いったい彼女は、どれだけの顔をもっているのだろうか？

　こちらにそう思わせるほど、ここのところさまざまな顔を見せてくれているのが女優の菜 葉 菜だ。

　2022年の幕が開けて少しした２月公開の「夕方のおともだち」ではＳＭの女王様を演じ、続く出演作「ホテル・アイリス」では毒母がちょっと含まれたホテルの女主人、北京冬季オリンピックの期間中に流れたクボタのＣＭでの父想いの娘役は大きな反響を呼んだ。つい先日まで放送されていたNHK連続ドラマ「つまらない住宅地のすべての家」では物語の鍵を握る脱獄囚を演じていた。

　そして、新たな主演映画「ワタシの中の彼女」では、新たな４つのまったく違う顔を見せてくれる。

　新たにどんな顔を見せてくれているのか？菜 葉 菜に訊く。（全六回）

これまでにないチャレンジをさせていただけた感覚はあります

　はじめに本作「ワタシの中の彼女」は、四編の短編で構成されたオムニバス映画。

　「親密な他人」の中村真夕監督が手掛け、コロナによって大きく変わってしまった日常の中で、孤独や不安を抱えながらも、生きる４人の女性の姿が描かれる。

　その４人のヒロインを演じているのが菜 葉 菜だ。

　本作のはじまりは2020年に発表された短編映画「４人のあいだで」（※今回のオムニバス映画の第一章ともなる）。

　大阪アジアン映画祭で Japan Cuts Award を受賞するなど、国内外の映画祭で話題を呼んだ同作に、菜 葉 菜が主演を務める短編映画を新たに３編加える形で１本の映画となった。

「今回の作品は、まず『４人のあいだで』があって、そこから新たに３つの短編を作ることになりました。

　その中で、中村監督がもともと書き進めていた脚本もあれば、新たにという脚本もあって。その脚本を詰めていく段階で、キャストも交えていろいろと意見交換をしていきながら作り上げていきましょう、みたいなスタンスだったんです。

　だから、率直に自分の意見をぶつけたり、俳優として違和感のあるところは言うみたいな感じでした。最終的には、中村監督の判断に委ねられるんですけど（苦笑）。

　役者としては出来上がった台本を渡されて、『はい、こういう役です。あとはよろしくお願いします』と言うのではなく、わりと作品の入り口からというか。

　脚本を作り上げていくようなところからかかわるような形でした。

　そういう意味では、これまでにないチャレンジをさせていただけた感覚はあります。

　ただ、ちょっと後悔というか。これはどの作品でも常に思うことではありますけど、『もっとできたことがあったのではないか』という思いは残っています。

　今回はそういう形で、初期の段階からかかわったこともあったので、『もっとできたことがあったのではないか』という思いをより強くいま感じています。

　あんまり時間がなかったこととかを言い訳にしたくはないのですけど、もっと中村監督と役について徹底議論したり、役をじっくりと丁寧に作り上げていったりすることができたかもしれないなと。もっとがっつり組むことができたのではないかという思いがあります」

『菜 葉 菜地獄だ』と思われないか心配です（苦笑）

　そういう意味で、映画作りの難しさを味わったという。

「先ほどの話の繰り返しになりますけど、これまでは出来上がっている脚本があって、そこに自分の演じる役があって、その人物に時に共感したり、時に反感を覚えたりしながら、掘り下げていく。さらにわからないことや疑問点は監督と話し合って作り上げていく。出来上がっている台本と監督を信頼してやっていく形でした。

　でも、今回は出来上がる前からかかわりはじめているから、より『なにかできることがあるんじゃないか、違った表現があるんじゃないか』と思っちゃう。

　ゆえに演じていても、心が揺らぐというか。『こういう方がいいかもしれない、いやこうじゃないんじゃないか』とけっこういろいろと探りながら臨んでいたところがあった。

　わたし自身がみると、その揺らぎが見事にいい方へと向いているところもあれば、『ここはもうちょっとできたことがあったのではないか』といまだに思うところがあるんですよね。

　そういう意味で、改めて役者として映画とどう向き合うのか、その難しさを味わった気がします。

　ただ、役者としては新たな挑戦させていただけたことは確かで。

　現代を生きるという共通項はありますけど、まったく異なったタイプの４人の女性を演じることができた。

　こういう機会はそうあることではない。ですから、わたしとしてはとても楽しかったです。

　でも、見てくださる方は、金太郎飴状態というか、どこを切っても出てくるのは菜 葉 菜で。

　『菜 葉 菜地獄だ』と思われないか心配です（苦笑）」

（※第二回に続く）

オムニバス映画『ワタシの中の彼女』

監督・脚本　中村真夕

『4人のあいだで』　

出演：菜葉菜 占部房子 草野康太

『ワタシを見ている誰か』

出演：菜葉菜 好井まさお

『ゴーストさん』

出演：菜葉菜 浅田美代子

『だましてください、やさしいことばで』

出演：菜葉菜 上村侑

11月26日（土）よりユーロスペースほか全国順次ロードショー

公式サイト　http://watakano4.com/

場面写真はすべて（C）T-Artist

＜初日舞台挨拶決定！＞

日程： 2022年11月26日（土）

場所： ユーロスペース スクリーン1

時間： 19：30 ～の回上映前

登壇： 菜葉菜、草野康太、好井まさお (井下好井)、上村侑、中村真夕監督