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SMの女王様、毒母、親孝行の娘まで。今度は特殊詐欺犯の青年を翻弄する危うい(?)盲目の女性役に

水上賢治映画ライター
『ワタシの中の彼女』で主演を務めた菜 葉 菜  筆者撮影(2021年撮影)

 いったい彼女は、どれだけの顔をもっているのだろうか?

 こちらにそう思わせるほど、ここのところさまざまな顔を見せてくれているのが女優の菜 葉 菜だ。

 2022年の幕が開けて少しした2月公開の「夕方のおともだち」ではSMの女王様を演じ、続く出演作「ホテル・アイリス」では毒母がちょっと含まれたホテルの女主人、北京冬季オリンピックの期間中に流れたクボタのCMでの父想いの娘役は大きな反響を呼んだ。つい先日まで放送されていたNHK連続ドラマ「つまらない住宅地のすべての家」では物語の鍵を握る脱獄囚を演じていた。

 そして、新たな主演映画「ワタシの中の彼女」では、新たな4つのまったく違う顔を見せてくれる。

 新たにどんな顔を見せてくれているのか?菜 葉 菜に訊く。全六回

『ワタシの中の彼女』で主演を務めた菜 葉 菜  筆者撮影(2021年撮影)
『ワタシの中の彼女』で主演を務めた菜 葉 菜  筆者撮影(2021年撮影)

浅田さんの役への向かい方にすごく刺激を受けました

 前回(第四回はこちら)は、第三章にあたる「ゴーストさん」について訊いた。

 そこで、浅田美代子との共演を待ち望んでいたと語った菜 葉 菜。

 では実際に共演してみて、どんな印象をもっただろうか?

「月並みな言い方になってしまうかもしれないですけど、すごく勉強になったというか。浅田さんの役への向かい方にすごく刺激を受けました。

 浅田さんは自分が演じる役のこともすごく考えるんですけど、相手役のこともすごく考えていて、その相手役の役者さんのこともすごく考えていらっしゃる。

 役と役が向き合ったときに、その二人がそのシーンにおいてきちんと調和がとれたやりとりをしているか、すごく考えいらっしゃある。

 その場面がきちんと成立するバランスのようなものをすごく考えているんです。

 だから、たとえば、サチとカヨコがお互いの過去を話すシーンがありますけど、そのときとか『ここのサチは本心としては深刻だけど、言い方としてはそこまで深刻ぶらずに軽い感じで打ち明ける感じだよね。だとすると、わたしはサチの波長に合わせながらも、その後のことを考えるとちょっとシリアスな雰囲気も入れたほうがいいかな』とかおっしゃるんです。

 すごくバランスに気を遣っていらっしゃって、こちらの意思を汲んでくださるのでありがたかったです。そのことでサチを演じる上で気づかさたことがいくつもありました。

 それから、今の話につながるんですけど、サチとカヨコは、役の上でお互いを支え合っているというか。お互いが時に光に、時に影となって、それぞれを浮かび上がらせているようなところがある。

 たとえば、サチがちょっと明るく振る舞っているとき、カヨコがちょっと陰のあることを言うことで、それぞれの人としての輪郭がみえてくるようなところがある。

 会話にしても、そこでどう動くのかにしても、そこでの佇まいにしても、二人のバランスがすごく重要で。そのバランスがちょっと崩れると、まったく伝わらないものになってしまう。

 二人のバランスがとにかく重要だったので、浅田さんに助けられました」

オムニバス映画『ワタシの中の彼女』の一編『ゴーストさん』より
オムニバス映画『ワタシの中の彼女』の一編『ゴーストさん』より

40代前半の盲目の女性・トモコ役への取り組み

 ここからは、第四章「だましてください、やさしいことばで」の話を。

 本作で菜 葉 菜が演じるのは、40代前半の盲目の女性・トモコ。

 足の悪い母親と暮らしている彼女だが、そこに弟の同僚だという青年・タケオがやってくる。

 タケオによると「弟の体調が急変した」とのこと。入院が決まったので「至急お金を用立ててほしい」という。

 お気づきだと思うがタケオは詐欺の受け子だ。

 作品は、騙そうとする青年と、騙されそうな目の見えない女性のやりとりが思わぬ方向に進んでいく様が描かれる。

 設定としては昨年公開された中村真夕監督の「親密な他人」と通じるところがある。

 「親密な他人」が人間の心の闇に深くわけいったのに対し、こちらの「だましてください、やさしいことばで」は人間の良心および改心に目を向けたところがある作品になっている。

 まず、トモコの役作りに関してこう明かす。

「はじめに『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』(※視覚障害者の案内によって、光を遮断した暗闇の中で、視覚以外の様々な感覚やコミュニケーションを楽しむエンターテイメント)に行きました。

 そのあと、実際の視覚障害者の方とお会いして、お話をお聞きする機会をもつことができました。

 そのときのお話を参考にしながら、たとえば目をあけているタイプの人か、それともつぶっているタイプの人かとか、監督と話し合いながらトモコを作っていきました」

盲目の女性を演じる上で参考にした作品は?

 ひとつ参考にした作品があったと明かす。

「弱視の男性写真家を主人公にしている河瀨直美監督の『光』を少し参考にさせていただきました。

 というのも、弱視の男性写真家を演じられた永瀬正敏さんに『光』のときの役作りについてのお話をきいていたんです。

 『赤い雪 Red Snow』で共演したときに、現場の空き時間とかに永瀬さんが『光』の撮影時のことを話してくださって、わたしも盲目の方の役とかどうやって役作りをしていったのか興味があったので、聞いていたんです。

 今回、トモコを演じることになって。そのときのお話を思い出して、参考にさせていただき演じました」

オムニバス映画『ワタシの中の彼女』の一編『だましてください、やさしいことばで』
オムニバス映画『ワタシの中の彼女』の一編『だましてください、やさしいことばで』

みなさんに彼女はどう映るのか、すごく楽しみ

 「だましてください、やさしいことばで」というタイトルから察しがつくかもしれないが、本作は、盲目の女性・トモコが特殊詐欺にひっかかる、といった単純なストーリーではない。ちょっと危うい、ドキッとするようなストーリーが展開し、トモコもまたドキッとさせられる人物になっている。

「そうなんです。

 もうみなさんに自由にとらえてほしいので、あまり深くお話はしませんが、トモコはお金をなんの疑いもなく差し出すんですけど、それも本当に騙されているのか、それとも……というところがある。

 見方によっては、トモコ、なかなかの人物で。ちょっとつかみどころがないんですよね、彼女は。

 ちょっとこの状況を楽しんでいるようにみえなくもない。

 真意がどこにあるかわからない人物なので、みなさんに彼女はどう映るのか、すごく楽しみです」

(※第六回に続く)

【菜 葉 菜インタビュー第一回はこちら】

【菜 葉 菜インタビュー第二回はこちら】

【菜 葉 菜インタビュー第三回はこちら】

【菜 葉 菜インタビュー第四回はこちら】

『ワタシの中の彼女』ポスタービジュアル
『ワタシの中の彼女』ポスタービジュアル

オムニバス映画『ワタシの中の彼女』

監督・脚本 中村真夕

『4人のあいだで』 

出演:菜葉菜 占部房子 草野康太

『ワタシを見ている誰か』

出演:菜葉菜 好井まさお

『ゴーストさん』

出演:菜葉菜 浅田美代子

『だましてください、やさしいことばで』

出演:菜葉菜 上村侑

全国順次公開中

公式サイト http://watakano4.com/

最新の劇場公開情報はこちら → https://watakano4.com/#theater

場面写真はすべて(C)T-Artist

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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