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STAP細胞研究の小保方晴子博士が「研究活動に支障が出ている」と報道機関にお願い

藤代裕之ジャーナリスト
報道関係者の皆様へのお願いが掲載されたラボサイト

万能細胞STAPを開発したことでメディアに大きく取り上げている理研発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子ユニットリーダーのラボウェブサイトに報道関係者へのお願いが掲載されました。研究成果に関係がない報道で研究活動に支障が出ているという内容です。

ファッションブランドから、サイトには写真特集、中学の作文を発掘して掲載、と程度の差はあれ研究以外の人物像を取り上げているメディアは、反省すべき点が多いにあるのではないでしょうか。

報道関係者の皆様へのお願い

STAP細胞研究はやっとスタートラインに立てたところであり、世界に発表をしたこの瞬間から世界との競争も始まりました。今こそ更なる発展を目指し研究に集中すべき時であると感じております。

しかし、研究発表に関する記者会見以降、研究成果に関係のない報道が一人歩きしてしまい、研究活動に支障が出ている状況です。また、小保方本人やその親族のプライバシーに関わる取材が過熱し、お世話になってきた知人・友人をはじめ、近隣にお住いの方々にまでご迷惑が及び大変心苦しい毎日を送っております。真実でない報道もあり、その対応に翻弄され、研究を遂行することが困難な状況になってしまいました。報道関係の方々におかれましては、どうか今がSTAP細胞研究の今後の発展にとって非常に大事な時期であることをご理解いただけますよう、心よりお願い申し上げます。

STAP細胞研究の発展に向けた研究活動を長い目で見守っていただけますようよろしくお願いいたします。

2014年1月31日

小保方 晴子

出典:Obokata Lab/細胞リプログラミング研究ユニット

理化学研究所のホームページにも「報道の皆様へ:STAP細胞に関する取材について」というお願いがアップされている。

同研究ユニットリーダーに非常に多くの取材のご依頼やお問合せを頂いており、個別に対応させていただくのが難しい状況にございます。研究に専念したいという本人の意向もあり、当面の間は本人の取材対応を控えさせていただくことと致しましたので、何卒ご理解、ご協力の程お願い申し上げます。

出典:理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 国際広報室

昨日、STAP細胞研究の報道を見て、『「デート」「ファッション好き」革命的研究者の紹介に見る根深い新聞のおっさん思考』という記事を書きました。人物像の描き方に問題があることを指摘しましたが、一部からは「興味をもってもらうために人物像の紹介は必要」という意見がありました。

しかしながら、今回の成果のニュース性は、その研究のインパクトは当然ですが、1)年齢や性別に限らず、リーダーを任してもらえる研究環境があること。2)一度リジェクトされて酷評された論文を練り直し、相談し合う真剣な環境が日本にあること、の2点だと考えています。つまり報道機関には「どうしてこのような世界的インパクトのある研究が生まれたのか」という背景を解き明かしてほしいのです。

この2点は、研究に限らず、年功序列や足の引っ張り合い、特定の実績ある(だがもう古い)研究者や企業に集中する資金という日本の(というと言葉が大きいですが)構造的問題を突破しています。「どうやって突破したのだろう」と多くの人が感心を持つのではないでしょうか。人物像の紹介や安直なリケジョ(講談社の登録商標です)フォーカスの記事では、どうしてこのようなインパクトがある研究が生まれて来たかを知る事は出来ません。

もちろん、すべてのメディアが問題という訳ではなく、下記のようなバランスがとれた記事もあります。リードに「博士号を取って3年という30歳の女性研究者だ」と出てくるのですが、それ以外は女性とかリケジョとか一切ありません。理研の思い切った抜擢マネジメントと、第一人者たちが若い研究者である小保方ユニットリーダーを支えたことを書いています。

生命科学「型破り」の一歩 新万能細胞、先入観ない若手が成果 理研、実績より独創性重視

出典:日本経済新聞

このようなマネジメントの決断と、若手を支える周囲の力は、研究に限らず他の分野にも共通する、普遍的な取り組みとして捉える事ができます。若くても任せてもらえると思えば、優秀な人は集まってきます。リケジョなどと特別扱いしなくとも…

リケジョについては、前の記事では余り突っ込みませんでしたが、下記のような意見があることも紹介しておきます。サイエンスライターの内田麻理香さんの記事です。

最近、リケジョという言葉を耳にするようになり、理系女性に注目が集まっている。私も、及ばずながら理科系学問に関わる男女差に関し、協力できることがあれば協力してきたつもりだ。でも、その「リケジョ的方針」はあくまで「おじさま目線」のもの、取り組みが多いような気がしてならない。「理系女子、大歓迎!僕は好きだよ、応援するよ」…これは理系という現在のところ数少ない「アクセサリー」のある女性が良い、と言っているに過ぎない。装飾品としての理系。リケジョ、理系女子のアピールは「理系女子『だって』可愛いんです!キラキラしているんです!」路線が目立つ。これが理系女子を増やすことに繋がるのだろうか?

理系女子・女性のイメージが悪いと思われるケースは少なくない。「理系に行ったら、自分の女性性が損なわれるのでは?」と心配している女子中高生も一定数いるだろうから、彼女らには有効だろう。しかし、おじさま目線の「理系女子だって可愛いよね」は、「ただ理系学問に興味があるのに、可愛らしさまで求められるのか?」とうんざりしてしまうに違いない。あと、まずいなと感じるのが、キラキラ理系女子路線に疑いもなく(ないように見える)乗っかってしまっていること。「おじさま目線を女性らが自らのものにして、それが自分の価値観となってしまっている」からだ。男性目線を気にするあまり、その男性の価値観に染まっている。厳しい言い方をすれば、おじさま目線を内なる指標とした「リケジョ」さんたちが、性差別を助長しているのだ。

出典:KASOKEN satellite

ここまでメディアの事を書いているのですが、かっぽう着の写真を撮らせ、デートやファッションというプライベートの質問を認めた、理化学研究所の広報担当はこのような騒ぎになることを想定していなかったのか、疑問が残ります。もし、メディア受けしそうなエピソードをアピールし、ニュース性を高めようとしたなら、マスメディアだけの責任というわけにもいかないでしょう…

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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