い

産後の生活は、激務の研修医時代より大変だったと振り返るXさん。「研修医のころは、疲れてもすぐ復活したのに、産後は全く復活しませんでした」。6日連続勤務など頑張ってきて、そういう仕事ができてしまう強靭な体力と精神力がありました。ところが産後は、骨盤には激痛、疲労でフラフラ。それに睡眠不足とぼろぼろです。

赤ちゃんが自宅に帰って数日後、Xさんは40度近い熱が出ました。見かねた義理の姉が調べて、宿泊できる産後ケア施設を見つけました。赤ちゃんと一緒に休めるのでは、と勧めてくれたそうです。すぐに電話して予約し、赤ちゃんと10日ほど利用しました。

●さりげないサポートがよかった

Xさんはここでよみがえりました。助産師に授乳のこつを教えてもらったり、何もせず寝たり起きたり。赤ちゃんはみてもらえます。食事は体にいいバランスのとれたメニュー。お母さんたちで話すプログラムやミニコンサートの時間もありました。アロママッサージのできるスタッフがいて、頼みました。

母乳マッサージやアドバイスを受けて、母乳が出るようになり、さらに粉ミルクを飲ませてもいいと聞いて楽になったそうです。「外部の母乳相談は抵抗があり、生活の中でさりげないサポートがあるのがよかった。自信がなかったのが、これでいいんだと思えました」とXさん。利用料金は30万円以上かかりましたが、母子の命が守られ必要な出費だったと考えているそうです。

●娘と日帰り利用してみた

筆者は、生後83日の娘を連れて少し離れた自治体にある産後ケアセンターの日帰り利用をしたことがあります。費用は日帰り2万円と高額ですが、地元の自治体に住む人は助成があり安く利用できるので、産後に病院を退院してすぐ1週間ほど宿泊するそうです。2人目の出産というママも何人かいました。

日帰り利用の場合、朝から夕方の間に赤ちゃんを預けて休んだり、専門スタッフからアドバイスを受けたりします。小さめに生まれた娘が、急成長しぷくぷくしている時期で、母乳を飲ませすぎと言われたのは戸惑いました。

娘を預かってもらい、個室を借りて休む時間もありました。時間が短くて落ちつきませんでしたが…。産後ママに一番ありがたいのは、バランスのいい食事です。赤ちゃんを預けている間に、筆者も宿泊しているママたちと一緒に昼ごはんと早い夜ごはんをいただきました。

地元の人のほか、遠方から高い料金を払って来ているママもいました。筆者は夫が単身赴任中ということで珍しがられ、どうしてるの?といった話は盛り上がったものの共通点はなく、その後の交流にはつながらなかったです。

●預かりと食事は夢のよう

カウンセリングの時間は、アウェイ感が強くて、産後すぐでもなかったので、話してほっとしたなあという印象は残っていません。娘を抱っこして電車を乗り継ぎ、メニューをこなして疲れました。

ただ助成がきく近所の人、産後すぐ宿泊する人にはとても良い施設だと思います。産後すぐ、心身がぼろぼろの時期に授乳や抱っこの仕方を教えてもらえて精神的に支えられ、赤ちゃんの預かりと栄養ある食事で体の回復につながります。ゆっくり食べられて入浴できるなんて、通常の産後ママにとっては、夢のような状況ですから。

筆者が産後を過ごした6年前は、こうしたケア施設は少なかったです。近年、産後うつの取材をして、ケア施設が全国に広がっていると知りました。自治体と組んで運営する大きなセンターもあれば、こじんまりした助産院などの利用に助成があるケースも。

産後の自殺者が多いという調査結果は、それだけ普通でない状態になると知ってもらうための情報です。親子がまるごと見てもらえる宿泊・日帰り施設のほか、気軽に立ち寄れる場、また外出が辛い場合は家庭訪問も含め、産後の継続したサポートが求められます。これからもサポートの具体例をお伝えしていきます。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

なかのかおりの最近の記事