本館建て替え間近、ホテルオークラ東京「ラ・ベル・エポック」有終の美を飾るフェア
建て替え間近のホテルオークラ東京 本館
「オークラフレンチの軌跡からホテルオークラの奇跡をなぞる」でもご紹介したように、ホテルオークラ東京は本館を9月1日から建て替え、別館だけで営業することになります。
ホテルの建て替えについて、記憶に新しいところでは、パレスホテル東京が2009年1月31日に閉館した後に2012年5月17日にオープンし、東京ステーションホテルが2006年3月31日に閉館して2012年10月3日にオープンしており、いずれとも建て替えの間は完全に休業しているのですが、これに対してホテルオークラ東京はその間も営業しているというのが特徴的です。
しかも、本館を建て替えている間、別館を営業していると言っても、本館のレストランのうちいくつかが別館へと移動して営業するだけに、より事態は複雑になっています。
別館の料飲施設
9月1日以降の別館の料飲施設は以下の通りとなりますが、これを見ていただければ、その複雑さが理解できることでしょう。
- ラ・ベル・エポック&バロン
フランス料理・ワインダイニング 12階 58席 移設・統合
- 桃花林
中国料理 12階 92席 本館より移設
- さざんか
鉄板焼 3階 54席 本館より移設
- 山里
和食・天ぷら 2階 72席 本館より移設
- カメリア
コーヒーショップ ダイニングカフェ 1階 126席
- オーキッドバー
メインバー 12階 60席 本館より移設
- バー ハイランダー
スコティッシュバー 1階 65席
- 久兵衛
寿司 2階 19席 本館より移設
さざんかや桃花林は、移動した直後の9月1日からすぐに営業を開始するということで、その組織力と適応力にはとても驚かされますが、ラ・ベル・エポックは小さからぬ改装が入るため、2ヶ月半の休業を経て9月15日から営業を開始します。
そのため、ラ・ベル・エポックは6月末には営業を終えることになりますが、これが何を意味することになるかと言うと、オークラのフレンチが一旦ここで休止するということになるのです。そして、この最後のラ・ベル・エポックのフェアを飾るのが、フランスでミシュランガイド1つ星を獲得しているフレデリック・シモナン氏のフェアなのです。
気鋭の新世代の料理人
この最後の貴重なフェアは、どうしてシモナン氏とのフェアになったのでしょうか。
営業企画部 広報課 小栗和子氏は「これまで、フランス料理界の重鎮である方をたくさん招聘してフェアを行ってきた。一区切りを付けるこのフェアでは、ホテルオークラ東京が新しく生まれ変わるということもあり、ミシュランガイドで星を獲得してますます注目されている、新しい世代のシモナン氏にお願いした」と説明します。
シモナン氏は「ルドワイヤン」「タイユヴァン」やジョエル・ロブションの系列店で修業し、2010年「レストラン フレデリック・シモナン」をオープンしたかと思えば、1年後すぐにミシュランガイドで1つ星を獲得するという快挙を成し遂げた料理人です。
今回でシモナン氏のフェアが3回目を数えることについては「2011年、2012年とフェアを開催してきたが、その後は都合があわなかったので開催できず、とても残念に思っていた。2年半の時を隔てて、シモナン氏の料理はますます素晴らしくなっているので、私たちも楽しみ」と待望のフェアであったと力を込めます。
加えて「シモナン氏はラ・ベル・エポックのことをよくご存知であるし、ラ・ベル・エポックのスタッフもシモナン氏のことをよく存じ上げている。そのため、本館休業という慌ただしい状況の中でも、スムーズに開催する運びとなった」と述べます。
最後に相応しいフェア
ラ・ベル・エポック シェフ 山本克哉氏は「フェア中にはこのシモナン氏のコース1つだけをご提供する。それだけ私たちが注力しているという表れなので、是非期待していただきたい」と力強く話し、「日本の食材とフランスの食材を見事に融合させながら、初夏の香りを感じられるコースになっている。シブレットなど食材として利用されている野菜の花をふんだんに用いて華やかに仕上げた。ケールやアスパラソバージュなど注目されている野菜も使っている」と自信を持ちます。
こういった招聘については「黄金時代のホテルオークラのフレンチを大切に継承していくことはもちろん、最新のフレンチも取り入れていかなければならない。そのため、海外からシェフを招聘して刺激を受けている。私も昨年フランスにあるシモナン氏のレストランで研修するなどして、常に新しいものを取り入れるようにしている」と話します。
山本氏の話を受けてシモナン氏は「45年間にわたり、私の師匠であるジョエル・ロブション氏やマルク・マルシャン氏なども含めて、多くの料理人がホテルオークラ東京へ招聘され、本場のフランス料理を広めてきた。そういった方々に続いて、3回目のフェアを開催できたことは実に光栄だ」と喜びを表し、「ラ・ベル・エポックの最後を飾るフェアに参加できることを心から誇りに思う」と真剣に述べます。
海外へ研修も
ところで、ラ・ベル・エポックが休業している間、スタッフはどうしているのでしょうか。
広報課 課長 久住尚寛氏は「スタッフは海外などに長期間、研修へ行ってもらう。そこから新しいことを学んで持ち返ってもらうので、再びオープンするのを期待して待っていただきたい」と述べる一方、小栗氏は「別館だけになり、スタッフの数も増えるので、お客様にこれまで以上に手厚いおもてなしができる」と述べます。
再びオープンした後では「ランチとディナーだけではなく、朝食でもご利用できるようになる。オーキッドルームでもご好評いただき、多くのメディアに取り上げていただいたフレンチトーストもお召し上がりいただける」と紹介します。
古きよき時代の継承
「ラ・ベル・エポック」はフランス語で「古きよき時代」を意味しますが、ホテルオークラ東京の本館は、世界の著名人から取り壊し反対の声が挙がるほど、芸術性や伝統美に溢れており、その中でも特に有名なのはロビーにあるオークラ・ランターンでしょう。
小栗氏は「オークラ・ランターンの照明器具で親しまれてきたロビーは、これまで商用利用を一切行ってこなかった。ロビーはどなたさまにも、無料で心地よく過ごせる場所でなくてはならないという考え方があった。50周年記念の時でさえ、ロビーを使って何かをするというイベントは行わなかった。ただ、閉館するにあたり、あまりにもご要望が多かったので、最後の思い出にとウェディングのセレモニーをロビーで行えるようにした。昨年11月に告知し、この6月に8組さまがロビーでセレモニーを行う」と述べます。
「ご結婚された新婦のご両親は、ホテルオークラで挙式を行い、よくロビーで待ち合わせをしていらした。そのロビーで娘が挙式することになったのは非常に感激とお話されていた」と小栗氏が語るエピソードが示唆するように、不変であるものや壊されないものなど何もなく、伝統や芸術や美しさは人によって受け継がれていくものであると私は思うので、本館の建て替えにただ反対するのではなく、新しいホテルオークラ東京がいかに自身の伝統を継承していくのかを、一足先に継承されて新しくなるラ・ベル・エポックのフランス料理を味わいながら、静かに見守っていきたいのです。
情報
詳しくは公式サイトをご確認ください。
参考
レストラン図鑑にもラ・ベル・エポックが詳しく掲載されていますので、ご参考にどうぞ。