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移動が増える年末年始「マスク」の着用は必須:猛威をふるうインフルエンザ、増えつつある新型コロナ

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:長田洋平/アフロ)

 インフルエンザや新型コロナに限らず、呼吸器感染症を予防するためには、公共交通機関や人混みなどでマスクを着用することが重要だ。寒い季節、マスクには鼻冷やさない効果もあるが、インフルエンザが猛威をふるい、新型コロナの患者数も増えている状況でマスクの効果を再確認したい。

マスクには効果があるのかないのか

 新型コロナの5類移行から感染対策がおろそかになりがちになっている。特に、公共交通機関など、人が多い屋内でのマスク着用が減っているのは確かだ。

 いわゆる「反マスク」の人がいるように、マスクに感染症の感染拡大を防ぐ効果があるかどうかは、賛成派と反対派が二極化され、長く議論が続いてきた(※1)。その理由は、マスクを着用した集団と着用しない集団を比較し、統計的に評価することが難しいということがある。

 例えば、日常生活をおくる子どもを含んだ地域社会の集団を対象に、いつもどのようにマスク着用が行われているのかを評価するのは難しい。対象の集団の中にはマスクを忘れてしまったり、効果の低い着用の仕方だったりするからだ。マスクが効果を発揮するためには、マスクと顔の間から出入りする空気の量を少なくしなければならず、マスクと顔の間をなるべく密着させなければ効果は低くなる(※2)。

 集団を対象にした研究では、どのマスクを着用していたのか、正しく着用していたのかを把握しなければならないが、現実的にはなかなか困難だ。このように、マスクの感染防止効果を正しく評価しにくいが、それでもマスク着用にインフルエンザや新型コロナなどの感染拡大を防ぐ効果があるという論文は多い(※3)。

 この論争に終止符を打つと思われる研究も出ている。ノルウェーなどの研究グループは、18歳以上の4647人(60.9%が女性、平均年齢51歳、2371人が介入群、2276人がコントロール群)を対象に、介入群には14日間、公共の場所(ショッピングセンター、路上、公共交通機関の中など)でサージカルマスクを着用するよう設定し(マスク着用群)、コントロール群には公共の場でマスクを着用しないように求め(マスクなし群)、その後、呼吸器感染症の症状があるかどうかを自己申告で調べた(※4)。

 その結果、呼吸器感染症の症状ありでマスク着用群が8.9%だったのに比べ、マスクなし群では12.2%となり、マスク着用による呼吸器感染症の予防効果について統計的に有意な差があった。

ユニバーサル・マスクの重要性

 一方、どんな種類のマスクを着用するかも重要だ。ウイルスが感染するためにはチリやホコリ、水滴、エアロゾルなどの微小粒子に付着する必要があり、この粒子のサイズが0.1マイクロメートル以下の超微小になると、分子間のファンデルワールス力などによってマスクの繊維に捕捉され、それ以上のサイズでは繊維自体の編み目に物理的に捕捉される。

 そのため、感染を防ぐ効果の順でいえば、繊維の目の粗い布製マスクが最も効果が低く、次いで多重構造の不織布マスク、医療従事者用のN95マスクとなる。インフルエンザウイルスも新型コロナウイルスも大きさは約0.1マイクロメートルだが、不織布マスクの複雑に重なった繊維層で捕捉されることが期待される(※5)。

 また、最近では、マスクに感染拡大を防ぐ効果と同時に感染しない効果もあるという見解に移行しつつある(※6)。そのためにも、呼吸器感染症の流行期には、人混みや公共交通機関の中などでは常にマスクを着用するユニバーサル・マスクが重要となる。

 感染しても発症しない潜伏期間でいえば、インフルエンザは1日から4日で発症前の24時間から発症後3日ほどが最も感染力が強く、新型コロナは変異株によるが2日から7日程度とされ、ウイルスの排出量は発症前がもっとお多いとされている(※7)。つまり、咳や発熱などの症状が出ていなくても感染力を持っているため、人混みや公共交通機関の中などでは多くの人がマスクを着用することで感染拡大を防ぐことができる。

 せっかくマスクを着用するのなら、布マスクやウレタンマスクではなく不織布マスクを、顔にしっかり密着させて使ったほうがいいだろう。

 もちろん、顔の皮膚への刺激、感覚過敏など、いろいろな理由でマスクを着用できない人もいる。呼吸のしにくさ、表情がみえにくいことでの視聴覚障害者や子どもなどがコミュニケーションを阻害されるといった弊害なども指摘されている(※8)。

 こうした人への配慮は必要だし、マスクをするしないは個人の自由で強制されるものではなく、いつでもどこでもマスクを着用する必要はない。人混み以外での屋外、屋内でも人が少ない場所や会話がない場合などではマスクをしなくてもいいだろう。

 インフルエンザが流行拡大をみせ、新型コロナなどの感染症も増えている。年末年始に帰省したり買い出しに出たりして人混みの中に長時間いたり公共交通機関での移動も増えるが、呼吸器感染症を感染させない感染しないためには、不織布マスクを着用し、入念な手洗いやうがい、こまめな換気などの基本的な感染対策をすることが重要だ。

※1:Atle Fretheim, et al., "The polarised discourse around face masks in hindering constructive debate" the bmj, Vol.386, q1661, 25, July, 2024

※2:C Raina Maclntyre, Abrar Ahmad Chughtai, "Facemasks for the prevention of infection in healthcare and community settings." BMJ, Vol.350, h694, 2015

※3-1:Nancy H. L. Leung, et al., "Respiratory virus shedding in exhaled breath and efficacy of face masks" nature medicine, Vol.26, 676-680, 3, April, 2020

※3-2:Derek K. Chu, et al., "Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis" THE LANCET, Vol.395, Issue10242, P1973-1987, 27, June, 2020

※3-3:Harald Brussow, Sophie Zuber, "Can a combination of vaccination and face mask wearing contain the COVID-19 pandemic?" MICROBIAL BIOTECHNOLOGY, Vol.15, Issue3, 721-737, 28, December, 2021

※3-4:Jeremy Howard, et al., "An evidence review of face masks against COVID-19" PNAS, Vol.118 (4) e2014564118, 11, January, 2021

※3-5:Wei Deng, et al., "Masks for COVID-19" ADVANCED SCIENCE, Vol.9, Issue3, 25, January, 2022

※3-6:Zillur Rahaman, et al., "Face Masks to Combat Coronavirus(COVID-19) - Processing, Roles, Requirements, Efficacy, Risk and Sustainability" polymers, Vol.14(7), 1296, 14, March, 2022

※3-7:Henri Froese, Angel G A. Prempeh, "Mask Use to Curtail Influenza in a Post-COVID-19 World: Modeling Study" JMIR Publications, Vol.3, No.2, 27, May, 2022

※3-8:Peter P. Moschovis, et al., "The effect of activity and face masks on exhaled particles in children" Pediatric Investigation, Vol.7, Issue2, 75-85, June, 2023

※3-9:Shervin Molayem, Carla Cruvinel Pontes, "Face Masks to Prevent COVID-19: A Critical Appraisal of Current Evidence" Journal of Oral Medicine and Dental Research, Vol.4, Issue1, 2023

※4:Runar Barstad Solberg, et al., "Personal protective effect of wearing surgical face masks in public spaces on self-reported respiratory symptoms in adult pragmatic randomised superiority trial" the bmj, Vol.386, e078918, 29, may, 2024

※5-1:Hiroshi Ueki, et al., "Effectiveness of Face Masks in Preventing Airborne Transmission of SARS-CoV-2" mSphere, Vol.5, Issue5, October, 2020

※5-2:John T. Brooks, Jay C. Butler, "Effectiveness of Mask Wearing to Control Community Spread of SARS-CoV-2" JAMA, Vol.325(10), 998-999, 10, February, 2021

※6:Trisha Greenhalgh, et al., "Masks and respirators for prevention of respiratory infections: a state of the science review" Clinical Microbiology Reviews, Vol.37, No.2, 22, May, 2024

※7:Simon Galmiche, et al., "SARS-CoV-2 incubation period across variants of concern, individual factors, and circumstances of infection in France: a case series analysis from the ComCor study" THE LANCET Microbe, Vol.4, Issue6, E409-E417, June, 2023

※8:Johanna Sandlund, et al., "Face masks and protection against COVID-19 and other viral respiratory infections: Assessment of benefits and harms in children" Paediatric Prespiratory Review, doi.org/10.1016/j.prrv.2024.08.003, 6, September, 2024

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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