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climate stripesをご存じですか? 地球温暖化を分かりやすく表現

片平敦気象解説者/関西テレビ気象キャスター/気象予報士/防災士
日本全国を対象としたclimate stripes。気象庁のデータをもとに作成。

 みなさんは「climate stripes(クライメート・ストライプ)」をご存じでしょうか?

 英国・レディング大学の気候学者であるエド・ホーキンス氏が2018年に発表した手法で、過去から現在に至るまでの気温を年ごとに並べてストライプ(縞模様)にし、その色合いの変化から地球温暖化の進行を視覚的に分かりやすく表現したものです。日本語では「気候ストライプ」などと訳されることもあります。

 小さな子どもでも分かりやすいことから、気候変動対策の啓発ツールとして世界的に用いられています。一方、日本では欧米に比べて気候変動についてのメディアでの取り上げが小さいこともあってか、climate stripesについて知っている人はまだ多くないように感じます。

 さて、今年(2024年)6月5日、「環境の日」に合わせて全国の気象予報士・気象キャスターの有志が「気候危機に関する気象予報士・気象キャスター共同声明」を発表しました。私もその賛同人のひとりなのですが、そのメッセージの中で、

国内外の専門家と情報連携し、共に「気象と気候変動を関連づけた発信」に取り組み、一般の理解を深め気候危機の自分事化/行動変容に貢献する

との文言があります。

 また、一年で最も暑い頃と言われる「大暑」である今日(7月22日)に合わせて、共同声明の賛同人がclimate stripesについて可能な限り各メディアで一斉に紹介しようというキャンペーンが行われました。私も出演する関西テレビ「newsランナー」にて紹介させていただきました。みなさんも今日は様々な番組の気象解説などでこのストライプをご覧になったかもしれません。

 今回、こうした情報発信の一環として、私も本記事においてもclimate stripesについてご紹介させていただきたいと思います。

■ climate stripesってどんなもの?

 通常、climate stripesは、左ほど古く・右ほど新しい年が表示され、設定された基準(平年値や1961~2010年の平均など)よりも青っぽい色は低温、赤っぽい色は高温だった年を示します。その程度によって青さ・赤さも変わり、現在に至るまでの気温の変化がどうなっているのか、視覚的に分かりやすいことが最も大きな特徴です。

 地球全体や世界の地域ごと、さらには各地点のデータを使い分けることにより様々なスケールでの表現が可能で、一般的には、正確な観測値や精度の良い推定値を遡ることができる1800年代半ば頃からのデータを利用することにより、現在までの約150~170年程度の気温変化が一目で分かります。

大阪のclimate stripes。気象庁のデータをもとに筆者作成。
大阪のclimate stripes。気象庁のデータをもとに筆者作成。

 年によって、気温が高かったり低かったりの変化はありますが、特にここ20~30年ほど(ストライプの右側)を見ると赤系統の色が集中しており、近年の気温上昇の著しさがよく分かると思います。折れ線グラフを使うことでも気温上昇については把握できますが、climate stripesのほうが直感的に分かりやすく、子どもたちも含めて、気候変動の実態について興味・関心を持っていただくキッカケとしては非常に効果的なツールだと感じます。

大阪の長期的な気温変化。大阪管区気象台HPより引用。「折れ線(黒)は各年の値、直線(赤)は長期変化傾向を示す。△は観測場所の移転を示し、移転前のデータを補正している。」とのこと。
大阪の長期的な気温変化。大阪管区気象台HPより引用。「折れ線(黒)は各年の値、直線(赤)は長期変化傾向を示す。△は観測場所の移転を示し、移転前のデータを補正している。」とのこと。

■ あなたの住む地域のclimate stripesは?

 日本では、長い所では1800年代終盤から気象観測が続いています。こうしたデータのある地域では明治時代からの気温変化をもとにしたclimate stripesを示すことができます。また、観測開始が比較的新しい所でも、周辺のデータを用いるなどして推定された値を用いて表現することも可能です。

京都のclimate stripes。気象庁のデータをもとに筆者作成。
京都のclimate stripes。気象庁のデータをもとに筆者作成。

和歌山のclimate stripes。気象庁のデータをもとに筆者作成。
和歌山のclimate stripes。気象庁のデータをもとに筆者作成。

 地球温暖化・気候変動というと急に壮大な話になってしまってピンと来ないという人もいるかもしれません。ですが、ぜひあなたのお住まいの地域のclimate stripesを調べてみてください。よくご存じの地域の気温上昇を直感的に理解することで、気候変動が他人事ではなく、実はとても身近なことなのだ、と気づくキッカケになれば嬉しく思います。

 本稿末尾にリンクを記載したサイトで簡単に表示させることができますので、ぜひアクセスしてみてください。

■ 生物季節観測を用いたclimate stripes

 地球温暖化・気候変動を示すデータの一つとして、例えば、春に咲くサクラの開花日の早まりや秋に色づくカエデの紅葉日の変化が示されることがあります。気温そのものの「高い」「低い」ではありませんが、気温の変化に大きく左右される植物の姿についてもclimate stripesと同様の手法で示せるのではないかと私は考え、試しに計算・描画してみました。

 気象庁の生物季節観測値をもとに、「サクラストライプ」:サクラの開花日、「イチョウストライプ」:イチョウの黄葉日、「カエデストライプ」:カエデの紅葉日を描画したのが以下の画像です。(※サクラは大阪、イチョウ・カエデは和歌山のデータを使用。観測開始が1953年で古くからのデータがあり、長期的な変化をつかみやすい地点を選択した。欠測がある場合は、前後の年の平均値で補完。)

サクラストライプ(大阪)。気象庁の観測値をもとに筆者作成。ピンク色が濃いほど開花が早く、薄いほど開花が遅いことを意味する。
サクラストライプ(大阪)。気象庁の観測値をもとに筆者作成。ピンク色が濃いほど開花が早く、薄いほど開花が遅いことを意味する。

イチョウストライプ(和歌山)。気象庁の観測値をもとに筆者作成。黄色が濃いほど黄葉が早く、くすんでいるほど黄葉が遅いことを意味する。
イチョウストライプ(和歌山)。気象庁の観測値をもとに筆者作成。黄色が濃いほど黄葉が早く、くすんでいるほど黄葉が遅いことを意味する。

カエデストライプ(和歌山)。気象庁の観測値をもとに筆者作成。オレンジ色が濃いほど紅葉が早く、くすんでいるほど紅葉が遅いことを意味する。
カエデストライプ(和歌山)。気象庁の観測値をもとに筆者作成。オレンジ色が濃いほど紅葉が早く、くすんでいるほど紅葉が遅いことを意味する。

 気温で直接的に示したclimate stripesほど明瞭ではないですが、サクラの開花は早まり、イチョウ・カエデの色づきは遅くなっているように色合いの変化から感じられるのではないでしょうか。統計的に有意かどうかの判定は科学的に定量的に行う必要が当然ながらありますが、視覚的に傾向を分かりやすく認識できるのは生物季節観測のデータでも同様のようです。

 climate stripesという「色」を用いたとても分かりやすい縞模様。気候変動について広く知っていただく様々な場で、特に子どもたちへお話しする場で、日本でももっと活用されても良いのではないでしょうか。

(参考資料・URL)

PARTNERING FOR THE PLANET(英国・レディング大学)

#ShowYourStripes(英国・レディング大学)

 (※地域・地点を選ぶと世界各地のclimate stripesが描画できます。)

 (日本:https://showyourstripes.info/s/asia/japan/all

#ShowYourStripesJapan

(国立環境研究所・林未知也先生による日本各地のclimate stripesを表示するサイト)

気象庁「地球温暖化情報ポータルサイト」

大阪管区気象台「地球温暖化について」

気候危機に関する気象予報士・気象キャスター共同声明(2024年6月5日発表)

気象解説者/関西テレビ気象キャスター/気象予報士/防災士

1981年埼玉県生まれ。幼少時の夢は「天気予報のおじさん」で、19歳で気象予報士を取得。日本気象協会に入社後は営業・予測・解説など幅広く従事し、2008年にウェザーマップへ移籍した。関西テレビで2005年から気象解説を担当し約20年。newsランナー/旬感LIVEとれたてっ!/よ~いドン!/ドっとコネクトに出演中。平時は楽しく、災害時は命を守る解説を心がけ、いざという時に心に響く解説を模索し被災地にも足を運ぶ。趣味はアメダス巡り、飛行機、日本酒、プログラミング、阪神戦観戦、囲碁、マラソンなど。(一社)ADI災害研究所理事、大阪府赤十字血液センター「献血推進大使」、航空通信士、航空無線通信士。

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