羽田事故原因がナンバー1やハリーアップとは限らない
新年早々の羽田空港で発生した衝突事故は、肉眼で捉えられる距離で航空機の機体が燃え上がる衝撃的な映像として世に広まりました。人々の受けた衝撃は計り知れず、国内外から大きな注目を集めました。
事故後、国民やマスメディアの関心はヒートアップし、事故調査の結果を待たずに各々が断片的な情報を元に、事故の真相を解明しようとする様子が見受けられます。勝手な推測や主観的な発言は、事故の関係当事者や今も変わらず航空交通の安全を担う関係者にとって重荷となっていると推察します。それにより、関係当事者の言いたいことが言えなくなる風潮や他の関係者のモチベーション低下が生じることは、安全性向上に寄与しないと私は考えます。
安全対策を講じるうえでは徹底的な調査が何よりも重要であり、何が引き金となったのかのみならず、そこに至るまでの全体経緯や周辺環境を正確に把握しなければ、真相にたどり着くことは出来ません。現段階で、事故を引き起こした可能性に関して、以下の仮説が言及されています。
- ハリーアップ症候群によるパイロットの勘違い
- 不適切な用語(ナンバーワン)
- 航空管制官の見落とし
- 夜間の視認性
- 停止線灯の不使用
- パイロットと管制官の間の情報共有の不足
人間には分からないことがあると答えを決めたくなる性質があると言います。これら仮説はその典型であり、不足した情報から分かりやすい部分を切り取って導いた考察に過ぎません。ブラックボックスの解析、無線交信が行われた正確な時間と対応する位置情報、他機との交信内容、滑走路05や周辺空域の交通状況、当時の環境を加味したパイロット・航空管制官の視認性、両機のコックピット内の作業状況、管制塔内部のやり取り、その他のパイロット・管制官の業務負荷状況など、まだ事故に至るまでの詳細な経緯を知るには情報が不足しています。拙速な決めつけで先入観を生じさせ、事故調査にバイアスがかかることは避けるべきです。
朝日新聞は1/6付けの記事で、「滑走路誤進入事案は国の空港の滑走路で、航空機同士などが衝突する恐れがあったとして「重大インシデント」と判断されたケースが、昨年末までの10年に少なくとも23件起きていた。」と報じています。国土交通省はこれらに対して何らかの安全対策を講じてきたとされていますが、航空の分野に限らず、安全対策は生じた穴を埋めるためにどうすべきかを中心に考えがちです。しかし、穴は一箇所とは限らないし、穴を埋めたことにより他の部分に負荷がかかることがあります。木を見て森を見ずのように、起きた事象のわかりやすい部分ばかりに焦点を当てすぎることで、全容を見えなくしてしまうことは賢明ではありません。
パイロットの勘違い、管制官の見落としがあったこと自体をなかったと否定しているわけではなく、またどんなヒューマンエラーも免責にすべきという主張をするつもりでもありません。より効果的な対策の検討には本当の意味での真相究明が不可欠であり、そのためにはまず当事者や関係者が安心して発言できる環境を整えることが重要ということです。世界に誇れる航空インフラの再構築に向けてスタートを切るため、第三者の対応姿勢が問われているのではないでしょうか。