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少子化と経営難が生んだ 大学野球のレベルアップ

大島和人スポーツライター
17日に大学野球選手権の決勝戦が行われる明治神宮野球場(ペイレスイメージズ/アフロ)

「学生数三ケタ」の小規模校に潜む才能

スポーツの楽しみ方は人それぞれだが、筆者にとって最大の喜びは「未知との遭遇」「才能の発見」だ。毎年6月に開催され、今年も17日に決勝戦を迎える全日本大学野球選手権大会は毎年のようにサプライズがある。プロ野球、高校野球の甲子園大会に比べて「知名度が低いのに実力は高い」という選手が圧倒的に多い。

今大会のベストピッチャーは伊藤大海(苫小牧駒澤大2年/北海道学生野球連盟)だろう。175センチ・80キロの右腕で、最速150キロ台の速球と、130キロ近い球速でカーブのように大きく曲がるスライダーは圧倒的だった。

野手では米満凪(奈良学園大4年/近畿学生野球連盟)が最大の発見だった。170センチ・67キロと小柄な左打者だが、初戦の立命館大戦は4打数3安打で本塁打も記録。何より俊足が圧巻で、1試合で4盗塁を決めている。彼らの才能は明らかで、伊藤と米満は22日に始まる侍ジャパン大学代表選考合宿に追加招集された。

富士大(北東北大学野球連盟)は既に山川穂高(西武)のような一流選手を輩出しているが、今年も人材の宝庫だった。村上英、佐々木健、鈴木翔天の三枚看板は今大会こそ実力を示せなかったが、ドラフト候補として名前の挙がる存在だ。

苫小牧駒澤大、奈良学園大、富士大には、学生数が三ケタ(千人以下)の小規模校という共通点がある。早稲田や明治のような大規模な私立大ならば全学で3万人以上が在学し、1学年に四ケタ(千人単位)の学生がいる学部もある。それに比べればケタ違いの規模感だ。

大きく上がった平均レベル

大学野球といえば神宮球場でリーグ戦を開催している「東京六大学」「東都」を想像する方が多いはずだ。その中でも東京六大学野球連盟は日本で最も長い伝統を持つリーグで、プロではない彼らが一競技に一つしか出されない天皇賜杯を受けている。

六大学、東都1部に参加しているのは伝統のある、知名度も高い多い大学だ。齋藤佑樹(早稲田実業→早稲田大→日本ハム)や東浜巨(沖縄尚学→亜細亜大→ソフトバンク)のような「ドラフト上位級」も毎年のように入学してくる。

大学ラグビーは帝京が全国大会を9連覇中だが、大学スポーツはどの競技でも「全国タイトルを取りそうなチーム」が限定される。しかし大学野球は裾野が圧倒的に広く、大都市のブランド私大でなくとも全国レベルに到達する例が多い、2016年の選手権優勝校である中京学院大もやはり「千人以下」の小規模校だった。

加えて大学野球選手権に足を運び続けて感じるのは、平均レベルの劇的な向上だ。初出場で2勝を挙げた宮崎産業経営大は好例だが、学校やリーグの「格」で勝負が決まらない混戦状態になっている。

特に投手力の底上げは顕著で、今大会も4番手、5番手クラスが140キロ台の速球を投げる例がざらだった。東日本国際大(南東北大学野球連盟)はプロ選手の輩出歴がない、やはり「学生数三ケタ」の大学だが、今大会は登板した4投手が全員140キロ台を計測していた。

しかも今は身長170センチ前後の「一般人体型」がそれくらいの球速を出す。つい10年前、15年前まで、140キロ台は「才能に恵まれた本格派」だけが越えられる壁だった。今はウエイトトレーニング、サプリメント摂取、動画によるフォームの確認と修正といった手法が一般化し、140キロ台は出場投手の過半がクリアする「低い壁」になった。

27連盟が横一線の混戦状態

野球以外の競技は大学のリーグ戦が「ピラミッド構造」になっている。ラグビーに限れば関東大学対抗戦、関東大学リーグ戦という1部リーグの並立例もある。ただ一般的には東北、関東、東海といった地区ごとに枠組みがあり、1部を頂点として下に広がっていく。大学サッカーは全国に「1部リーグ」が9つしかなく、関東と関西に有力校が集中している。

しかし大学野球は全国に27個の連盟があり、北海道や東北、九州にも競争力を持つチームがある。全てが「1部リーグ」で、全国大学野球選手権の出場枠を持っている。

東都は4部リーグまであるが、一般的には2部止まりが多い。東京六大学、関西学生連盟などは「クローズリーグ」で下部リーグとの入れ替えがない。つまりピラミッド構造でなく、フラットな横展開が大学野球界の特徴だ。地方の小規模校でも、学校として伝統が無くても「下剋上」を起こしやすい。

小規模校だからこそ野球に力を入れる動機もある。苫小牧駒澤大は学校により公開されている在学者数(2018年5月1日現在)が155名。(※リンク)このような学校法人にとって、野球部は学生を集める貴重な手段になる。苫小牧駒澤大、富士大は学生総数に占める野球部員の割合が30%近く、学校経営的にも野球部に投資する意味が大きい。

研究文化、学業の場としての魅力を創り出す作業に比べれば、「スポーツに取り組む環境の整備」は時間と手間がかからない。大学野球は4部・5部からの下積みが不要で、強化の手法が一般化した今はチームが全国レベルに到達する可能性も高い。そのような背景が大学野球界の活気と、ボトムアップを生んでいる。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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