Yahoo!ニュース

「経験したことのないような大雨」 災害から命を守るために

片平敦気象解説者/関西テレビ気象キャスター/気象予報士/防災士
山口県・島根県付近に発達した積乱雲がかかり記録的な大雨となった(気象庁HPより)

28日(日)は、山口県・島根県で記録的な大雨となりました。1時間に100ミリ以上の猛烈な雨が数時間、ほぼ同じような場所で続き、土砂災害や川の増水・氾濫など、大きな災害の発生してしまった地域があります。

山口県萩市須佐では12時04分までの1時間に138.5ミリの猛烈な雨が降り、1時間雨量としては気象庁の全国歴代で20位以内に入るほどの記録的な雨量となり、約半日で平年の7月1か月間の雨量を超えてしまった地域もあります。これまでの大雨で地盤が著しく緩み、川の増水している所もありますので、雨がやんでも今しばらくは引き続き警戒が必要です。

(30日午前追記:今回の大雨の最大1時間降水量について、気象庁から新たなデータが発表されました。山口市の山口特別地域気象観測所(観測地点名:山口)では、観測機器異常を気象台で検知したため、28日6時頃から一部データが「欠測」扱いとなっていました。しかし、気象台で現地調査を行った結果、降水量については問題が無いことが分かったためデータを復元したところ、最大1時間降水量は「143.0ミリ(07:13~08:13)」と分かったとのことです。今回の山口県・島根県の集中豪雨で、気象庁の観測した1時間降水量としては最大の値になり、気象庁の全国歴代で第11位の記録です。)

大雨の要因

暖かく湿った空気が流れ込み、大気の状態が非常に不安定だった(気象庁HPより)
暖かく湿った空気が流れ込み、大気の状態が非常に不安定だった(気象庁HPより)

朝鮮半島付近には前線があり、この南側で、南の海上の太平洋高気圧を回るように暖かく非常に湿った空気が流れ込んでいました。湿った空気は雷雲の原材料。大量に流れ込んだ山口県・島根県の県境付近で発達した雷雲が発生し、猛烈な雨を降らせたものと考えられます。

また、湿った西寄りの風が山地にぶつかり、地形のために上昇気流がさらに強められて、雷雲の発達をいっそう促した可能性もあります。

活発な雨雲が次々と同じような場所にかかり、記録的な雨量となった(気象庁HPより)
活発な雨雲が次々と同じような場所にかかり、記録的な雨量となった(気象庁HPより)

さらに、発達した雨雲が長時間かかり続けたことも、雨量が多くなった原因のひとつです。日本海から進んでくる発達した雨雲が次々と同じような地域にかかり続け、結果的に雨量が記録的になったものと見られます。降り始めからの総雨量は、山口県や島根県の一部で350ミリを超え、わずか半日ほどの間に大変な量の雨が降ったことになります。こうした記録的な大雨により、河川の氾濫などの災害が起こってしまいました。

豪雨の要因については、今後、研究者などによるさらなる調査が行われるものと思われますが、詳細な分析が待たれるところです。

「経験したことのないような大雨」

24時間降水量(20時まで)。山口県や島根県で記録的な値に(気象庁HPより)
24時間降水量(20時まで)。山口県や島根県で記録的な値に(気象庁HPより)

気象庁では昨年から、それぞれの地域で「数十年に一度」レベルの大雨になった場合には、「これまでに経験したことのないような大雨」と表現して、最大級の警戒を呼びかけることにしています。

今回の大雨では、山口県(萩市、山口市、阿武町付近)と島根県(西部)でこのレベルに達し、昼前に、気象庁から「記録的な大雨に関する情報」が発表されました。

まず、「経験したことのないような」というのは、それぞれの地域において、という点をしっかりご理解ください。「全国で誰もいまだかつて経験したことのない」という意味ではなく、「それぞれの地域で、数十年に一度レベル」の大雨になっている、ということです。

48時間雨量の「50年に一度」レベル。各地域で雨量が異なる(気象庁HPより)
48時間雨量の「50年に一度」レベル。各地域で雨量が異なる(気象庁HPより)

昨年も九州北部豪雨の際にこの情報が出され、「今年も?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、各地域ごとに、という点を正しく理解していただき、決して軽んじて「またか」と受け止めないようにお願いします。

もしも、自分の住む地域に「経験したことのないような大雨」という情報が出された場合には、あなたの住む地域では災害の危険性が著しく高まっていることを意味することになるのです。

※ 8月30日0時(予定)からは、警報のさらに上位に設定された「特別警報」の運用が開始されますが、その特別警報が発表される状況がこうした「それぞれの地域で、数十年に一度の大雨」です。特別警報については、以前に書いたこちらの記事をご参考になさってください。

なお、今回、状況が極めて危険であることを警告するために、気象庁本庁では緊急の記者会見が開かれました。テレビなどで会見のようすをご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、会見したのは気象庁本庁の「予報課長」でした。従来、大雨時などの災害時の解説で会見に臨むのは「主任予報官」のことが多かったのですが、さらに責任あるポジションの「予報課長」が、背広ではなく防災用の作業着姿で会見に臨んだことからも、事態の緊急性・切迫度や気象庁が抱く危機感が表れています。

「ただちに命を守る行動を」

「経験したことのないような大雨」の時には、もうすでに状況が切迫しています。とにかく、身の安全を最優先に、命を守るために最善の行動をする、ということになります。

まず、こうした豪雨に至る前に早めに避難行動などを済ませておくのが身を守る鉄則です。それを大前提としたうえで、「数十年に一度」クラスの豪雨に遭遇してしまったら、「命を守るために今、何ができるか」、一人ひとりが考えて最善を尽くすことが重要になります。

もしかすると、家の前はすでに洪水になっていて避難所へ移動することが危険かもしれません。無理に避難を強行するよりも、家から出ず、家の1階から2階へ移ることが最善と考えられることもあります。「より安全な状況になるためには、何をすべきか・何ができるか。」 自分のでき得る限りの行動をとることが肝要です。

繰り返しになりますが、こうした事態になる前に、早めの避難を心がけるのが最も重要。災害の起こるおそれのある場合には、まめに気象情報を確認し、早め早めの行動を執って先手を打っておくように、意識的に心がけるようにしましょう。

災害時の「思い込み」

「自分だけは大丈夫なはずだ」「きっとたいしたことないよ」と思い込む「正常性バイアス」、「周りは誰も逃げていないしなぁ」「私もみんなに合わせて、まだ様子見しよう」という「多数派同調バイアス」は、災害発生時に避難の遅れを生じさせる心理学的な要因とも言われています。人間誰しもこうしたバイアス(先入観・思い込み)は持っているそうです。

それを意識的に打破して、自分が率先して周りを巻き込みながら早めの避難をするくらいの気持ちで、災害から身を守るように心がけてください。

29日(月)も警戒を

29日も大気の状態が不安定で、全国的に雷雲が発達しやすい気象状況が続きます。局地的には1時間に50ミリの非常に激しい雨の降るおそれも。1時間に50ミリという雨は、街の下水道の排水能力が限界に達するレベルの危険な降り方です。

28日に豪雨になった山口県・島根県だけでなく、すでに7月に入ってからの雨量が平年の3倍程度に達している地域がある東北地方など、全国的に十分な警戒や注意が必要になります。最新の気象情報をまめに確認し、災害に巻き込まれないように、早めの対応をするように心がけてください。

気象解説者/関西テレビ気象キャスター/気象予報士/防災士

1981年埼玉県生まれ。幼少時の夢は「天気予報のおじさん」で、19歳で気象予報士を取得。日本気象協会に入社後は営業・予測・解説など幅広く従事し、2008年にウェザーマップへ移籍した。関西テレビで2005年から気象解説を担当し約20年。newsランナー/旬感LIVEとれたてっ!/よ~いドン!/ドっとコネクトに出演中。平時は楽しく、災害時は命を守る解説を心がけ、いざという時に心に響く解説を模索し被災地にも足を運ぶ。趣味はアメダス巡り、飛行機、日本酒、プログラミング、阪神戦観戦、囲碁、マラソンなど。(一社)ADI災害研究所理事、大阪府赤十字血液センター「献血推進大使」、航空通信士、航空無線通信士。

片平敦の最近の記事