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ディープラーニングとAIは「火山噴火を予知」できるか

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 火山噴火の予知は、地震発生と同じくらい難しい。最近、火山灰をAIが分析することにより、火山活動の性質を迅速に把握する可能性を秘めた技術が発表された。将来的に火山噴火の予知に活かせるかもしれない。

火山噴火の予知とは

 2014年9月27日に突如として噴火した御嶽山(長野県と岐阜県境)や2018年1月23日に噴火した草津白根山(群馬県と長野県境)の例をみればわかるが、火山の噴火が予知できていれば人命被害を防げていたのではないかという例は多い。日本は火山列島であり、活火山や休火山も多く、地震予知とともに火山噴火の観測と監視の体制にも多額の予算をかけて整備してきた。

 人命が失われた例も多いが、火山の噴火予知により被害を防ぐことができた事例もある。2000年3月31日に噴火した有珠山(北海道)では、大規模な熱泥流が流出し、火山灰も周辺自治体へ広く及んだ。だが、迅速な情報提供と避難指示の結果、住宅に大きな被害が出たが人命には1人の犠牲者も出なかった。

 有珠山のケースでは火山性地震の分析などにより噴火予知が可能になったというが、人的被害がなかった理由はこうした情報が自治体で共有され、迅速な避難につながったことが大きい。有珠山はこれまで同じようなパターンで噴火を繰り返してきており、過去のデータから噴火予知は十分に可能だったという。

 日本の地震と火山の予知は2006年に統合され、現在は「地震・火山噴火予知研究協議会」として東京大学の地震研究所が中心になり、全国の大学や研究機関が連携して地震と火山噴火の予知研究をしている。

 この協議会の科学技術・学術審議会測地学分科会、地震火山部会が作成した「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」平成27年次報告によれば、2014年の御嶽山の噴火の場合、火山と広域の地下の地層にかかる圧力(応力場)にズレが生じ、噴火前に火山活動が活発化していたことがわかったという。

 火山噴火には、大規模な災害につながる危険性のあるマグマ噴火、小規模ながら火口付近で被害を及ぼす危険性のある水蒸気噴火や火山性ガスの噴出といった種類に大きく分けられる。この報告によれば、日本にある火山の観測やこれまでの噴出物を分析して火山現象をモデル化したところ、マグマ噴火を主体とする火山、熱水系が優勢な火山の2種類があるという。

 マグマ噴火を主体とするのは、桜島、伊豆大島、浅間山、霧島山(新燃岳)、口永良部島などだ。熱水系が優勢な火山は、十勝岳、草津白根山、阿蘇山、御嶽山、箱根大涌谷などとなる。

 火山性地震と噴火を周期的なパターンで繰り返す火山は、その関連から噴火予知につなげることは比較的やさしいだろう。一方、御嶽山のような水蒸気噴火では、突如としてそれほど前兆もなく噴火することから予知は難しいとされる。

難しい火山灰の判別

 明らかに噴火の予兆があるのにもかかわらず、噴火をせず、そのまま終息するケースも少なくない。マグマの上昇をとらえられなかったり、マグマが途中で上昇を止めてしまったり、さらに沈静化した途端、噴火するなどすれば、予知ができなかったり予知が外れたりする。

 御嶽山や草津白根山、雲仙普賢岳、三宅島などのように研究者が想定していなかった火山の噴火は多い。阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、先日の大阪府北部地震などの地震予知もしかりだ。

 有珠山の場合、行政が予知情報を受け入れて避難指示につなげることができたが、予測が外れ続ければ行政の判断が難しくなることは想像に難くない。火山が噴火すれば観光業などへの影響も大きいので、行政を含む地元としてはできるなら避難したり報道で大げさに取り上げられたりしたくないはずだ。

 富士山や鬼界カルデラなどの大規模噴火が起きる危険性はゼロではない。今後、確度の高い地震や火山噴火の予知はできるのだろうか。

 御嶽山の火山噴火の教訓から、火山防災と予知を目指して作られた文部科学省の「火山の未来を観る次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」というものがある。このプロジェクトに「火山噴火の予測技術の開発」という項目があり、火山の噴出物を分析し、過去の噴火の歴史と照らし合わせ、火山の噴火活動がどう推移するか、またシミュレーションで噴火の危険度を予測することを目指している。

 火山灰は、火山の噴出物の一種だ。先日、東京工業大学(東工大)と産業技術総合研究所、統計数理研究所の共同研究グループがAI(人工知能)を使って火山灰の粒子を判別、分類したことを英国の科学雑誌『ネイチャー』の「Scientific Reports」オンライン版に発表した(※1)。

 東工大のプレスリリースによれば、火山灰の粒子の形状を手掛かりにすることで、その火山がどのように噴火したか、マグマの粘性や水との接触の有無などを探ることが可能だという。

 複雑な形状をしている火山灰の判別や分類は、習熟し経験を積んだ専門家による観察が必要だ。また、火山は概して交通が不便な場所にあり、噴火により交通が途絶するなど、火山灰を採取してから研究機関へ運び、すみやかに分析をすることが難しい。

 AIなどの技術を使うことで、こうした遠方の隔絶した場所で火山灰の判別や分類を迅速にすることができれば、噴火の情報を客観的かつ迅速に得ることが可能になるだろう。

畳み込みニューラルネットワークとは

 研究グループは、画像認証やディープラーニング(深層学習)といった技術を使い、複雑で多種多様な形状の対象の判別や分類ができるプログラムとして火山灰に応用したという。

 この技術とは、人間の脳と神経細胞(ニューロン)の仕組みを参考にしたニューラルネットワークの一種である畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、CNN)だ。

 CNNは画像や動画の認識に使われてきたディープラーニングのモデルで、AI研究ではそう新しい考え方ではない。人間の視神経と脳の視覚野との構成に似たアルゴリズムによって、生物の画像処理を人工的に再現できないかという「ネオコグニトロン(Neocognitron)」の発想で考えられてきた(※2)。

 当初は手書き文字や画像のパターン認識のために作られたが、ディープラーニングとCNNは密接に関係したAI技術だ。JPEGのように重複データを端折っても、処理された画像部分をディープラーニングによって推測し、あたかもデータの欠損がないかのようなクッキリハッキリした画像を再現することもできる。

 今回の判別や分類では、伊豆半島、三宅島、アイスランドで採取した火山灰を用意したという。はっきりした4種類の形状(ブロック状、えぐれている、細長い、丸い)を持つ火山灰の粒子だけを使ってCNNに学習させたところ、約92%の精度で各形状ごとに判別できた。

 さらに複雑であいまいな形状の火山灰粒子については、CNNが4種類の形状を学習して出力したデータをもとに、確率的な比率によって分類させたところ、判断が難しいあいまいな形状の粒子も判別することができた。

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最初にCNNに学習させた4種類の火山灰。ブロック状、えぐれている、細長い、丸いとなっている。Via:東工大のプレスリリースより

 研究グループは今後、さらに精度を上げていき、その場に専門家がいなくても火山灰の判別や分類、解析ができるようにしていくという。火山灰を迅速に分析することにより、火山の種類やマグマの上昇の様子などを知ることで、もしかすると火山噴火の予知が可能になるかもしれない。

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複雑であいまいな形状の火山灰の粒子。CNNが出した4種類の特徴の確率。これによって複雑であいまいな形状の火山灰も判別可能となるという。Via:東工大のプレスリリースより

※1:Daigo Shoji, et al., "Classification of volcanic ash particles using a convolutional neural network and probability." SCIENTIFIC REPORTS, DOI:10.1038/s41598-018-26200-2, 2018

※2:Kunihiko Fukushima, et al., "Neocognitron: A Self-organizing Neural Network Model for a Mechanism of Pattern Recognition

Unaffected by Shift in Position." Biological Cybernetics, Vol.36, 193-202, 1980

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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