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中国・蘇州のバス停で襲撃された女性が死亡 日中のSNSにあふれる、故・胡友平さんへの哀悼と感謝の言葉

中島恵ジャーナリスト
半旗が掲げられた在中国日本大使館(同大使館のウェイボーより筆者引用)

6月24日に中国江蘇省蘇州市内にあるバス停で、日本人の親子と中国人女性が襲撃された事件で、重体となっていた中国人女性が死去したことがわかった。

日中のSNSには、亡くなった女性、胡友平さん(54)への哀悼と感謝の言葉が大量に書き込まれており、蘇州市民が事件現場に献花するなど、悲しみに包まれている。

中国メディアが一斉に報じた

亡くなった胡さんは、事件が発生した当日、蘇州日本人学校のスクールバスが停車するバス停で、子どもたちの案内係を担当していた。容疑者(52歳、無職)男性が日本人親子を襲ったあと、バス内に入ろうとしたところを阻止しようとして、刃物で刺された。事件後、日本人親子は命に別状なかったが、胡さんは重体となったあと、帰らぬ人となった。

28日、胡さんが亡くなったことが報道されると、日本と中国のSNSは深い悲しみと哀悼の意、感謝の言葉であふれた。

中国メディアは同事件が発生した後、一切報道していなかったが、27日、蘇州市公安局が胡さんの死亡を発表。「自らの危険を顧みず、勇気をもって犯罪に立ち向かい、多くの人が被害を受けることを防いだ」とたたえた。蘇州市政府は胡さんに「正義を貫く勇気ある人物」の称号を贈ることを決めた。これを受けて、中国の人民網など大手メディアも一斉に報じ始めた。

これ以前、中国の微博(ウェイボー)などのSNSでは、在日中国人や、日本語がわかる中国人などが、日本メディアの報道を引用する形で、同事件について投稿。多くの日本人が、重体となった中国人女性のことを心配しており、回復を祈っていると中国の友人らに中国語で紹介していた。しかし、それらはあくまでも個人のSNSによる発信であり、大手メディアは沈黙していた。

だが、中国人女性の死去により、一転して、中国の大手メディアが報道を始めた。北京にある在中国日本大使館も胡さんの死去を悼み、半旗を掲げると同時に、金杉憲治・駐中国大使が哀悼の意を表明。中国当局と連携し、在留邦人の安全確保に全力を尽くすと述べた。在上海日本総領事館の赤松秀一総領事も胡さんへの深い敬意と感謝を述べた。中国外務省の毛寧報道局長も会見で胡さんの行動をたたえた。

中国人が書き込んだコメントの数々

日本のSNS上でも衝撃が走り、身を挺して日本人親子、児童らを救った胡さんに対して哀悼と感謝の言葉が次々と書き込まれているが、中国側も同様だ。28日昼すぎ以降夕方まで、微博の検索ランキングで第1位となった。

在中国日本大使館の微博(28日、午後7時30分時点)に、半旗を掲げた写真とともに哀悼の意が表明されると、「いいね」は約17万5000件、コメントは約1万3000件寄せられた。コメント欄には、以下のようなコメントが並んだ。

「彼女は無垢の子どもを守った。また、中国人の尊厳も守った」

「日本大使館が半旗を掲げて彼女に哀悼を示してくれた。胡さん、やすらかに」

「ごく普通の一蘇州市民として、この勇敢で善良な女性に敬意を示したい」

「(胡さんの下の名前である)友平というのは、和平(平和)と友好の文字から1文字とって、できていますね。友平さん、ありがとう」

「胡さん、54歳だったのね。あと1カ月で定年退職だっただろうに……安らかにお眠りください」

容疑者の犯行の理由は明らかになっていないが、胡さんの死が無駄にならないことを祈りたい。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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