Yahoo!ニュース

一部で「100円賭博」などとも評されているwebサービスについて

木曽崇国際カジノ研究所・所長

さて現在、ネット上でプチ炎上を起こしているスマホアプリ「得Buy」に関して、twitter側で私の見解を示して欲しいとの要望を賜っております。得Buyとは「100円で夢ゲット」なるキャッチコピーで現在利用者を急速に増やしている自称「共同購入サイト」でありまして、特定商品の共同購入希望者をひと口100円で募り、全応募者のうち偶然に選ばれた一人だけが実際の商品を獲得できるというサービスであります。

得Buy!

https://www.tokubuy.jp/

当該運営元の説明ではあくまでこれは「共同購入」であるとの表現を貫いているわけですが、当然ながら巷では「実質賭博だろ」なる批判が巻き起こっており、現在ネット上でプチ炎上とあいなっておるわけです。で、本サービスに関する私なりの見解となりますが、個人的には控えめに見て景表法違反、最悪の場合は富くじ罪あたりかな、と見ております。

まず景表法違反の可能性に関してですが、運営元はこれを「商品の共同購入」と表現していますが、実際に消費者がこの運営元から購買をしているのは「商品の共同購入を行う権利」を示す「コイン」と呼ばれるデジタルアイテムであります。消費者はこの「コイン」を各商品に賭し、その商品の獲得権を争うゲームを行っているわけで、この「得Buy」のサービスを正確に表現するのならば「100円のコイン購買に対して、抽選で景品を提供している」ということになります。

そして景品表示法は、取引に付随する景品類に対して最高額として「取引価額の20倍、もしくは10万円の内どちらか低い方」という上限価額を定めているわけです。この観点で現在「得Buy」で提供されている物品を見ると、例えば以下の二つの物品。

画像

シャープのモバイル型ロボット電話ロボホンは実勢価格で19万2879円、MacBook Pro13インチは実勢価格で14万2800円であり、明らかに景表法の定める景品上限価格を越えているわけです。その他、当然ながら「得Buy」のサービス内で散見される2000円以上の価額の景品を100円のコイン購買に対して提供している場合も景表法違反になると思われます。

次にこのサービスに対して巷で言われている「実質賭博」という表現に関してですが、これがなかなか悩ましい。賭博罪の成立には「1)偶然の勝敗により、2)財物・財産上の利益の、3)得喪を争うこと」という3要素が必要です。まず偶然性ですが、得Buyの運営側の説明によると当該抽選は気象庁の提供する地上気象データを元に計算される「ラッキーナンバー」を元に抽選が行われるとされており、そこには十分に「偶然性」が含まれて居ます。

次に「財物・財産上の利益」ですが得Buy上で扱われている物品は全て刑法の言うところの財物にあてはまるわけですが、実は刑法賭博罪には「ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときはこの限りでない」という例外規定が定められておりまして、一次の娯楽に供する物の得喪を争うことは罪にあたりません。この「一次の娯楽に供する物」に関しては現在の運用上「1万円を超えない範囲の日用品」もしくは「飲食物などその場ですぐに費消されるものの代金」と解されるのが一般的であり、その目で改めて得Buyが扱っている物品を見ると先に示したロボホンやMacBookなど、得Buyでは一部その基準から大きく外れる物品が扱われているのは確かなようです。

しかし、実は最後の「得喪を争うこと」の要件が実はこの得Buyに関してはあてはまりません。得喪とは「ゲームに参加した結果、当該人物が財物・財産上の利益を『獲得する』もしくは『喪失する』の双方向関係が成立した状態」を表す表現です。実はこの「得Buy」サービス、共同購入という名目でサービスを享受する消費者側は最低価額100円のコインを賭した結果それを失う、もしくは物品を獲得するという得喪関係を持っているのですが、一方でこのサービスを提供する側にいる運営元はこのゲームの仕組み上、金が儲かることはあっても、何かを喪失することはないんですね。ですので、少なくともこのゲームの提供において運営元が賭博罪で引かれるということはありません。

ではこの得Buyに刑法上の違法性が全くないのかというと、実は賭博罪とは別罪として刑法187条に定められる富くじ罪が適用される可能性があります。刑法上で罪とされる富くじとは、

一定の番号札や券を販売し、その後抽選など偶然的な方法で購入者の間に不平等な利益を分配すること

と定義されており、先に挙げた賭博罪と異なり得喪を争うという概念が含まれておりません。また得Buyの運営元がいうところの「共同購入者」のうち、最終的に一人しか結果的に実際の商品を手にする事はできないわけですから、富くじ罪の成立要件である「購入者の間に不平等な利益を分配すること」も満たしているといえます。

一方で法的論争となるであろうポイントが「一定の番号札や券を販売し」という部分。得Buyでは、彼らの言うところの共同購入者に対して購入番号と呼ばれる8桁の番号が発行され、その番号をベースに実際の商品の獲得を決する仕様となっているようです。しかし、これはあくまでネット上で発行されるだけのものであり実際の札や券を販売しているワケではないですので、これがインターネット普及よりも前に作られた刑法富くじ罪として定められるところの「番号札や券」に該当するかどうかに関しては、司法の判断を仰ぐ必要があるものと思われます。

そして、実は実際、富くじ罪とは別に刑法186条で定められる賭博場開張等図利罪においては、2015年10月福岡高裁で争われたネット賭博に関する裁判において「電子空間上の賭場は刑法の定める賭博場にはあたらない」という判決が出された裁判例もあります。(但し、当該判決では常習賭博罪は適用されたので無罪にはならなかったが)

ただ、警察はこの種のサービスに対して基本的に容認のスタンスを取る事はないですから、今は一部で騒がれているだけのこの「得Buy」が、今後、継続的に運営が行われ、益々サービス規模が拡大し、その社会的影響力が高まれば、いずれかの時点で摘発に動くものと思われます。その先でどのような法的判断がなされるのか。この辺りを専門とする研究者としては引き続き興味深く見守って参りたいと思うところであります。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

木曽崇の最近の記事